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我らゲーム部!  作者: 春風 ほたる
ドッチボール
14/27

卑怯応酬

 その後、ゲーム部部員を総動員して軽く会議が行われた。議題は『今回のゲームにおいて顔面はセーフなのか、それともアウトなのか』。ドッチボールにおいては二分される重要な議題だ。


 協議の結果、顔面はアウトということになった。というのも、今の崚太に続行は不可能だろうという判断からだ。だって未だに崚太の顔面真っ赤なんだもの。当てられたボールの跡が付いたままだ。ドクターストップが崚太にかけられた。ああ、ドクターストップと言っても実際にドクターがストップしたわけではない。ゲーム部の皆が崚太に休めやめとけと言っただけだ。


 崚太は思う。皆優しいなぁ、と。鏡を見てないから分からないかもしれないが崚太よ、お前の顔面酷く真っ赤だぞ。ボールの跡が未だにくっきりしっかり付いている。見ただけで痛々しい。そりゃあ皆心配するだろうよって顔面だ。美羽の球が如何程の剛速球だったのかが窺える。某ヒーローみたく「新しい顔よ!」とならなかったことにびっくりだ。


 まあてなわけで、崚太は今現在体育館の二階で皆の試合を観戦中だ。アウトになってしまった崚太は、後は眺めるだけ。ボールがあっちにいったりそっちにいったりしているのを悠々自適に眺めている。


 そんな様子で黄昏ている崚太だが、実はさっきから口を開いていない。本当にただ眺めているだけなのだ。崚太は無口なタイプではないのに。どちらかというと独り言もそれなりに多いタイプなのに。何故だろうか。


 言っておくが崚太は仮にも試合を眺めている身だ。普通試合観戦中の人は例え独りぼっちでも「おー」とか「うおー」とかは言うだろう。ただ無言で試合を眺める人間なんて、この世に何人居るだろうか。居ないことはないだろうが珍しいに違いない。後方腕組みおじさんでも感嘆の息は漏らすと思う。


 勿論崚太が口を開かないのは、話し相手がいないことも理由として挙げられるだろう。だがしかし、それだけが理由ではない。というか大半の理由はそれとは違うものだった。


 さて、一体何故崚太は一言も声を発さないのか。もしくは発していなかったのか。その理由としては十分な一言が今、崚太の口から紡がれた。


「ひでぇ」


 崚太は先程まで自分が眺めていた試合と呼べるのか怪しい光景を脳内で振り返る。そしてその全てが今の一言で片づけられるものだった。いや本当に酷かった。


 酷かったのは主に二人。主にというか二人だけ。もう元凶と言ってもいいだろう。元凶はこの二人だ。緋音と碧依。人呼んで西宮姉弟の二人だ。


 先程までの試合では、緋音は「要するに身体に当たらなければ良いんでしょ?」とばかりに何処から取り出したのか分からない段ボールでボールを叩き落としたり、かと思えば碧依はいつの間にかボールに糸を付けるという細工をしておりボールの挙動をある程度コントロールできるようにしていたり。まあこれでも一部抜粋だ。とにかく二人のそのやり取りは卑怯の応酬だった。なんとも西宮姉弟らしいと言えばらしい。


 ともかく崚太の眼下で行われていたのはそんなもはやドッチボールと呼べないような応酬だった。そりゃあ誰に聞かれていなくとも酷いと口にしたくなる。だって本当に酷いんだもの。試合内容が。


 真剣勝負と言えば確かに真剣勝負。拮抗勝負と聞けば聞こえは良い。だがそんな正当な言葉を果たして先程まで繰り広げられていた卑怯の応酬に使って良いものか、悩ましいところである。だって両者ともルールのギリギリを攻めてるんだもの。最初にルールをきちんと決めていなかったことが、今更になって悔やまれる。


 そんな卑怯が服を着て歩いているような緋音と碧依の二人は今どうしているかと言うと、両者とも肩で息をしながら睨み合っている。どちらともアウトにはなっていない。だがしかし、両者とももう満身創痍のようだ。何故そこまで清々しい顔ができるのか、謎である。


 因みにさっきからずっと緋音と碧依が二人でやり取りをしているので、美羽たち五人は体育館の壁際に避難している。空気を読んだ結果だ。ご丁寧に皆で横並びになって体育座りをしている。試合中だと言うのにほんわかした空間がそこに形成されていた。


 ほんわかした空気の中、美羽が口を開く。


「ねぇ景。あれは有りなのかしら?」


 あれというのは勿論、緋音が段ボールでボールを叩き落としたり碧依がボールに細工をしていたりしていたことを指す。美羽はずっと言いたかったのだ。「あれはルール的に有りなのかしら?」と。ずっと空気を読んで我慢していたのだが、今それが決壊した。


「さあ? まあ二人が良いならそれで良いんじゃないかな」


 景は景なりの返事を返した。「まあ二人っきりの応酬だし、それで良いんじゃないかな?」と。


 それはそうと、二人は仮にも今は敵陣営だというのに何ともまあほんわかした会話である。


「それもそうね」


 そんな会話の端で、緋音と碧依の二人の卑怯の応酬はとうとう佳境を迎えていた。

 今ボールを持っているのは緋音。もうありとあらゆる手は尽くしたというのに碧依は未だにアウトになっていない。緋音は一体このボールを次はどうするのだろうか。


「碧依。行くよ」


 そう言った緋音は片手でボールを持って、構える。その目には闘志が漲っていた。どうやら真っ向勝負に臨むようである。

 碧依はそんな様子の姉を見て、構えた。どうやら緋音の意思は碧依に伝わったようだ。流石双子の姉弟。以心伝心である。


「来い」


 さっきまで卑怯の応酬をしていたとは思えないほどの光景が、美羽たちの目には映し出された。全く、西宮姉弟は……。


「どうりゃあー!」


 いつも無機質な声で話す緋音から発せられたとは思えないほどの声が、今緋音から発せられボールが投げられた。緋音は今、それだけ真剣だということだ。

 碧依はこの緋音のありったけが込められたボールをどう受けるのだろうか? 皆が目を見張って注目する。


 果たして碧依の解答は如何に――。


「おうりゃあー!」


 なんと碧依はそのボールを受け止めることはせず、片手で緋音に向かってはじき返した。片腕をバットのようにして。フルスイングである。勿論打ち返せば碧依はアウトになるので、これは正真正銘碧依の捨て身の攻撃だ。


「え?」


 これには流石の緋音も意表を突かれたよう。真っ直ぐに向かってくるボールをキャッチすることはできずに易々とボールに当たってしまった。


 こうして西宮姉弟二人による卑怯の応酬は、両者アウトで幕を閉じた。

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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