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我らゲーム部!  作者: 春風 ほたる
ドッチボール
16/27

そこの幼馴染コンビ、今すぐ正座しなさい

 崚太は相も変わらず眼下で行われている試合を眺めている。ボールがあっちにいったりそっちにいったり。それを崚太は目で追っている。

 因みに今試合を観戦しているのは崚太だけではない。そこには西宮姉弟も加わっていた。体力も粗方回復したし、笑いも収まったらしい。


「さっきのりょーた面白かった……ふふっ」


「いっつも面白いけどね……ふふっ」


 訂正。笑いは収まってなかった。未だに二人で顔を見合わせては先程を思い出し、クスクスと笑っている。


 崚太は勿論それに気付いていた。気付いてはいたが、それをわざわざ止めようとはしないし思わない。だってこの双子、すっごく楽しそうなんだもの。邪魔しちゃ悪いという気持ちが崚太にはあった。


 それに崚太は別にそれが嫌ではなかった。寧ろ面白いと思ってもらえることは光栄だ。まあただ光栄なのだがそれはそれとしてこうもあからさまに自分の話をされるのは、何というか気まずい。今の崚太の心の中は、嬉しさ半分気まずさ半分といったところだろうか。


 まあ要するに崚太は恥ずかしかった。


 その恥ずかしさを誤魔化すために崚太は試合の観戦に集中する。とはいっても崚太には自分を誤魔化している自覚は無い。「ちょっと試合が面白いから集中して観ようと思っただけだし?」と心の中では本気で思っている。マジで本当に。全く……崚太は素直じゃない。


 まあ素直じゃないとは言ったが、試合が面白いことになっているのは本当だ。今の試合状況は誰でも注目したくなると思う。そう、例え崚太じゃなくても。


 崚太は改めて眼下で行われている試合に目を向けた。


 あれから、西宮姉弟がアウトになってからどれほどの時間が過ぎたのか定かではないが、それからアウトになっている部員は一人もいない。要するに現在コートには、美羽、景、加奈、つぐみ、那由多が残っているという状況だ。


 それともう一つ。実はあれからゲームは一度も止まったりはしていない。ずっとボールはコートを行き来しているし、皆一様に動き回っている。


 それが意味することは何か。……そう、皆一様に体力だけ削られているということだ。


 削られている、はずなんだが何故か一人を除いて他四人は一様にケロッとしている。その四人は現状息一つ切らしていない。皆同様に動き続けているはずなんだが……はっきり言って意味が分からない。何故息一つ切らしていない方が多数側なのか。この世にはまだまだ分からないことだらけだ。


 まず当然とばかりに美羽と景の二人は息を切らしていない。というかあの二人は体育の授業でもそうだ。いくら運動しても、いつも二人ともケロッとしている。あの二人に疲れるという概念はあるのだろうか。甚だ疑問だ。


 次に加奈だ。加奈も当然のごとく息を切らしていない。まあ加奈は元気っ子の体力お化けだ。この程度の運動、何ともないだろう。だって加奈は前世がターミネーターだと言われている程なのだから。全く恐ろしい。


 そしてつぐみ。彼女も息を切らしていない。彼女は先程までに述べた三人とは違い、体力は人並み。のはずなんだが、何故か息は切らしていない。肩で息もしていない。何故だろう、動き続けているはずなのに。彼女はいつも謎に包まれている。


 ということは現在息を切らしているのは必然的に残りの一人に絞られる。もう言わずとも分かるだろう。そう、那由多だ。彼は「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」と肩で息をしており、今にも倒れそうだ。景はそんな彼をとても心配そうな目で見ている。


「那由多。本当に大丈夫かい?」


 景は那由多とは敵陣営なのにも関わらず、先程から何度も那由多に心配の声を掛けている。優しい男なのだ、景というやつは。そしてそれほどヤバいのだ、那由多の今の疲弊具合は。


 汗は止めどなく溢れ、滝のように流れ出ており先程からぼったぼったと滴が落ちている。呼吸ももはやまともにできているのか怪しい状態。今すぐ酸素タンクが必要なんじゃないかとさえ思えてくる。本当に、本当に大丈夫なのだろうか那由多は。もう無理せず休憩した方が良いのでは?


「だい……じょぶ、だから、……ぜぇはぁ……とめ、とめないで」


 景の静止の声をきっぱりと拒絶する那由多。景に向かって手をパーで突き出しており、その行動からも静止の声を拒絶しているのが見て取れる。


 ああ、先んじて言っておくが別に那由多は身体の調子が悪いとかではない。寧ろ那由多はすこぶる絶好調だったはずだ。動き回って疲れている、ただそれだけ。


 何故那由多はここまで疲弊しているのか。それは、先程から投げたボールがつぐみに一切当たらないからだ。だから那由多はここまで追い詰められているし疲弊している。


 当たらないのは別に、那由多のコントロールが悪いからとかではない。寧ろ那由多のコントロールは抜群、球速だって十分にある。なのに何故かつぐみにそのボールは当たらない。


 ということは、つぐみの避ける技術が凄いのか? いいや、決してそんなことはない。それは見ている崚太たちが一番分かっているはずだ。つぐみの避ける技術は、決してそんなに凄いものではない。何というかそう、普通だ。


 では何故那由多のボールはつぐみに当たらないのか。それは見ている崚太たちにもよく分かっていない。何ていうかつぐみがボールを避けているというよりボールがつぐみを避けているという感じなのだ。うん、言葉にしてもよく分からない。ボールが避ける? ハハッ、馬鹿言ってんじゃないよ。ボールは生き物じゃないんだから。……いやでも見ている限りは本当にその通りなんだよ。


 全く、那由多が意地になってつぐみをアウトにしようとするから。だからこんなに疲弊するんだ。何故那由多は考えなしにつぐみを狙ってしまったのだろうか。これはもはや運命という他ない。


 いや、よく考えたら那由多はそんなに悪くないのではないだろうか。というか那由多は全く悪くない気がする。だってこれは真剣勝負なのだから。意地になるのも頷けるというもの。


 じゃあ誰が悪いのかって? 全く当たらない、そして那由多に当てることもできないつぐみ? いいや違うね。彼女は真剣にゲームを楽しんでいる。たとえボールが山なりだろうが、那由多に届くまで何度もバウンドしようが、彼女は全力なのだ。真に悪いのは美羽と加奈の幼馴染コンビだ。


 だってそうだろう? 何故ボールをわざわざ那由多にパスする? 面白がって那由多にだけボールを渡すんじゃない。全く二人とも、悪ふざけにも程があるぞ。二人は後で景に叱られることだろう。何故なら那由多をこんなにも疲弊させた張本人と言えるのだから。


 「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」


 那由多は肩で息をしながらボールを両手で持つ。そして目を閉じ、汗がしたたり落ちるおでこをボールにそっと当てた。

 この行動、まさに一球入魂。那由多は今、この一球に魂を込めているところだ。頑張れ那由多、負けるな那由多。


「……よし!」


 やがて、魂が込め終わったのだろう。那由多は閉じていた目をかっ開く。そして――。


「しゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 文字通り魂の一撃が今、つぐみに向かって放たれた。

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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