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第一章 商都の孤児少女  9話 ツキがとっても多いから

今日もお付き合いいただきありがとうございます

 あたりが暗くなって夜店の人もお祭りにきた人も燐光ライトの魔法を使っている。

暗やみをほのかにてらす魔法なのでそれほど明るいものじゃないけど、こんなに人が多いと昼みたいに明るくなる。

ジュラネルさまの少しキツイくらいととのった顔がやさし気にあたしを見るのがふしぎで、『はぐれないようにね』とさし出された手を前にかたまってしまった。

メルノアお嬢さまから『ちゃんと送り届けるのよ』と言われた手前、やるべきことしているだけなのは分かっているのにドキドキしてしまう。

【自意識過剰】と子どもらしくない言葉が頭のなかでクルクルしているのを『分かってるわよ!』とおしつぶしてやっと、ニッコリ笑って手をとることができた。


 ひととおり昼間にまわったけれど【ヤマ】を見ながらだったから、いくつか食べものを買っただけだ。

【夜店】って言うだけあって、まわりがまっ暗な中に燐光ライトでうかび上がる屋台は昼よりもずっとステキでウキウキしてしまう。

でも『ジュラネルさまのあんないだから』とおとなしくするつもりだった。

なのに、ジュラネルさまはあたしの目がとまる店にはかならず寄って『一緒に食べよう』とか『2人でやろう』とか、返事をする前にお金をはらってしまう。

あっと言う間にあたしのお給金ではらえる分をこえたけど、今さらことわる事もできないので『好きでしてるみたいだからいいよね』と考えないことにしてしまった。


「なぜクジ引きはしないんだい?」

「だって当たらないですから」


 あたしがその手の店に気をひかれないのを変に思ったみたいで、のぞきこんでくる大きなひとみをさけて小さな声でつぶやいた。


「大丈夫だよ。誰も当たらなけりゃ客は来ないだろう?」

「はあぁぁ」


 品物をならべてあるのはどこも同じで、つなげたヒモをたばねたのを引っぱったり、竹ヒゴの長さで当たり外れが決まったり、物に付けられた番号を書いたクジをえらんだり。

店ごとに色んなくふうをしているので、たしかに見た目はおもしろそう。

またぞろジュラネルさまがお金をはらってしまうので、しかたなくしてみると小っちゃくてどうでもいい物ばかりだけど本当に当たりはあった。

『これはいっしょにしないんだ』とふりかえると、ジュラネルさまはうしろに下がっていくつかの店をじっと見ていた。

しばらくそうしていたジュラネルさまは自分でヒモをえらぶ店で小銭をはらって、おもむろに一本をえらんで引っぱる。

なんとびっくり、目の前で中当たりのけっこう高そうなオモチャが引き上げられた。

それからヒゴの長さをえらんだり、マス目に貼られた色紙をやぶいたり、番号をかいて渡したり、立てつづけに中当たりを引き当てる。

おどろいていると『見てごらん』とうしろを向かされた。


 けっこうおおぜいの大人がさっきのジュラネルさまみたいに、うで組みで店のようすを見ている。


「本当に運だけだと子どもしかしないだろぅ。だから大人に考えさせる店もあるんだ。それを見やぶるのが楽しみの人もいるからね。よぉく考えれば中当たりは難しくない。まぁ大当たりは客引き用だからまず当たらないけどね」


 でも見ていると腕組みの大人がクジにいどんでも当たりはそんなにいない。

『考えたからって絶対当たる訳じゃない。やっぱり頭の出来は大事なんだ』とこっそり耳打ちされた。


「だけど正直に言うとね。これは全部メルノアに教えてもらったんだ。君くらいのとしの頃にね、凄いだろう。でもね見ての通り、知ってても出来る奴は少ない。彼女にはかなわないけど、自分だって捨てたもんじゃないって思うようにしてるんだ。だから今言ったことは内緒だよ。きょうは月が青いからツキも多いって感じでね!」


『いぇいぇあたしにすれば、どっちもすごいと思います。やっぱり国でもゆび折りの大店おおだなの血ってとんでもないんですね』なんて本当に思っていてもおべっかみたいでとても言えないけど、『もっとメルノアさまとの事を聞かせてもらえませんか』と自分をはげましてたずねた。

さっき2人が話していた時の身内と話すお嬢さまの歯にきぬ着せないようすが目にあたらしくて、もっとずっと聞きたかったから。

それを聞いたジュラネルさまが目をかがやかして辺りを見まわした。

少しはなれた所に並んだ大きめの石をみつけると、あたしを引っぱって行く。


「だよねぇ、エノラだって聞きたいに決まってる。それじゃあ何から話そうか……」


 大石にこしかけて話しはじめるとジュラネルさまは止まらなくなった。

ほんとに小さなころはまだあのお店でいっしょにくらしていて、2つ上のおねえさんと3人とても仲がよかったそうだ。

それから10年たらずは商都と教都に別れていたのにメルノアさまとのでき事はほんの小さな話もおぼえているみたいで、夜店の人が片づけをはじめても終わりそうにない。

あたしもいつまでも聞いていたかったけど、もうもどらないとジュラネルさまがしかられるわ。


「そろそろかえらないと、お嬢さまがしんぱいなさいます」

「あれぇ、もうそんな時間かぁ。ごめんね。それじゃ送って行くよ」

「いいぇ、夜店もお話もぜんぶ楽しかったです。ありがとうございました!」

「そうかい、それなら良かった。あぁ、お店のお代のことはメルノアには内緒だよ」

「はい」


 しぜんに手をつないだけど、お祭りがおわってしまえばこんな事はもう2度とないだろう。

見上げるとキレイに青い小の月が光ってる。

『あたしのツキはこの手をつないでもらったことかな』

そう【ドラ息子】のことだって、あれがなければこの今だってきっとないんだから。

今日のあたしはとってもツイてたのだ。


     *


 数日はナムパヤにいるって聞いたけど、そのあとジュラネルさまには会えなかった。

『教都店の用件で来たから自由が利くのは今日だけなんだ』と言っていたのでいそがしかっただろうし、そんな時にわざわざ時間をあけて顔を見せる仲にもなっていないから当たり前だけど少しさびしい気もした。

お店のほうには何度か顔を出してカザムさんたちと打ちあわせをしていたらしいけど、お嬢さまはジュラネルさまの事は気にもせず外出していた。

お嬢さまが出かければあたしも付いて行くので会えるわけもないけどね。


「昨日の夜店は楽しかった?」

「はい」

「そう、よかったわ。ジュラネルに任せて正解だったみたいね」


 あくる日のあさげでお嬢さまに聞かれたときにはなぜか少しドッキリした。

あいかわらずのリンゴ頬だから顔色は変わってないと思うけど。


「あのこね、結構やるのよ」

「そうだと思います」

「うん。あまり融通が利く方じゃないけど教えた事はあたしよりずっと上手くできるのよね。姉のジェレミィより教都店の経営には向いてると思うんだけど、本人はデュラグラ学院を出たら【資格修士】で官庁幹部を目指すつもりみたい」


 メルノアさまが言うにはお姉さまは『物の目利きはできるけど他の算段がねぇ』で『目利きは苦手でも算段ができる』ジュラネルさまの方がいいのではないかとのことだ。

つまりどっちもできるメルノアさまに比べてお二人はどっちかしかできないけど、ジュラネルさまのほうがマシなのだろう。

もちろん、このばあいの『できない』はメルノアさまがモノサシだから、世の中の人たちからみればどちらも『できる』と言われるんだと思う。


 あたしはメルノアさまの力の1つが『物の良し悪しと価値がわかる』じゃないかと思っていたけど、もしかしたらそれは物だけじゃないのかも知れない。

明日もよろしくお願いします!

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