改革への道(欧州編)(1)
今日のリモート会議は、日本帝国総理、外務省事務次官、同省欧州支局長だ。
「挨拶は、不要です。まず、報告しなさい。事務次官。」
「はっ。欧州支局長より報告申し上げます。総統閣下。」
「はっ。報告申し上げます。EUより『うなぎ』を絶滅危惧種に指定するとの事です。」
「では、科学的な根拠……世界の海での漁獲数などの調査結果を見せなさい。」
「ありません。総統閣下。」
「無いとな。つまり、何の根拠もなく、『うなぎ』を『絶滅危惧種』呼ばわりですか……
あいつら、『鯨』で、味をしめたな。また、他国の食文化を破壊する気か。
よし、エネルギー庁長官を呼びなさい。」
「その前に、私から一つ宜しいでしょうか。総統。」
「発言を許可します。総理。」
「それは、今稼働している原発を潰して原爆に転用する気だと言う事ですね。総統。」
「それ以外の聞こえ方をしたのなら、私の言い方が、悪かったのでしょうね。」
リモート会議である。にもかかわらず、空気が凍り付く音が聞こえたような気がした。
「それは、最終手段になりませんでしょうか。総統。」
「最終手段だからこそ、今から準備するのです。まず、『点検』と言う名目にしましょう。」
「あのぉ……第三次世界大戦を起こすつもりでしょうか。総統。」
「あの『チョビー』は、借金を踏み倒すために、第二次世界大戦を実施しました。
私は、日本帝国の食文化保全の為、ヤる。私の方が、より高尚な理由だと断言します。」
「では、せめて経済制裁から始めませんか。総統。」
「手温い。『鯨』で、味をしめた挙句、他国の食文化を破壊する連中を消去。
これは、正義の鉄槌です。そもそも植民地支配の謝罪も賠償もできていません。
核兵器を一国一発で、許されるものはありません。違いますか。」
「では、提案があります。総統。」
「発言を許可します。総理。」
「こちらからヨーロッパ向けに輸出している商品に『逆関税』をかけませんか。総統。」
「成程。それなら全欧州市場が、大混乱する品目を選ぶべきでしょう。
それでいきましょう。では、アフリカ支局長を呼びなさい。」
「時に、お伺いしますが、品目はなにを指定するつもりですか。総統。」
「食文化には、食文化で対抗します。報復もまた、食材とするべきでしょう。」
「はい。アフリカ支局長只今到着しました。」
カメラの範囲内に、写りこむアフリカ支局長だった。
「ご苦労様です。アフリカ支局長、早速ですが、一つ命令です。『アフリカ連邦』に通達。
欧州向けの輸出『砂糖』に、逆関税1000%をかけなさい。」
「は? それでは、価格が10倍になりますが……総統閣下。」
「君、聞こえなかったのかね。総統が、命じたのですよ。復唱しなさい。」
そう発言した日本帝国総理だった。
「はっ。ひっ……ひつれいしましたぁっ! 欧州向けの輸出砂糖、逆関税1000%!
すぐに、手配いたします。総統閣下。」
「それと総理。農水省と協議。日本からも輸出砂糖、逆関税1000%を実施しなさい。」
「その前に、私から一つ宜しいでしょうか。総統。」
「発言を許可します。総理。」
「アフリカには、連邦未加盟の国もあります。それに、アフリカ以外にも生産国はあります。
それらには、どう対処するおつもりですか。」
「簡単です。米国、アフリカには、何もしません。それ以外の国には、二択を迫ります。
欧州につくか、日本、『アフリカ連邦』につくのか。欧州に砂糖を売った国は処罰。
そうですねぇ……加盟後に、一等級降格処分あたりが、妥当でしょう。
それに、所詮は農産物。生産量がいきなり上がることなどありえません。
すぐに、売り切れますよ。その後が見ものでしょうね。
なんなら、欧州の外食産業とケーキ屋を絶滅させる。名づけて『絶滅の刃』!」
「それでは、アメリカから砂糖を仕入れているス●●●●●●ス一強になりそうですね。」
「私は、コ●ダ●●●派ですな。それは、アメリカ資本のチェーン店。大目に見ますよ。
では、最後に今日の記者会見で、私の特別コメントを発表してください。
原稿は、後程メールで、官房長官と総理に送ります。一同分かりましたね。」
「はっ。」
この後、米国支局長とやり取りを終えると、リモート会議は、お開きである。
* * *
時は、定例記者会見。場所は、定例記者会見場。発言するのは、官房長官。
「……最後に、総統閣下より『特別コメント』を頂戴しております。読み上げます。」
そう言うと、懐から封筒を取り出し、そこから出した原稿を広げた官房長官だった。
「諸君、突然だが、うなぎは、好きですか。ちなみに私は、大好きです。
産地にかかわらず、分け隔てなく好きです。
時に、諸君に置かれては、何故うなぎが、あれほど高価なのかご存じですか。
あれは、乱獲とそれに伴う絶滅防止の観点から、漁獲量を制限しているのです。
つまり、需要に供給が追い付いていません。故に、高価なのです。
即ち、日本帝国が、国家万民協力の基、うなぎと言う野生動物の保護に協力しています。
そんな日本国民全員の努力を、踏みにじる輩がいます。ヨーロッパ、EUです。
こともあろうに、『鰻』を『絶滅危惧種』扱いするそうです。
しかも、漁獲量などの科学的情報は、一切提示されていません。つまり事実無根です。
連中は、アジアを植民地支配しただけでは飽き足らず、日本の食文化を侵略する気です。
二度と日本人にうなぎを食べさせない。そのような悪意に満ち充ちています。
言語道断!
これは、戦争です。しかも、先に剣を抜いたのは、ヨーロッパ。
ならば、売られたケンカであり、買わずの選択肢はありえません。
このまま座して黙すれば、クジラの二の舞。うなぎが、食べられなくなります。
しかし、今日本には、私がいます。我が目の黒い内は、決して屈しません。
日本の食文化を守る為、日本人のうなぎを守る為、断固として戦い抜きます。
既に、ヨーロッパは、日本を侵略すると言う愚を犯しました。この対価を払わせます。
まずは、小手調べとして、経済制裁を決行し、敢行し、断行します。
日本と『アフリカ連邦』から、ヨーロッパ向け輸出品に、逆関税をかけます。
品目と税率は、砂糖に1000%です。これで価格は、十倍になります。
恐らく、ヨーロッパも報復するでしょう。が、我らは日本人です。
アジアの植民地支配を失敗させた実績もあります。
挙国一致の精神を以て、ヨーロッパ人の侵略の魔の手から日本とうなぎを守りましょう。
本日は、ご清聴ありがとうございました。」
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