表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『日本改造計画』  作者: 桃太郎
総統爆誕
2/32

皇居会談

 どうしても、皇居内に入らなければならない。それも陛下に直接拝謁しなければならない。

 多少の無理を言って、総理大臣の『付き人』として、皇居入りできた。

 本来なら、総理大臣任命式の打ち合わせなど、宮内庁の役人が行うものだ。

 慣習は、慣習である。生まれて初めて総理になる人物に、訓示を述べる。

 その様な大義名分で、今皇居の一室には、陛下、宮内庁の役人、総理、私がいる。

「……以上が説明になります。」

 説明自体は、簡素な物だった。前回の総理大臣任命式を録画した物を再生。

 そこに宮内庁の役人が、注釈を加えただけだ。質疑応答込みで約1時間で終わった。

 ここからが、本番。まずは、打ち合わせ通り、総理が口を開く。

「これから、私は、様々な『改革』を断行します。その際に、大変恐縮ですが、

 陛下にご協力を願います。」

「あのぉ、私の聞き違いか、何かの冗談でしょうか。陛下にご協力とは。総理。」

 陛下に応えさせてはならぬと、応じた宮内庁の役人だった。

「では、ここから先は、彼の出番です。どうぞ。」

「ありがとうございます。僭越ながら『静聴』し、『傾聴』し、『拝聴』願います。

 私の『令和日本改造計画』を!」

「何ですか! その無礼極まる発言は! それに、陛下に協力など言語同断!

 そもそも、あなたは日本国憲法を知らないのですか!…………」

 大声を出し過ぎたのか、咳き込み、お茶でのどを潤す宮内庁の役人。

「『日本国憲法第一章第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、

 この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。』

 勿論、存しております。」

「では!」

 なおも言いつのろうとする宮内庁の役人を、止めたのは、他ならぬ陛下だった。

「聴かせて下さい。あなたの『令和日本改造計画』を。」

「ありがとうございます。では、陛下に置かれては、ご存じなのですね。

 『令和日本改造計画』が、必要な理由を。」

「そこからお願いしますよ。」

「では、日本の出生率です。これは、一定期間の人口に対する出生数の割合です。

 一昨年の数字で言えば、1.24人です。ちなみに、1970年は、2.13人。

 あの頃は、良かった。人口もGDPも賃金も、全て右肩上がりでした。

 このままでは、1人を下回る日も遠からじですね。如何に思われます。陛下。」

「心を痛めます。」

「では、何故こうなったのか。勿論、複数の要因が複雑に絡み合う事疑いの余地ありません。

 政治が悪い。経済が悪い。物価が高い。子供を産んでも食わせていけない。

 が、根本原因は、意外な所に、ございます。」

「ほぉほぉほぉ……その続き、気になります。」

「最大の要因は、ズバリ『日本人の気質』にございます。」

「ほぉ……『気質』ですか……あなたは、その『気質』を如何にお考えか。」

「ズバリ『日本人の気質』とは、『嘘と疑う事を嫌う』事にございます。

 故に、他者の言葉への『疑い』を『ゼロ』に近づけたがります。」

「それは、つまり、日本人は、『疑わない』のではなく、『疑いたくない』と。」

「はい。それに、『疑う』という行為そのものが、膨大な観察力とエネルギーを要します。

 ですから『彼の者が嘘をつく筈無し』と言う者を探し出し、鵜呑みにする。

 疑わない事で、安心と安定と安寧を得る。それこそが、『日本人の気質』にございます。」

「分かってきました。すると、あなたは次に、『テレビ』を話題にしますね。」

「ご慧眼、御見それ致しました。まさしくその通り。『テレビ』を使った印象操作甚だしい。

 しかも、『放送法』と言う法律が、存在する限り、『虚偽情報』など報道できない。

 その国民の思い込みにつけ込んだ邪悪なやり方です。」

「しかし、『放送法違反』なら、『違法行為』なのですから、取り締まればよいのでは?」

「残念ながら、『放送法』には『罰則規定』がございません。故に警察も動けないのです。」

「何と言う……。では、どうすればよいのです。」

「いいですか。国家が、国民に対して重税を課す事も、税金で贅沢な暮らしをする事も、法に触れません。全て合法ですので、警察も取り締まる事、叶いません。

 結果、国民負担率が、49%を超える国になったのです。亡国まで、猶予はありません。」

「しかし、あなたなら、できるのでしょう。ここから逆転する手立てが、あるのでしょう。」

「無論、ございます、が、それには陛下の最大限な『協力』が、不可欠になります。」

「教えて頂きたい。それは、『協力』とは何です。」

「私が、目指す理想国家とは、『明治を超える強大な中央集権型立憲君主制国家』です。

 まず、最上位に憲法が存在します。その次に、君主。その次に、法律と制度。

 その次に、総理大臣を核とした内閣、国会、司法、三権分立も法で定義します。

 国民も、同格となります。故に『君主』とは、憲法によって規定された唯一人の『存在』。

 如何なる法や制度でも罰する事能わず。只、憲法と皇室典範にのみ従う御方にございます。」

「その……君主になれと言うのですね。この私に。」

「ご慧眼、御見それ致しました。現状、この国を蝕む病毒は、法に依って裁く事能わず。

 故に、全ての法律や制度の『上位存在』が、必要なのです。

 我が国においては、君主は全ての国民を、君主の意思一つで処罰する権利をお持ちです。

 勿論、陛下のお手を煩わせぬよう、陛下が任命した臣下の者が、悪を調査します。

 その者からの報告連絡相談を受けた陛下が、書類に署名されれば済むよう図らいます。」

「しかし、君主が暴走し、罪なき国民を処罰する暴君になった場合、どうします?」

「念の為、国民投票で、君主の譲位退位を強制する条文を盛り込みました。憲法に。」

「……ならば、一安心。ならばこそ、如何に実現するのでしょう。」

「……そうですね。そろそろ頃合いでしょう。私の憲法改正手段を披露する。

 時に、現行憲法……日本国憲法発布までの経緯を、ご説明願いましょうか。」

「私が聴いた所では、第二次世界大戦後、占領軍の意向に沿う形の憲法を発布したそうです。」

「私が、受けた義務教育でも同様でした。つまり、これは『前例』となります。」

「『前例』……ですか。」

「『戦争に負けた場合、戦勝国の手で作られた憲法を受け入れなければならない。』

 これが、『前例』の内容です。故に、同じ事を再現するのです。」

「………………………………まさか!」

「ご慧眼、御見それ致しました。陛下が、自ら任命された代理人が、宣戦布告します。

 日本国においては総理大臣が、代表して降伏します。これで、日本国は、陛下の物です。」

「それは、代理人を立てるとは、象徴としての分に配慮した訳ですか。」

「流石、ご慧眼にございます。後は、『君臨すれど統治せず』のご意志で、お任せ下さい。」

「すると、征夷大将軍を復活させるのですか。」

「それこそ、今更ですね。役職名は、『総統』としましょう。今からでも可能です。

 陛下が、私を『総統』に任命なさった瞬間から始めましょう。準備はできています。」

「その準備内容を、確認させて頂きます。」

「はい。こちらが『宣戦布告文書』と『降伏文書』と『新憲法』と『日本改造計画』です。」

「拝見する前に、一つ宜しいかな。」

「何なりと。」

「代理人……『総統』と、日本国総理を同一人物にしなかったのは何故です?」

「二つございます。一つ、暗殺を警戒しているが故でございます。

 一つ、自作自演感を打ち消す為です。故に政党・政界とも無関係である事も必要です。」

「分かりました。拝見します。」

 暫し後、陛下が今日は時刻が遅くなったので、食事をしながらもう少し会話を望まれた。

 承諾すると、私の『日本改造計画』を熱心に聞き入る陛下だった。

 そして、食後に私を『総統』に任命なさった陛下だった。


 * * * 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ