改革への道(アメリカ編)(1)
今日は、第四十七代米国大統領とのリモート会談。参加はしていないものの視聴者がいる。
「で、今日はどんな交渉を持ち掛けて来たのかね。」
心得ているとばかりに、挨拶を省略したのは、既に複数回のリモート会談を経た大統領だ。
「では、お言葉に甘えて本題に入りましょう。今回は、二点あります。
現在、中南米で『アフリカ連邦』加盟希望国がいます。それも、複数か国です。
こちらの申し出は、一つ『アメリカから加盟の圧力』です。勿論、只でとは言いません。
こちらからは『パナマないし及びスエズ運河無償化』です。」
「ほぉ……だが、エジプトと、パナマは、連邦に参加していないではないか。これでは『無償化』できない。しかも、『アメリカから加盟の圧力』とこちらが、一方的に負担がある。
これでは、アメリカの利益にならない。もっと、具体的な利益が必要だな。」
「ならば、パナマないし及びエジプトが、加盟した場合、アメリカの使用料金は増額。
そうですね。十倍にしましょう。」
「おい! お前! だんだんと脅迫が、うまくなっているぞ!」
「ちなみに、今日中に全世界に向けて発表する準備をしております。」
「やめんか!」
「勿論、無期限、最大利用料金も無制限とします。とある大統領の交渉結果です。」
そんな事になれば、アメリカ企業の輸送費は、十倍ですまない。
特に、自動車は、一台作るだけで、多量の鉄が必要だ。その鉄鉱石を輸入に頼っている。
この状況下で『パナマないし及びスエズ運河使用料金十倍』は、痛すぎる。
その原因を作った大統領になりたくない。そう考えるのも無理からぬことだろう。
「………………わかった。エジプトと、パナマの二か国に『圧力』をかければよいのだな。」
「ついでに、コスタリカ、ニカラグア、ケニア、タンザニアもお願いしますよ。大統領。」
「なら、せめて『パナマないし及びスエズ運河無償化』を誓約書にしろ。」
「では、条約を締結しましょう。草案は、メールで送信しました。ご査収の程宜しくお願いします。いいですか、これは、『パナマないし及びスエズ運河無償化』の第一歩です。
くれぐれも、宜しくお願いしますよ。大統領。」
「では、次に、二点目になります。USスチールの件です。」
「それなら、買収は却下だ。株の一部保有にとどめる。これは決定事項だ。」
「ほぉ……ならば、『対日貿易赤字』を放置する訳ですね。大統領。」
「そんな事は、言っていない。だが、日本製鉄は、中国とズブズブだ。
こちらの情報を、守らねばならない。情報漏洩は、断固として阻止する。」
「それは、誤解です。中国は、只の取引相手の一つに過ぎません。
中国に情報を漏洩した事実はありません。こちらの報告書をご覧ください。」
「しかし、日本製鉄が、中国共産党幹部に接待をしとるそうじゃないか。」
「ですから、そうしないと日本製品を買わないと言って来たのです。あちらさんが。
こちらとしては、取引相手を米国に乗り換えたいのです。その為の買収なのです。
ですから、日本だけ株式購入、買収の規制緩和をお願いします。」
「………………………………分かった。検討する。」
「では、三点目です。米国領を売却してください。具体的には、アラスカとハワイです。」
「Whatttt!」
「おや、通訳機の故障ですか。アラスカ州を買った前例があるでしょう。
ですから、売却もあり得ます。欲しいのは、アラスカ州とハワイ州丸ごとです。」
「無茶苦茶だろ! 世論が、炎上する!」
「なら、樺太と、千島列島を全部占領してください。後で、買います。」
「そんなことしたら、第三次世界大戦になる。核の撃ち合いをしたいのか。」
「恐らく、大丈夫でしょう。あちらが、強気なのは、核武装していない国だけです。
核で報復できる国に、そんな事できる訳ないでしょう。ウクライナを見れば明白です。」
「しかし、ウクライナでは、一兵も動かさず停戦できそうなんだ。それを……。」
「ですから、停戦協定を守らないなら、軍事侵攻すると釘を刺して下さい。
これで、むこうが、守らなければ軍事作戦に移行。
なんでしたら、費用をこちらが負担しても構いませんよ。」
「本当か! それなら検討するぞ!」
「まずは、北海道で共同軍事演習と称して、太平洋艦隊を動かしてください。」
このような感じで、終わったリモート会談だった。
* * *
今日もリモート会議だ。参加者は、日本帝国総理、外務省事務次官である。
まずは、全員の挨拶から始まった。
「お疲れ様です。総統閣下。」
「確かに疲れますね。通訳を介しているとは言え『あの』大統領は、面倒くさい。」
「しかし、これで釘を刺す事ができました。『アフリカ連邦』加盟妨害工作をやめる事。」
「だから言ったでしょう。『あの』大統領は、加盟妨害工作をやるに決まっています。」
「外務省でも驚きです。調査の結果、裏がとれました。まさか、ですよ。
『あの』大統領が『アフリカ連邦』加盟妨害工作をやっていたとは。」
「元総理大臣の名言。『人生には三つの坂がある。上り坂、下り坂。』……後は、言うまでもないでしょう。で、『ブラック・パワー』の進捗を報告しなさい。」
「はっ。既に加盟者は、一千人に達し、州の数も七州に渡ります。」
「もっと、強調しなさい。『ブラック・パワー』に所属した黒人を大統領にすると。
日本企業による米国企業の買収。そして、買収した米国企業の黒人雇用増加。」
「私からも一つ宜しいでしょうか。総統。」
「発言を許可します。総理。」
「仰る意味は、分かります。それらの政策で支持者を増やしいずれ黒人の大統領誕生。
ですが、黒人大統領なら前例があります。今更感が、拭えません。」
「何度も言っていますが、全ては米国の民主党を潰す為です。
今まで民主党がやってきた事を思い出してください。原爆投下、スーパー301、中東の平和維持軍撤退に伴う自衛隊の負担増要求。全て民主党がやってきた事ですよ。広島と長崎の大量虐殺犯が、未だに政治活動している。私には信じられません。」
「それで、内政干渉ですか。」
「C国ほど露骨な事はしていません。あそこは、パンダを頼むと領空侵犯する国ですよ。
それに、大統領の動きも予想通りです。報告しなさい。事務次官。」
「はっ。こちらが、『ブラック・パワー党』を立ち上げた事、黒人とヒスパニックを勧誘している事は、ホワイトハウスでも把握していますが、放置しております。総統閣下。」
「当然至極。こちらが、お金をかけて民主党支持者の多くを削っているのですから。
では、報告しなさい。共和党と民主党の白人と黒人とヒスパニックの比率を。」
「はっ。民主党は、白人約4千万人、黒人約1千3百万人、ヒスパニック系約8百万人。
共和党は、白人約5千6百万人、黒人約2百万人、ヒスパニック系約7百万人。
以上になります。総統閣下。」
「いいですか。計画には、『ノルマ』があります。今の大統領在任中に、黒人四割。
これで、民主党は、支持者全体中、一割を失います。が、共和党は損害軽微です。
そうすれば、次も共和党の大統領になるでしょう。次の四年間で、黒人八割です。
これで、黒人だけで、一千万人を超えます。ヒスパニック込みで全人口の一割。
次の々の大統領四年間で、黒人、ヒスパニックの九割九分以上とするのです。
これで、十二年かければ、全人口の二割五分に手が届きます。これがノルマです。」
「私からも二つ宜しいでしょうか。総統。」
「何でしょう。総理。」
「そうすれば、全体人口比率で、共和党6、民主党4、プラック・パワー3となります。
すると、共和党の一党独裁政権ができるだけで、黒人大統領には、繋がらないのでは?」
「よい質問です。総理。そうなれば、増長する。それが人間と言う生き物です。
すると、何か決定的な不祥事を起こした挙句、スッパ抜かれる事でしょう。
その時が、好機です。実績が無いという事を不祥事が無いと言い換えて立候補。」
「それで、以前20年で黒人大統領擁立と言っていたのですね。納得です。
では二つ目、『樺太千島侵攻作戦』の費用負担は、やり過ぎでしょう。」
「大丈夫です。『全額』とは言っていません。後で値切りますよ。」
「ヒデブっ!」
日本帝国総理大臣の「うわぁ……ひでぇ……」は、「ヒデブっ!」と聞こえた様な気がしたが、きっと気のせいだろう。
某世紀末救世主伝説とも無関係に相違ない。
では、三つ目です。今は、アメリカが、アフリカ・マネーを買ってくれています。
が、今後もそれが、続くとは思えませんが、如何お考えです。」
「そうなったら、スエズないし及びパナマ運河の使用料金を増やしてやればいいのです。
十倍でも、なんなら百倍でも構いません。それを交渉材料にします。」
「成程……分かりました。総統。」
「では、全員ノルマ達成の為、民主党を潰す為、働きなさい。」
「はっ。」
* * *
ここから先は、陛下に献上した皇室機密文書の内容だ。
段階は、先程のリモート会議内容の続き、米国で黒人大統領を当選させた後だ。
憲法改正させ、全てのアメリカ在住民にアメリカ国籍を与える。
すると、正規ルートを通さないいわゆる『不法移民』もアメリカ国籍を獲得する。
こうして、中南米から移民を多量受付。で、白人一億人対有色人種一億数千億人にする。
これで、黒人大統領を安定的に輩出できる。すると、北部の白人連中が独立したがる。
そこで、独立を承認し、アメリカを南北で二つに割る。
更に、南部アメリカ……『プラック・パワー共和国』は、地球連邦に加盟。
更に、フロリダ州ヒューストンを廃止。宇宙開発事業をキリマンジャロに統一する。
勿論、国を割るのは、アメリカだけではない。中国、ロシアも民族や地域ごとに割る。
全ては、『地球連邦』『宇宙連邦』で日本帝国が、優位に立つためだ。
* * *