見つからない
あれから改めて皆で残り二人を探そうとしたのだが……。結果から言うと、那由多がごねた。それはもう盛大に。「もっと撮影会したい!」と駄々をこねた。
それに対しつぐみが「私も参加して良いですかぁ?」と言い出し、被服部の皆さんも「是非!」と血走った目で言うので、家庭科室での撮影会は継続される運びとなった。
更に残りの美羽、景、崚太、加奈の四人でまだ見つかっていない二人を探していたのだが、加奈も突然そのグループを抜けることとなった。曰く、「外にハート柄の猫ちゃん見つけた! ちょっと探してくる!」とのこと。何とも自由奔放な加奈である。それはもう勢いよく飛び出していってしまった。
加えて崚太も先程「ちょっと俺、トイレ行ってくる」とトイレに向かっていってしまった。この短時間でまたしてもトイレに向かうとは……。「崚太はトイレが近いのか?」と親友のトイレ事情がちょっと心配になる景であった。
とまあそんなこんなで美羽は今、景と二人っきりだ。ずばりこの状況は、美羽が追い求めていた状況そのものである。さぞ美羽は心を躍らせているだろうと思うかもしれないが、実のところ美羽は今――。
「……」
あろうことか、絶望していた。ご丁寧に膝を折り、両手を地面につけて。今にもオーマイガーと言い出しそうなポーズである。ズーンという効果音がよく似合いそうだ。
「なんで?」
地面の方を向きながらボソッと呟く美羽。あまりに小さい声だから、美羽と至近距離に居る景でも何と言っているのかは聞き取れない。景は、おかしな様子の美羽を心配そうに無言で眺めている。景でさえ今の美羽には何と言葉を掛ければ良いのか迷っているようだ。
「どうして?」
そう続ける美羽の表情は困惑に満ちている。その様子は謂わば半狂乱といった感じだろうか。景には見えていないが、美羽は今自分の信じていた道が間違っていたことを初めて知った人のような顔をしている。
「美羽?」
たまらず声を掛ける景。だがしかし、その声は今の美羽には届かない。一ミリたりとも届きはしない。景の声が届かないとなれば、もはや今の美羽には誰の声も届きはしないだろう。
ガバッと立ち上がる美羽。近くに寄っていた景とごっつんこはしない。何故なら景が華麗に避けたから。崚太なら確実に美羽に顎を打たれているはずだ。流石景。
そんなことは露知らず、美羽はその美しい声で大きく叫んだ。
「見つからないのよぉ!」
よぉ~、よぉ~、よぉ~と語尾だけが鳴り響く。
そう。見つからないのだ。ゲーム部部員の残り二人、西宮緋音と西宮碧依の二人が。もう大体のところは探し回ったというのに。居そうなところは入念に探したのに。
因みに緋音と碧依の二人の苗字が同じなのは姉弟だからである。双子の姉弟だ。
そんな美羽の頭をぽむっとする景。今日何度目かのぽむりんである。しかも景の笑顔付き。ぽむられる美羽はとても満足そうだ。
「まあまあ。こういうのも良いじゃないか」
そう言いながら美羽を撫で繰りする景。その声はとても優しい。優しさに包まれていると言っていい。
美羽は珍しくその景の手をペイッ。撫でるなと暗に示している。勿論手つきは優しかったものの、乱暴に景の手を振り落とした。
「何が良いのよ」
見つからないでうずうずするじゃない。そんなことを考えながらプイッとする美羽。意識しているわけじゃないだろうがその態度はとても可愛らしい。珍しく景がほんのり頬を染めている。
「かくれんぼらしくて楽しいだろう?」
ニコッ。美羽陥落。さっきペイッとした景の手をそっと自分の頭の上に戻した。よく見ると美羽もほんのり頬を染めている。景とお揃いだ。
一瞬にしてここに甘々空間が形成された。他の者がこの光景を見たら、口から砂糖を垂れ流しそうである。
「そうね」
――そうだったわ。真剣勝負とは言ってもこれはただの遊び。景の言う通りこの状況はかくれんぼらしいわ。遊びなんだからもっと楽しまなくっちゃ。
「ふぅ」と息を吐き、気持ちを切り替える美羽。だがこれは遊びと言っても真剣勝負であることに変わりはない。勝負事には決して手を抜かないのが美羽クオリティだ。
「こうなったら最終手段を使うわ」
崚太が居たら「いやなんでだよ!? 流れ的におかしくない!?」とツッコミが入りそうだ。何故いきなり最終手段を使うことになったのか、崚太は疑問に思うに違いない。流れ的に今からはゆっくり探すことを崚太は期待するはずだ。まあこれはあくまで崚太がここに居たらの場合の話だが。
「職員室に向かうわよ」
付いて来てもらえるかしら。そんな感じで先導する美羽。美羽が歩き出したので景は取り敢えず美羽に付いて行く。だがしかし、景の頭の中は疑問で埋め尽くされていた。
「どうして職員室に向かうんだい?」
当然の疑問だ。察しが良い景でさえ、美羽が職員室に向かう理由は分からなかったようだ。そりゃそうか。最終手段が職員室に行くこととはわけが分からない。
「先生たちに居場所を聞くのよ」
緋音と碧依、二人の居場所をね。先生はいっぱいいるんだから一人ぐらいは見ているはずだわ、多分。と、続ける美羽。
景は思った。「それはどうなんだい?」と。ルール的に有りなのか? グレーゾーンじゃないのか? と。が、それを口にはしなかった。何故かというと、理由は単純。美羽の本気度が少し前を歩く美羽から窺えたからだ。
***
職員室は美羽が絶望に打ちひしがれていた位置からそう遠くは離れておらず、美羽たちはすぐに職員室に付いた。
制限時間はあと少し。もはや一刻を争う美羽はすぐさま職員室の扉をガラガラと開ける。家庭科室の時のように扉の前で無駄な時間を過ごしたりはしない。
「失礼します」
丁寧な挨拶とともに職員室に入室する美羽。するとそこには――。
「「あっ」」
「え?」
何故か緋音と碧依の二人が揃って室内に居た。
次回投稿予定は明日の同時刻です。