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我らゲーム部!  作者: 春風 ほたる
ドッチボール
19/27

茶番大好きゲーム部

「加奈! 加奈、どうして!?」


「そりゃあもちろん、美羽ちゃんを守るためさ……ガクッ」


「加奈? 加奈ー!」


 という茶番があった数分後。試合は滞りなく普通に、かつ自然に行われていた。不気味なぐらい何事も無かったかのように。

 因みにアウトになった加奈はどうなったかというと、まあちゃんと二階に居る。だって美羽が、ちゃんと? 運んだ? から。


 疑問符が付いている理由はあれだ。確かに加奈を二階にやったのは美羽だが、その送り届け方がまあなんというかおかしかったからだ。常人では考えられない送り届け方を美羽はしていた。


 端的に言うと、加奈のことを一階から二階に向かって投げたのだ。こんな風に。


「崚太ー、行くわよー。えいっ」


「何だ藤城? ……って、は? ちょ待っ!?」


 てな感じで。全く……幼馴染にやる所業じゃない。


 これについては加奈も加奈だ。加奈は確かに気絶したふりをしていたが、それはあくまでふりのはずだ。茶番が終わったのなら馬鹿正直に投げられる必要は無いし、何より怖くはないのだろうか。美羽もそうだが、加奈の考えていることもよく分からない。


 そして何だかんだ言って崚太もおかしい。加奈がいくら小柄な女の子といっても、何故投げられた人間をキャッチできる? しかも加奈になるべく負担がかからないようにふんわりと。崚太のやっていることも大概おかしい。


 さて、そんな幼馴染に投げられた加奈だが、今何をしているのかというと安らかに眠りについたふりをしている。何故かというと――。


「二十時一分。ご臨終です」


「惜しい人を亡くしました」


 という茶番を西宮姉弟が行っているからだ。今はまだ全然二十時一分ではないし、加奈は死んでいない。この姉弟、何をしているのだろうか。いやまあ茶番なのは分かるけども。


 そんな茶番を横目に崚太は何をしているのかというと、平然と眼下で行われている試合を眺めていた。


 あれから――加奈がダウンしてから数十分は経ったというのに、未だにボールは最初と変わらぬ尋常ではない速度で行き来している。


 ヒュン、パシ。ヒュン、パシ。


 そう、尋常ではない速度で。


 あの速度でボールのやり取りをしていることは勿論おかしいのだが、この試合においては観客側――崚太とつぐみも大概おかしい。だってあの速度の球が見えているのだから。


「全然アウトにならねーな、あの二人」


「そうですねぇ」


 という呑気な会話までしている。マジであの速度の球が二人には見えているらしい。恐ろしや。


 ――え? りょうくんたちあれが見えてるの!? ボクには全然見えないんだけど……。かろうじて、球があることが分かるぐらいなんだけど……。


 那由多にとって今最も驚愕すべき相手は崚太とつぐみのようだ。だって那由多にとって美羽と景が尋常ではないことなんていつものことだもの。那由多にとって美羽と景の二人は超人であり、それ以外のゲーム部の皆はまだ一般人なのである。まあ一人ターミネーターか怪しい人物はいるが……。


 さて、それじゃあ超人疑惑が出てきた二人のことは置いておいて、そろそろ試合に注目しようじゃないか。


 注目するとは言っても、特に触れるべきところは今のところない。何故なら先程も言ったように、美羽と景が剛速球を投げ合っているだけなのだから。本当にそれ以外のことが起きていない。触れるべき事柄が無いのだ。


 崚太たちの心の中は、今は不安でいっぱいである。だって一向に試合が終わる気配がないんだもの。崚太なんて「今日中に俺たち、家に帰れるのか?」なんて思っている。まだ時間はたっぷりあるというのにだ。今はまだ、夕方に差し掛かってきたぐらいの時間帯なのに。


「……ん?」


 試合が……止まった? 正確に言うと美羽がボールをキャッチした後に、ボールを投げなかったのだ。この数十分間でそんなことは一度もなかったのに。


 美羽はおそらく何らかのアクションを起こすつもりなのだろう。それを悟ったゲーム部一同は改めて試合に集中する。


「景、提案があるわ」


「なんだい?」


「この一球で勝負を決めましょう。私は今からこのボールを全力で投げる。それを景が取れたら景の勝ち、取れなかったら私の勝ち、というのはどうかしら」


 美羽もこの勝負に決着がつかないことを悟ったのだろう。だからこそこのような提案をしているという訳だ。

 そしてそれは景も同じ。景も美羽と同じようにこの勝負に決着がつかないことを悟っている。だからこそ景の返事はこうだ。


「その勝負、乗った」


 景が構える。美羽も構える。これから行われるのは文字通り一球入魂の真剣勝負。この場の空気が――変わった。

 それはそうと那由多は思ったことがある。「え? 今までのは全力投球じゃなかったってこと?」と。


「いくわよ」


 ボールを見せつける美羽。


「こい」


 構える景。


 美羽がゆっくりと、高く足をあげる。そして思いっきり振りかぶり、ボールを投げた。

 そのボールは火が出そうな程の勢いがあった。成程、これが美羽の全力投球か。恐ろしや。


 それを投げられた景。どうやら真正面からそのボールを受け取るつもりのようだ。果たしてこれは本当に人間がキャッチできる速度のボールなのか? 果たして結果は――。


 ――パーン!

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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