エピローグ
キーンコーンカーンコーン。
いつも通りの代り映えのしないチャイムが夕暮れ時の校内に響き渡る。このチャイムはゲーム部にとっては、今回のゲーム『かくれんぼ』の終わりを示しているはずだ。がしかし、それはもはや関係の無いことだった。
だってもう、全員集まってるから。勝敗はもうすでに決しているから。
この勝負、今回のゲームは鬼側、つまり美羽の勝ちだ。一人勝ちである。
美羽は「ふぅ」と息を吐く。そして今回のゲームを総括するように口を開いた。
「それにしても……緋音と碧依が隠れていた場所には驚いたわ」
美羽はそう言って、緋音と碧依の方に目を向ける。そこでは二人ともが同じようにイエーイとピースをしていた。してやったりって感じである。
美羽はそんな様子の二人を見て「ふふっ」と笑った。
「何処に隠れてたんだ?」
「お前ら」と西宮姉弟に問いかける崚太。
そういえば西宮姉弟を見つけた時、崚太はトイレに行っていたから西宮姉弟が何処に隠れていたのか知らないんだったね。と、思い出す景。相も変わらず親友のトイレ事情が心配になる景であった。
それはさておき、緋音が崚太の問いに答える。
「職員室」
そう。西宮姉弟はあのタイミングで偶々職員室に居たのではない。スタートしたその時からずっと、職員室に身を潜めていたのだ。かくれんぼでそんな隠れ場所を見つけるとは、恐るべし西宮姉弟。
「え?」となる崚太。いや、崚太だけではない。その事実を知らなかった者が全員「え?」という顔になる。それは有りなのか? と。
「よく見つけられたねん。美羽ちゃん」
恐らくこの中で一番驚いているであろう加奈が、関心するように一番最初に口を開いた。
「そうね。私もまさか、職員室に隠れているなんて思いもしなかったわ」
「じゃあどうやって見つけたのん?」
どうして美羽は職員室に隠れていた人物を、まさか隠れているだろうと思いもせず見つけることができたのか。成程、全てを知っている景以外は疑問である。
「最終手段だったのよ。職員室に行くことが」
「どーゆーこと?」
最終手段? 職員室に行くことが? わけが分からないと加奈たちの頭の中は疑問で埋め尽くされている。それもそのはず。だって今のじゃ言葉が足りないんだもの。それでは説明になってはいないぞ、美羽よ。
「先生たちに聞こうと思ったのよ。緋音と碧依の居場所をね」
それを聞いて全員が思った。かくれんぼとしてそれはどうなのか? と。ルール違反じゃないのか? と。
まあでも職員室に行かなければ緋音と碧依の二人は見つからなかったわけだから、結果オーライか。大体職員室に隠れるのもどうかと思うし。美羽の突飛な行動は黙認することとしよう。
全員が全員微妙な顔をしていることに気が付いていない美羽はそのまま続ける。
「次かくれんぼをする時は、職員室を一番最初に探すことをおススメするわ」
その言葉に待ったをかける西宮姉弟。二人は何か、意見したいことがあるらしい。碧依がまず口を開いた。
「職員室に隠れるのはおススメしない」
職員室に隠れていた張本人がブルブル震えながらそう発言する。この様子、職員室で何かがあったらしいとこの場に居る全員が察した。
碧依と一緒に緋音もブルブルと震えている。震えながら緋音はこう言った。
「あそこは悪魔の巣窟」
「それはぁ、どういうことでしょうかぁ?」
緋音の物言いに対し、つぐみがこの場を代表するように口を開いた。いつもは「あららうふふ」と皆の会話を聞いている謂わば聞き専なのに珍しい。
碧依がブルブル震えながらつぐみの問いに答える。
「あそこに行くと勉強をさせられる」
曰く、緋音と碧依は隠れさせてもらっている間、対価としてずっと勉強をさせられていたらしい。かわいそうに。そういえば美羽が「失礼します」と職員室に入った時も二人はノートを開いて何かを書いていた。真後ろに先生というおまけ付きで。
「ずっとマンツーマン」
「恐ろしい」
緋音と碧依、二人揃ってブルブル、ブルブル。軽くトラウマになったらしい。が、それは職員室に隠れようなど姑息なことをした二人が悪い。そう思って誰も同情はしなかった。
やがて空気を切り替えるためかは知らないが、崚太が口を開いた。
「そういえば、藤城はどうして俺の居場所が分かったんだ?」
ずっと気になっていたとばかりに美羽に聞く崚太。
「りょうくんはどうやって見つかったの?」
いつも通りの女子制服に身を包む那由多がそれに対し口を挟む。確かに那由多はそのころ撮影会をしていたから何も知らない。加奈も、緋音も、碧依も見ていないから知らない。つぐみだけは何故か「あぁ、あれですかぁ」と言いたげな顔をしていた。
「俺はトイレから出てきたところを見つかった。藤城のやつ、上の階から飛び降りてきやがったんだよ。あれはびびったぜ。ちびるかと思った」
最後に余計な一言を付け足したせいで、余計に親友のトイレ事情が心配になる景。「やっぱりトイレ近くなってるのか?」と。
美羽が何気ない顔で崚太の疑問に答える。
「あれね。あれは気配よ」
「こわっ!?」
「鳥肌が立ったぜ」と崚太。立った鳥肌を碧依に見せつけている。袖を捲り「ほら、ほら」と。
「嘘よ。音がしたのよ。水の流れる音がね」
なんと、冗談も言える美羽さんである。まあもっとも、冗談を言う時も真顔だが。嘘かどうか分かりづらいったらありゃしない。
「なんだそーゆーことかよ。マジでびびったぜ」
キーンコーンカーンコーン。
話の流れが丁度切れたタイミングでチャイムが鳴った。このチャイムは学生に「早く帰れ」と言っているように聞こえる。
チャイムが鳴り終わったと同時に景が口を開いた。
「帰ろうか」
皆はその言葉に賛同して、帰り支度を始めるのだった。
あ、完結じゃないですよ。『かくれんぼ』のエピローグです。
次回投稿予定は明日の同時刻です。