エピローグ
「いやぁ、にしてもびっくりしたぜ。まさかボールがはじけるなんてな」
試合が終了し片付けも粗方終わったところで崚太が口を開き、開口一番にそんなことを言った。
そう、端的に言うと美羽が投げたボールは弾けたのだ。それは景の手元についた瞬間のことだった。破裂音を奏でながら、こう、パーン! って感じで。いやマジでどういうこと?
えーっとつまり、ボールが衝撃に耐えられなかった、そういうことなのだろうか。え? そんなことある? あるんだなぁそれが。だってさっき皆目撃したでしょ。ボールが無惨にパーン! と弾けるところ。百聞は一見に如かずってやつだ。うん、なんか違うような気がするけど。
「でよー。これ結局勝敗はどうなるんだ? 藤城チームの勝ちか? それとも景チームの勝ち?」
確かに。ボールが弾けた場合どうするか誰一人考えてなかった。だってボールが弾けるっていう前提が思い浮かばないもんね。しょうがないよね。
さっきの判定はどうするべきか、それにうんうんと頭を悩ませていたゲーム部部員一同。やや遅れてこの会合にやってきた美羽が、いきなりその結論を出した。
「私の負けでいいわ」
どうやら先程の勝負、美羽は自ら負けを認めるらしい。何故に?
「だってボールが弾けてしまったんじゃキャッチも何もあったもんじゃないでしょう?」
確かにそれはその通りだ。ボールが弾けてしまったんじゃキャッチのしようがない。自ら負けを認めてるんだし、先程の勝負は美羽の負けで決定かな?
「じゃあさっきの勝負は藤城の負――」
「いや、さっきの勝負は僕の負けだよ。美羽」
これまた突如として現れた景が、美羽の頭をポムッとしながら自らの負けを認める。景は先程の勝負、美羽の勝ちだと言いたいらしい。え? どうして?
「どうして? さっきも言ったけどボールが弾けたんじゃキャッチできないでしょう?」
景のポムリンに対し美羽がうにゃーっとしながらも、景の自らが負けである発言を否定する。キャッチのしようがないでしょう? と。
「いや、そんなことはないさ」
景の発言を受けて皆の頭の上に疑問符が浮かび上がる。そんなことはない? どういうこと?
そんな様子の皆を見たからだろう。景は何も言わず、百聞は一見に如かずということで行動に移した。
「加奈。その塵取りを貸してくれるかい?」
加奈が今持っている塵取りの中にはボールの残骸、ボールだったものが集められている。景はこれを使って何かするつもりのようだ。
「いいよーん」
加奈はそれを察してか……いや察してないな、あれは何も考えていない顔だ。と、そんなことはどうでもよくて、加奈は景に塵取りを渡した。
「ありがとう。それじゃあ……ふっ」
加奈から塵取りを受け取った景がとった行動は信じられないものだった。だって塵取りの中に入っていたボールの残骸を空に散りばめたんだもの。これじゃあ片付けがまた一からやり直しになってしまうじゃないか! 景酷い!
「はい加奈。返すよ」
そう言う景の手元には、ボールの残骸を集め終わった塵取りが握られていた。あれ? 景さっきそれ空に散りばめたよね? 何? マジック?
「とまあこんな感じかな」
皆の方に向き直ってそういう景。皆からしたら意味が分からない。何がどういう感じなのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。景は今さっき何をしたんだ?」
こういう時真っ先に質問するのはやはり崚太。こいつは考えるより先に口が動くタイプである。
「なにってそりゃあ――」
景が先程行った行動は酷く単純明快なものだった。
まず皆も見たようにボールの残骸を空に散りばめる。そしてそれを空中でキャッチして塵取りに集め直しただけだ。ほらな? 単純明快だろう?
「に、人間じゃねぇ……」
それを聞いて最初に出た崚太の感想がこれだ。確かに人間業じゃない。念の為床を見てみるが本当に塵一つ落ちていない。
「? 崚太もできるだろう?」
崚太の感想を聞いた景が、思わず崚太にそんな問いかけをする。何でそんなに驚いているんだい? 崚太もできるだろう? と。
「できねーよ!?」
――できると思われていたことに驚きだわ! そんなん景以外……いやまあ藤城はできそうだが……とにかく景と藤城以外できる奴いねーよ!
崚太の心の叫びである。
とここでもう一人驚いている人間が居た。誰かというとそう、那由多である。
――りょうくんさっきのできるの!? ……え、りょうくんってやっぱり人間じゃ……。
那由多よ安心しろ。崚太も、そして景も美羽も人間だ。怖がる必要は無い。
「まあいいや。じゃあつまりこういうことか? 例えボールがバラバラに弾けたとしてもやろうと思えばキャッチできるから、それをキャッチできなかった自分の負けと?」
「そうだね」
つまりあの状況、ボールが弾けたあの時景はやろうと思えばボールの残骸全てをキャッチできたということなのだろうか? ん? じゃあどうしてキャッチしなかったんだ?
「じゃあ何でキャッチしなかったんだ? あの時」
崚太から当然の質問が景に飛んでくる。それに対し景はこう答えた。
「キャッチしなかったんじゃなくてできなかったのさ。恥ずかしながら美羽の全力投球を真正面から受けた結果手足がしびれてしまってね。身体が思うように動かなかったんだ」
まあそういうことだから僕の負けだよ、と。景は美羽の頭を再度ポムッとする。
さて、謎が解けたところで崚太がおもむろに口を開いた。
「ってことはつまり」
続いて那由多。
「この勝負」
続いてつぐみ。
「美羽さんチームの勝利ぃ~、ですかねぇ~」
決着! 今回のドッチボール対決美羽チームの、加奈、那由多、碧依、美羽四人の勝利! そして――。
「今回のMVPは~?」
そう続ける加奈。そのバトンを西宮姉弟が受け取った。
「「美羽姉!」」
そういって両隣から美羽の手を取り、手を高く上げさせる。
「い、いえーい?」
いきなりMVPに選ばれた、というかそもそもMVPがあるなんて知らなかった美羽は若干困惑している。
「因みに何で藤城がMVPなんだ?」
崚太の当然の質問に対し、西宮姉弟が待ってましたとばかりに答える。
「そりゃあ勿論」
「崚太の顔をアンパ○マンにしたから」
「あれかよ!」
次回投稿予定は明日の同時刻です。