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第三章 海路の探究少女  23話 フタリノ・ハァモニ

おいでいただき、ありがとうございます。

 久し振りに上陸した港は雨が上がったところらしくて、朝の陽射しが沢山のキラメキをあたしのに送り込む。

フタリノ唯一の港町ハァモニ、『どこかで聞いたような』と思ったら珈琲にいれるパウダーのイメージソング? これも確かデュエットで、ちょっと渋めな人選だったような。

なんて愚にもつかないことを思い浮べながら、5人で馬を牽いて突堤に降りた。

船の馬場で出来るだけ運動はさせてたけど、ちゃんと地面を駆けさせてあげないとね。

ダフネも久し振りの大地--と言ってもそれほど大きくも無い島だけど--に少し鼻息が荒いのを、首を撫でて落ち着かせる。

船の食堂で朝餉を取りながら何をしようか話し合って先ずは騎乗で島の外周を回ろうと決めた。

外周路は10キロ足らずだと聞いたのでなみ足でも2時間は掛からない。


「雨が止んで良かったね。道も整備されててぬかみも無いから馬達も喜んでるんじゃないの」

「だな。赤道付近だとすぐに蒸し上がる感じだったが、この辺りまで北上あがると、えっと何だったけ、ティリオ」

「打ち水効果の事か? 無理して使う程の言葉じゃないぞ」

「あぁそれ、それ。とにかく気分が良くって景色も良いから合わせて最高ってことだな」

なぁに言ってんだか。まぁ馬達も気持ちいいのは……、あれっ?!」

「どうした?」

「えぇっ、あれって。いや、見なかった事にしよう。そうそう見なかった……って、思っても消えてくれないよねぇ」

「何なの、マチア?」

「なんであたしばっかりなのかなぁ? ほらアレ! 例の赤丸が飛んでるよ」

「あららぁ、本当ほんと!」

「凄いな。俺の【探査】の出番が無くなりそうだ」

「よくあれを見つけるもんだな。余程よっぽど相性が良いのか悪いのか」

「どっちなのかな?」

「悪いに決まってるでしょ! 変なトコに口挟まないの、フィリアス」

「今度は港のある島だからあたし達を狙い撃ちって事はないわよね」

「大嵐の影響まで考えてピンポイントで俺達を見つけ出すのは無理だと思うが」

「いやぁ、大幅に東に振れたおかげで風が良くて元々の航程に迫ってたからな」

「そうね。航程表の停泊最終日ぐらいよね、今日って」

「それを嗅ぎ付けるのは役人ならお手の物よねぇ。もしそうならまたシャムリさん?」

「いぃや。【探査】圏内に入ったばかりだがどうやら彼じゃなさそうだ。あぁ、操縦士は同じだな」

「とにかく港よね。残ってる方がだいぶ短いだろうけど、はや足じゃないと間に合わないと思うわ」

「そうだな。それじゃ急ごうか」


     *


 港に戻った時にはもうすでに飛空艇が桟橋奥の広場に繋がれていた。

ティリオの顔を見ると首を横に振って『操縦士しか残っていない』そうだ。

どうしようかと思案していると操縦士がタラップを下りてくる。

1人遅れたのは機体の手入れを済ませてから出てきたのだろうか。

左右を見渡して誰かを探している風だけどそれがあたし達なのかは分からない。

でも顔見知りには違いないので手を振りながら近づいて行くと、かなり深刻な顔付が和らぎ手を振り返してタラップの残りを駆け下りた。


「お会いできてよかったです!」

「私達に用事だったのですか?」

「はい。シャムリ氏に手紙をことづかりました。どうぞ」


 丁寧にあたしの胸の前に差し出す。

どうも彼の中ではあたしがこの中のリーダーだと刷り込まれてるみたいね。


「ありがとうございます。何か言伝がありますか」

「もし伝える余裕が在れば、今回の搭乗者と相対あいたいする前に読んで欲しいと」

「承知しました」

「私はお会いした事を知られない方が良いと思いますから、一旦艇内に戻りますね」

「お気遣いありがとうございます。それではお元気で」

「はい。それでは、また」


 あたし達も急いで飛空艇の傍を離れる。

桟橋に戻ると鉢合わせするかも知れないので街の方へ向かう。

馬車寄せがある食事処が見つかったのでダフネ達を繋いで店内に入った。


「航程の遅れまで考えて今日を選んだのかな?」

「どうだろう? 何か別件の都合にでも合わせただけじゃないのか」

「とにかくこの手紙を読まないとね。あたしが受け取ったから読み上げるね」


 早めの軽い昼餉の注文を終えると早速その話になるのは当たり前で、6人掛テーブルの片側真ん中に座ったあたしに左右のマチアとフィリアスは身を寄せて、向いに座った2人は大きく身を乗り出した。

封を開けて手紙を取り出して低い声で読み始める。

この声ならあたしみたいなスキルが無ければよそから聞き取るのは無理だろう。


『時間が無いので単刀直入に書くが、私の先輩同僚にあたるヒェロゥム・スァンズが君達に興味を持って探しに行くと言う。率直に言うなら彼は私よりも余程役人らしくて、庶民の感情をさいなむ楽しみと自分の利益を両立させる事を業務の成果よりも優先させる実に敬愛すべき人物だ。彼の得意技は探究者の前で全く無関係の庶民をいたぶり尽し、業を煮やした探究者に自分の盾になる者を襲わせて、無抵抗の者への理不尽な暴行としてギルドに提訴し、ライセンスを剝奪した上で庶民として苛み続ける事だ。そして精神的に追い詰めた元探究者を手飼いにしてしまう。もちろんその中に君等の様な上級者は居ないので私は心配などしないがね。スァンズに君等の見た目や強さの事はほとんど話していない。生意気な奴等に探究者権限をタテにいっぱい食わされたと彼の傍で憤慨してやっただけなのだ。元からそれ程親しく口を利く仲でもないし、どちらかと言えば私の目の上のたん瘤の様な存在なので君達がどのように料理しようと私は一切構わない。それでは健闘を祈る。以上、袖触れ合った者よりご一報まで』


「時間が無いって割にまたいっぱい詰め込んだもんだなぁ」

「これはどう取ればいいんだ?」

「師匠たちへの忠告?」

「私達への好意って意味? それはないんじゃないの」

「そうね。好意って言うより、目の上のたん瘤への対抗心かしら」

「そうか。目の上のたん瘤には自分より酷い目に遭ってもらいたいんだな」

「まんまとシャムリ氏の片棒を担ぐのは癪に障るがな」

「でもさ。私達の気にいろうがいまいが、降りかかる火の粉は祓わないとしようがないわよね。ねぇ前みたいな手を使う?」

「いくらなんでも同じ手は無理じゃない? あたし達に興味を持ったのなら、年恰好くらいは調べて来てると思うわ」

「じゃあ、どうすんだよ」

「そうねぇ。この中で素性が知れていないのは……」


     *


 あたし達が食事処を出て桟橋の方へ向い、港湾作業の大型荷馬車の陰から様子を窺うと

大型貨客船のタラップでは何やらひと悶着持ち上がっている。

乗り込もうとする長身の紳士に当番の航海士が乗船理由を訊ねたところ『はぁ?何故私がそんな事をかれなければならんのかね?』と木で鼻をくくった返事で、取り合おうとしない。

紳士は全身濃紺の渋い色目のスーツだが、縦巻きの長髪でラッパズボンに広襟上着で上着の中はフリフリのドレスシャツと言う非常に個性的な格好で、アイベルム・シャムリ氏のオーソドクスな型のスーツの配色がかなり奇抜だったのと、とっても対照的。

連れはナビゲータとして同乗して来た人だろうか。

こちらは至って普通の格好だわ。

『当船は保安上の規定で乗客の皆様以外の方は漏れなく入船目的を明示いただく事になっております。お手数ですがお話しいただけませんでしょうか』と、航海士の対応は変わらず丁寧だ。

 このやり取りはまだ騒ぎになっていなくて此処から会話は聞き取れないから、【天鳴】に響いたのをあたしが皆にコソっと話してあげてるの。

『しつこいね、君は! どうしても私の行く手を遮ろうというのだな』

『これも仕事なのでね。いつまでも勝手を言わずに目的を話してくださいよ』

『そうか。それは仕事か。船会社の正式な業務として私の行動を妨げるのだな』

『いや、何もそんな大袈裟な。ただ乗船目的を話して下さるだけでいいんですよ』

『そうか! 船会社として公式にこのヒェロゥム・スァンズの密命を阻止するのだな。うむ、それならばこちらにも考えがあるぞ』

『密命って、これまた大袈裟……って、ま・さ・かぁ!!』

スァンズ氏の大仰な物言いを理解した航海士の顔がら血の気が失せて蒼白になった。

明日もよろしくお願いします。

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