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我らゲーム部!  作者: 春風 ほたる
ドッチボール
18/27

微笑、感激、そして困惑

 空気が重い。そういう風に感じている者は今この場には一人たりとも居ないだろう。それは今この場に居る当事者全員の、三人の表情を見れば一目瞭然だ。誰も彼もがそれぞれこのヒリついた空気を重いと感じさせない表情をしていた。


 一人は微笑し、一人は感激し、また一人は困惑している。


 ほらな? 皆が一様に楽しんでいるのが見て取れるだろう? ……え? 楽しんでるよな? 楽しいよな? 頼む、誰でもいいから楽しいと言ってくれ。


 ……えーっと、うん。確証はないが全員楽しんでるはずだ。それはもう心底楽しい……はず。表情では分かりにくいが、皆実は心の中はワクワクドキドキしているはずだ。多分きっとおそらくメイビー。


 とまあそれはさておき、そろそろ本題に入ろう。


 本題の前にまず言っておきたいことは、当事者三人とは一体誰なのかということについて。当事者三人、それは、美羽、景、加奈の三人だ。つまりはまあ未だアウトになっていないコートに残っている三人のことということになる。この三人は未だ一人もアウトになっておらず、またアウトになりそうな者も今のところ一人もいない。一言で言えば、ドッチボールにおいては無敵の三人である。


 そして先程も言ったが、この三人はそれぞれ異なった表情をしている。一人は微笑、一人は感激、一人は困惑といった感じに。それぞれがそれぞれ思い思いの表情をしていた。


 この内、微笑しているのは景。景が微笑している理由は……まあ後で分かる。兎に角景は今、口元は笑顔だが眉尻を下げ、困ったように微笑しているのだ。この表情こそまさに微笑と呼べるという感じの表情をしている。笑顔ではない、微笑だ。


 さて、微笑しているのが景と分かったところで後は残りの二人に注目しよう。残りの二人、それは美羽と加奈の幼馴染コンビだ。


 この幼馴染コンビの内、感激の表情をしているのは加奈だ。加奈はヒーローに出会った子供のような表情でとある人のことを眺めている。何故そのような表情をしているのか、そしてとある人とは誰なのかは……これもまあすぐに分かる。


 加奈の表情を詳しく言うと、そのクリクリなお目目をそれはもう目一杯見開き、目から本当にキラキラが出ているんじゃないかという表情をしている。実際に加奈の表情が目に映っている景は今、加奈の目からキラキラが出ているところを幻視している程だ。今の加奈は純粋無垢な子供のようで、それはもう可愛らしい。いやまあ加奈はいつでも純粋無垢ではあるのだが。今回はそれにさらに磨きがかかっている感じだ。うん、可愛い。


 この通り加奈が可愛い……じゃなかった、加奈が感激しているのは一目で分かるはずだ。誰が見たとしても、たとえ人の感情の変化に疎い人が見たとしても、それは一目で分かると思う。そんな感じの表情を加奈はしている。それ程感情を表に出していた。


 だがしかし、この場でただ一人、加奈が感激していることに気が付いていない者が居た。そう、今もなお困惑している少女、美羽だ。


 ここまで長かったが、これが今回の本題。『何故美羽は困惑しているのか』。これを語ることでおのずと景が微笑している理由も、加奈が何に感激しているのかも分かる。一石二鳥ならぬ、一石三鳥ってやつだ。やったね!


 さて、美羽は何故困惑しているのか。それは、自分の身体が半場自動(オート)で動いているからだ。


 そうだなぁ、例えば景が美羽に対しボールを投げるとするだろう? これを美羽は易々とキャッチする。そして景に投げ返す。まあここまでは普通だ。おかしいのはここから。


 次いで景は、今度は加奈に対してもボールを投げる。そしたらまあ普通は加奈がボールをキャッチするよな? でもどうしてか、先程からそういう風にゲームは動いていない。


 何故なら加奈に投げたとしても、美羽がキャッチしてしまうから。景が加奈に対し投げたとしても、必ず美羽が割り込みボールをキャッチしてしまうのだ。先程からずっと。


 この美羽の行動を見て、どちらも平等に狙って上げたい景は微笑するしかなく、また加奈は「美羽ちゃんが私を守ってくれてるっ!」と感激しているのだ。


 美羽は困惑している。この意味不明な行動は美羽がやりたくてやっているわけではないのだから。加奈には悪いが、今の美羽に加奈を守ろうという意思など微塵も存在しない。だって加奈はわざわざ守られるような存在でもないんだもの。加奈はちゃんと自己防衛できる。それは幼馴染である美羽が一番分かっている。


 じゃあ何故わざわざ美羽は加奈を守るような行動を取っているのか。それは美羽自身もよく分かっていない。だって身体が勝手に動いちゃうんだもの。何故? どうして? 今の美羽の頭の中はそんな言葉でいっぱいだ。


 ――分からない。何故? どうして?


 そんな状態でゲームを続けていたからだろうか。ボールを投げた瞬間、美羽は踏み込みが甘く、身体がよろけた。明らかな隙だ。


 そう、明らかな隙。その隙を景が見逃すはずもなく、景は素早くボールをキャッチし美羽に対しボールを投げた。勿論全力投球だ。だってそうでもしないと美羽をアウトにするなんて無理だからね、仕方ないね。


 危ない! このままでは、ずっと私のことを守ってくれていた美羽ちゃんがアウトになってしまう! そんなのは嫌! 私のヒーロをアウトにしないで!


 加奈は考えるよりも先に身体が動いた。


「危なーい!」


 美羽のことを両手を使って突き飛ばす加奈。加奈はその身を挺して美羽のことを守ろうというのだ。


 瞬間、美羽と加奈の目が合う。

 美羽はその目で語っていた。「加奈、どうして?」と。加奈はそれに対し、ただ微笑で返した。


 美羽を突き飛ばした加奈の横腹に景の投げたボールがクリーンヒット。先程も言ったように景は全力投球をしている。そんなボールが地面に足も付けていない加奈に当たるとどうなるのか。


 ――バーン!


 そう、吹っ飛ばされる。


 美羽は突き飛ばされた衝撃で尻餅をついた後、すぐさま加奈に焦点を当てて叫んだ。


「加奈ー!」

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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