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我らゲーム部!  作者: 春風 ほたる
ドッチボール
12/27

プロローグ

 だだっ広い体育館の中に、たった八つの人影があった。その正体は藤城美羽(ふじょうみはね)如月景(きさらぎけい)深見崚太(ふかみりょうた)瀬戸内加奈(せとうちかな)黒咲(くろさき)つぐみ、暁那由多(あかつきなゆた)西宮緋音(にしみやあかね)西宮碧依(にしみやあおい)の八人。ゲーム部の八人だ。


 今日この体育館は、何ともまあ都合が良いことにゲーム部の貸し切り状態である。ゲーム部部員以外の人物は、当然のようにこの場には見当たらない。外からの見学者も多分いないだろう。いたらそいつはきっと忍者か何かだ。体育館の天井に何か張り付いているような気がするが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。


 さて、所変わって体育館倉庫内。美羽は真剣な顔でボールの吟味をしていた。何たってこのボールは今回のゲームにおいて超重要アイテムなのだから。一切合切ボールの妥協はできない。


 体育館倉庫にボールを取りに来たのは美羽と景の二人。最初は美羽一人で行こうとしたのだが、もし万が一何かあったらいけないということで、景は付いて来てくれたのだ。これには美羽も思わずぽっと頬を赤らめてしまった。


「見つかったかい?」


 優し気な眼差しで美羽のことを見つめていた景が、タイミングを見計らい美羽に話しかける。


「ん。良いのが見つかったわ」


 短い会話を最後に、美羽と景は体育館倉庫を後にした。


 ルンルン気分の美羽。目的の物を体育館倉庫から持ち出した美羽は皆に合流しようと向かっていた最中に足を止め、思わずと言った感じで口を開いた。


「何かしら? あれ」


 美羽の発言を皮切りに、景も足を止める。美羽の視線の先では美羽と景以外の皆が集合していた。集合していたのだが、様子がおかしいのだ。那由多を中心に何やら集会のようなものが開かれている。なんだろうかあれは。一見しただけじゃ分からない。


 美羽が景の少し前で疑問符を頭に浮かべていると、やがて謎集会の中心人物である那由多が口を開いた。


「ラスベガスに行きたいかー!」


 横並びに並んでいる皆に対し、そう問う那由多。つぐみは困ったように穏やかな声でそれに答えた。


「そんなにぃ、ですかねぇ」


 成程。つぐみはラスベガスにそんなに行きたいわけではないらしい。感覚的には「行けたら行く」ぐらいのやつだろう。ならば、と那由多は続けた。


「ロンドンに行きたいかー!」


 それに対し、今度は碧依が答える。


「行先変わってる」


 尤もなツッコミである。が、那由多はそのツッコミを華麗にスルーした。


「行きたいだろー!」


 流れを掴んだ加奈は、那由多の強行に対し対抗する。


「そんなことないよん」


 那由多はノータイムで続ける。


「行きたいと言えー!」


 それはもう強行ではない。強要だ。

 続けて緋音がとうとう真実を言った。


「日本さいこー」


 どうしても行きたいとは言わないレスポンス一行である。

 那由多が「さて次は何を言おうか?」と数瞬考えていたその時、崚太が「てかさ」と口を開いた。初めてのレスポンス側からのアクションだ。


「那由多はそんなにラスベガスとかロンドンとかの海外に行きたいのか?」


 崚太のその質問に対し、那由多は当然のごとくノータイムで答える。


「いんや? 全然」


 そう言う那由多の顔は「何言っているの? りょうくん。日本最高ですが?」とでも言いたげだ。さっきまでのレスポンスとのやり取りは一体何だったのだろうか。崚太は当然のごとくツッコミを入れる。


「なんでだよ!?」


 崚太のツッコミによって皆からどっと笑いが零れる。ナイス崚太。温かな空間が今ここに形成されたのだった。

 美羽はそんな皆の様子を見やった後、穏やかな声でポツリと呟いた。


「楽しそうね」


 そう言う美羽の目は、どこか温かい眼差しをしている。『氷の令嬢』と呼称されることもある美羽だが、今この時だけはその名で呼ばれることはないだろう。


 景はそんな様子の美羽に目を向けた後、なんとなく美羽の頭をぽむっとした。景自身も不思議に思うぐらい、その動作は自然に行われた。


「そうだね。行こうか」


 ――皆のところに。


 そう言った後、ニコッとした景は歩き出す。美羽を先導するように。自身の今の顔を隠すように。後ろを歩く美羽からしても、今の景は不自然でならなかった。

 景の後ろをトテトテと歩きながらも首を傾げる美羽。だがしかし、景が不自然だった理由は分からず仕舞いになるのだった。


 すぐさま皆のところに辿り着いた美羽はさっと気持ちを切り替える。そして手に持つボールを頭の上に掲げながら、皆に対しこう言った。


「持ってきたわよ」


 ほら、と皆にボールを見せる美羽。皆に見えるように、両手でボールを頭の上に掲げていた。


「おー」


「サンキュー」


「ありがとうございますぅ」


 加奈、崚太、つぐみの順に三者三葉の言葉が返ってくる。そのどれもが美羽と景に対し感謝をしていた。美羽はその事実に対し満足気に頷く。


「じゃあ準備ができたってことで、改めてルール説明をするね!」


 那由多が説明役を買って出る。それに異論を唱える者は、この場には一人もいなかった。


 景が皆を代表して那由多に対し「頼むよ」と言う。ニコッと那由多に対し微笑む景。那由多はそれに対し気分を良くし、説明を始めた。


 要約すると、ルールはこうだ。

 まず今回のゲームはドッチボール。外野は無し、当てられた者は即リタイアの変則ドッチボールだ。コートは体育館全体。陣地を分ける線は、体育館を半分に仕切るように引かれた太くて白い線で、互いに敵陣地には入らないことがルールだ。それと、当てられた人はすぐさま体育館の二階に移動するルールとして挙げられる。因みに移動している間はボールを投げてはいけない。


 そしてこれが恐らく一番大事なルール。勝利条件は一つだけ。互いに敵陣営を全滅させたら勝利だ。


「ルールはこれぐらいかな。……他になんかあったっけ?」


 那由多はそう締めくくる。最後にボソッと心配事を呟いた那由多。その頭を景はぽむりんした。


「無いよ。ありがとう」


 那由多を撫で繰りする景。目を細めて甘えるように景の手に頭を擦り付ける那由多。景が那由多を撫でれば撫でるほど、怒気が増す美羽。


 やがて景が口を開いた。


「どうしたんだい? 美羽」


「なんでもないわ」


 そう言ってプイッとする美羽。明らかになんでもなくない様子の美羽に対し、景は分からないとばかりに首を傾げるのだった。


 そうして一瞬だけ訪れるギスギス空間。それを無理くりにでも変えるために、崚太が口を開いた。


「そ、そんじゃ始めようぜ」


 ――ゲームを。


 今回のゲームは美羽チーム対景チームのチーム対抗戦。美羽チームのチームメンバーは美羽、加奈、那由多、碧依。景チームのチームメンバーは景、崚太、つぐみ、緋音だ。


 それを確認し、各々それぞれの陣営に分かれる。そしてゲーム開始の合図のために那由多が最初に口を開いたのだった。


「我らゲーム部!」


 それに続く崚太。


「ゲームスタートだぜ!」


 せーのっ!


「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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