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第三章 海路の探究少女  25話 かぜのむこうへ

今日もよろしくお願いします。

 ヒェロゥム・スァンズの乗った飛空艇を見送ったあたし等が船に戻ってダフネ達を馬小屋に戻していると、船長が操舵室の裏扉から顔を出すのが見えた。

馬場の芝や土を踏み越え『ご相談があります』と声を掛けながら小走りに近寄って来る。

内容は寄港の日程についてで、一部の客から航程の遅れを取り戻すため補給が済み次第出帆できないかと要望があったらしい。

本来は最低4日間の停泊予定だったが、その最終日が今日の日付だったから明日出帆できたとしてもまだ1日分の遅れが残る勘定。

補給資材の積み込みは明日の午前中で終わるので、客の全員が了解すれば昼一番に出港したいとの事だった。


「私は全然構わないわよ。確かに気候は最高だけどちっさな島で出来ることはそんなに無さそうだからね」

「俺もいいぜ。早く着くならそれに越したことはないからな」

「僕も皆が良いならそれで大丈夫だよ」

「承知しました。他のお客様の了解は得ましたので、明日積荷が片付き次第に帆を上げる事にいたします」


 翌日午前中にもう一度馬達を軽く駆けさせて戻ると丁度出帆準備が整ったところで、後方甲板の馬場で馬達の手綱を握ったまま船出を迎えた。

スァンズ氏の調査の件については昨日じっくりと打合せを済ませてある。

打合せの詳細は長くなるからここじゃ省くとして、連絡はチャンク宛とマチア宛で探究者ギルドへ同じ物を送るように伝えたので、定期的にギルドで照会すれば大丈夫。

こっちからの連絡はギルドの通信の魔導具で官庁のスァンズ氏担当部署へ【イクァドラット総督府秘書室】から呼び出しを行う取り決め。

つまりギルドがある所なら連絡は容易たやすいって事ね。

あぁ、この船を降りるまでは操舵室の通信魔導具での連絡になるのは当然で、その際の使用については魔石の提供を条件に許可を得てある。

内容によっては機密性も考えた対応が必要だけど、その辺りは臨機応変にするしかないかな。

連絡がつくから物事が解決する訳じゃないけど、情報が無きゃ何も始まらないのも確かだからね。

あたし達は全員まだ、アテメアに着いてからどうするか身の振り方も決めていないけれど、あの件の真相が分からない事にはどうにもすっきりとフィリアスにサヨナラを言えないのよ。

だからと言って、フィリアスにべったりしがみ付く気なんて毛頭ないから船を降りるまでに事が解決しない時には、ギルドを拠点に連絡だけはつくようにしておこうってのが最低条件になるのかな。


     *


 最初で最後の寄港を終えて大型貨客船は一路アテメアを目指して北上を再開した。

目指すのはアテメア大陸最南部、ツフガの首都カゼノム。

チャンク達の母国セムリと同じ旧四公国連合ユニオンオブフォーデュークダムスから独立した国で、それ以前はアシュバ帝国の一部だったって話は聞いたことがある。

旧南海領地サウスアイランズの管轄がパノンとアルテで同様に南海へ開けたツフガが含まれていないのは、南海領地が拓かれた当時にアシュバ帝国を倒す原動力となったのがアルテ・パノン両国だった事と密接な関係があると言われてるみたいだけど、それは大昔の事で今の情勢に関係してはいないよね。

まぁ、特に問題が起きなければ船はカゼノム港へ・・・・・・向かうことになっていて、あたし達は着くまでにその後の身の振り方を考えておかなきゃなんない。

フィリアスは親戚の居るマジャンに、チャンク達は一旦故郷のセムリに、あたしとマチアはどこか盛んな魔窟の街に向かう……、全て解決していたらそんなところが順当なんだろうけど、そうじゃない時にはどうすればいいのかな。


     *


 憂鬱な日が続いてる。

旧南海領地サウスアイランズを出て北に進むと、俗に暴風雨帯ストームゾーンと呼ばれている海域に入った。

旧南海領地サウスアイランズで遭ったあの嵐みたいな常識外れの風雨じゃないけど、それなりに酷い雨風あめかぜなみが常態化していて、波浪は常に荒く、雨の降らない日は滅多に無い。

昔はこの風雨波浪が航海の妨げになって、南海領地への進出どころか、探訪さえも一向に進まなかったんだって。

あたし達にとって甲板での鍛錬や馬場の乗馬などは義務と言うより気晴らしや息抜きに他ならないんだけど、この雨風はその機会をことごとく潰してしまう。

馬小屋に入ってダフネ達に話し掛けながら毛並みを整えるのも悪くないし、船内での鍛錬だってやり方によっては屋内っていう条件下での腕前をあげる事はできる。

でも、そんな日ばかりが続くのは本当ほんとに敵わない。

だからって言うだけじゃないけど、あたしは独り船室に籠ってフィリアスへの設問をこしらえる事も多くなった。

段々と内容が高度になった分、設定や但書ただしがきの量が半端じゃなくなってるので、これまでみたいに『ちょっと片手間に』ってのが難しくなってる。

手書きで設問をこさえてると【ガリ切り】が頭に浮かんでちょっと気持ちがホンワカしたりする。

まぁそんな些細な愉しみがあるから手間暇の掛かる作業も続けられるのかもね。


     *


 早朝の船室が明るい。

小さな船窓から漏れ入る光が昨日までとは全くの別物べつもので、違う世界に来たみたいだ。

『今夜あたりで暴風雨帯ストームゾーンを抜けますよ』って昨日船長が言ってた通りね。

この部屋は左舷側なので朝日は差し込まないけれど、舷側の陰の小窓から遠く望む海面は煌めいている。


「マチア、起きて! 晴れたよ! 馬達を出してあげよぅ」

「ふぅふぁぁぁ、おはよ。朝から元気だねぇ。うぅむ、ちょっと待って……。むぁっぱっふぁっ! よし、目覚め完了ぅ。ドンと来いだょ……ぉ」

「ドンと来なくても大丈夫だけど、早くベッドを出よう。馬達に久し振りの朝陽を見せたいし、あたしもみたい」


 隣のベッドに声を掛けたと同時に跳び起きて、マチアの長い返事を聴いてる間にあたしの方は準備万端。

口だけで全然身体が動かないマチアの横に立って掛布をバァッと剥いでしまったけど、イクァドラットの朝と違ってあったかいここじゃあ効き目はない。


「ほぉぅらぁ! これでも起きないかぁ」


 うつぶせのマチアの腰に飛び乗って寝間着の裾から手を突っ込んで脇腹をじかにこそばしてやる。


「くゃはっはっはっはふぁふぁふぁ……降参、こぉさぁん、起きるから降りてよ」

「はぃな! じゃ、さっさと用意してね。朝餉は馬の世話が終わってからだよぉ!」

「了解。 あぁ、ホントに晴れてるんだ。そういえば揺れも治まってる。なんだか身体が嵐に慣れちゃって変な感じかも」

「そぅだね。他のお客のほとんどが慣れきれずにずっと気分悪そうだったよね。昔の人の魔力と技術力じゃ越えられない【魔の海】だったらしいもの。この船じゃなくて普通の貨客船だったらあたし達もちょっとは辛かったのかもね」

「あの特大嵐で大丈夫だったんだから、私等は大丈夫なんじゃない? さぁ、準備完了。おんまさんの顔見に行くかぁ!」


     *


 ダフネもシルファも他の馬達も、朝陽を浴びてすごく気持ち良さそう。

2頭に話し掛けながらダフネの毛並みを整え終わって、シルファの背にブラシをかけてるてると、隣で自分の馬にブラッシングしているマチアと目が合った。


「ねぇ、エノラ。ツフガに着いたらどうする積りなの」

「うん。海賊騒ぎがフィリアス狙いでないかどうかで変ってくるからね。考えるのはこれからだよ。マチアはどうしたいの?」

「私はエノラが思うままでいいよ。イクァドラットを出ると決めたのもエノラがそうするって聞いたからだし。もう一度バクラットに戻るまでは、エノラの後についてくって決めてるからね」

「なんか責任重大なんだけどぉ。決めるのはあたしでも良いけど、ちゃんと意見は言ってくんなきゃだよ!」

「意見は言うよ。そうでなきゃマチアさんじゃ無くなっちゃうからね」

「ははは。そうそう、チャンクが【暴虐無人】って言ってた。暴力の暴に虐殺の虐の【暴虐】がピッタリだって」


「はぁ、何それ? 誰が【暴虐】なのよ、【傍若無人】なら私も認めるけどさ。余程よっぽど私に【暴虐】されたいのねぇ、あのチャンク君はぁ!」


 カゼノム港に着くまではまだ時間がある。

それまでには何か進展があるような気もするんだけど。

さぁて、どうなるんだろうね。

明日から挿話が10日程続きます。

以前の挿話とは違ってかなり昔のアクァステラが舞台のお話です。

明日以降も何卒よろしくお願いいたします!

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