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我らゲーム部!  作者: 春風 ほたる
ドッチボール
15/27

生存確認

 西宮姉弟が共倒れしてからどれほどの時が過ぎただろうか。そんなことを眼下をぼーっと眺めながら思う崚太。顔の腫れは幾分かマシになってきている、多分。


 ああ、どれほどの時が過ぎたのかという問いに対する答えだか、あれから過ぎた時間は約十分だ。短くはないが、かといってそんなに長くもない。


 因みに今現在、崚太の隣では碧依と緋音の二人が同じような格好で寝っ転がっている。どうやら先程の応酬で体力を使い果たしたらしい。そりゃそうか。だって良くも悪くも激しい攻防だったんだもの。


 崚太は今一度、碧依と緋音の二人に目を向ける。うん。同じような格好というか、全く同じ格好だ。二人して平行に並び、ポーズは直線的。脚は真っ直ぐに伸ばされており、両手は胸の前で組んである。さらに目は閉じており、その表情はとても安らかだ。このポーズとこの表情、例えば棺桶に入っていたとしてもまるで違和感がないと思う。違和感どころかぴったりだ。


 ――こいつら……死んでないよな?


 不意に不安になる崚太。


 ――いやまあ死んでないだろうけど! でも一応確認はした方が良いよな。もしもなんかあったら困るしな! なんもないだろうけど!


 そんな自問自答の様な事を心の中でしながら、今もまだ同じポーズで倒れている西宮姉弟に崚太は歩いて近づいていく。


 ――そうこれは生存確認なんだ。必要ないだろうけど! まあそのえっと一応。


 崚太がここまで心の中で葛藤しているのには理由がある。なんかこう、ここまで無防備な二人を前にするとドキドキしちゃうのだ。それも変な感じのドキドキ。近づけば近づくほどその鼓動は高鳴る。いや別にやましいことをしようなんて微塵も思ってないし、悪戯をしてやろうなんて考えてない。なのになぜだかドキドキするのだ。何故だろう。


「……ふぅ」


 短く息を吐いて心を落ち着かせる崚太。その小さな行動によってぐちゃぐちゃになっていた心の中がすこし落ち着いた。そんな気がした。


 ――よし。まずは息を確認しよう。生きてりゃ息はあるはずだしな。


 そう思った崚太はまず、碧依の口元ら辺に自身の手をそっと翳した。


「……」


 ……。


 ――……いや、息あっさー! っていうか、え? これほんとに息してる? 大丈夫?


 確証がなく不安になった崚太は、次いでもっと分かりやすい方法を取ることにした。それはすなわち心臓の鼓動の確認だ。心臓の鼓動を直接この耳で感じ取る。これが一番手っ取り早い。そのはずだ。


 崚太はすぐさま行動した。だってこれは一大事、親友のピンチかもしれないのだから。


 崚太は碧依の胸に顔を近づける。何というか罪悪感がして一瞬躊躇ったが、「そんなこと言ってる場合じゃねーよな」と気持ちを切り替え碧依の心臓があるであろう位置に自身の耳を当てた。


 果たして結果は……。


 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。


 崚太の心配など露知らずと言った感じで碧依の心臓は正常に動いていた。その事実にホッと胸をなでおろす崚太。どうやら一大事でもなんでもなかったようだ。いやぁ、安心安心。


 一安心した崚太は、もう用は無いとばかりにさっと立ち上がる。そして未だ眼下で行われている試合を見るために自分の持ち場に戻ろうとしたその時――。


「「ふふっ」」


 後ろからクスクスといった感じの笑い声が聞こえてきた。あろうことか丁度二人分。

 犯人は分かっている。


「なんだよ」


 どこか気まずそうに振り向き、未だ笑い続けている西宮姉弟を見下ろしながらそう問う崚太。何とも居心地が悪そうな顔をしている。


「いやぁだって……ふふふ」


「何してんのりょーた……ふふふ」


 堪えられないといった感じで寝っ転がりながらもクスクスと笑い続ける碧依と緋音の二人。うん、二人揃ってとても楽しそうだ。


 そんな二人とは対照的に、崚太はどこかばつが悪そうな顔をしている。そりゃそうだろう。だって何故か二人に笑われてるんだから。


「何ってそりゃあ……」


 生存確認? と馬鹿正直に言おうとした寸でのところで、崚太は踏みとどまった。何故かというと、そんなことを言えばまた二人に笑われると肌で感じ取ったからだ。これ以上笑いの種が増えることも、笑い者にされるのも御免だね。


「んんっ。そんなことより二人とも起きてたんだな」


 わざとらしい咳ばらいをしながら、無理矢理話題転換をする崚太。実は無理矢理焦って話を変えようとしたから微妙に軌道修正できていないが……そんなこと崚太は気が付いていなかった。


 対して西宮姉弟は気が付いていた。崚太が話を逸らそうとしていることに。


「うん、起きてた……ふふふ」


「面白かった……ふふふ」


 気が付いていたが、それはそれとしてわざと乗ってやる西宮姉弟。だってもうお腹いっぱいだから。崚太の恥ずかし気まずそうなその反応でもうお腹いっぱいなのだ。詰め寄ってこれ以上の反応を見せられると笑い死ぬ。ふふふ。


「そうかそりゃよかった」


 崚太はもう我慢ならなかったのだろう。捨て台詞のようなことだけ言って西宮姉弟に背を向けた。これ以上笑い者にされるのは御免だって感じだ。怒っているわけではない、決して。


 崚太が一歩踏み出そうとして、そしてそれを止めた。ん? どうしたのだろうか? 西宮姉弟は崚太の変な行動を不思議に思って笑うのを一度中断した。


 やがて崚太が口を開く。そして振り返らずにぼそぼそといった感じの声で二人に対しこう言った。


「まぁなんだ……無事でよかった」


 そういう崚太の顔はほんのり赤く染まっている。理由は単純明快。恥ずかしかったからだ。言ったは良いものの、言った後にその台詞の恥ずかしさに気が付いた。凌太は考えるよりも先に言葉が出るタイプなのである。


 崚太のその恥ずかしい発言によってこの場には沈黙が訪れた。


「「……」」


 西宮姉弟はその間に、お互いの顔を向かい合わせにする。勿論無言で。わざと無言というより言葉が出ないと言った方が正しいかもしれない。そして数瞬後。


「「ぷっ……あはははははは!」」


 堪えきれないといった感じで、まるでダムが決壊したかのように西宮姉弟は二人揃って笑い転げた。


 崚太はそんな二人を背景に、耳を赤く染めながら心の中ではこんなことを思う。


 ――全く。何がそんなに面白いんだか。


 決して嬉しくは無いが、かといって不満でもない凌太なのであった。

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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