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第三章 海路の探究少女  15話 ツボミ

今日もお寄りいただきありがとうございます。

 飛空艇は晴れた大空を快調に進む。

定員6名だからナビゲータには艇を降りて貨客船で待機してもらう事にした。

今日の案内はあたしの方が確実だからね。

飛空艇の構造はすっごくシンプルで、流線型の薄くて軽い外殻の大半が気球で満たされて中央部だけに乗務区画がある。

乗務区画の上部は操縦席で少し盛り上がった形の前後が透明になってる。

透明な部分に硝子を使うのは安物の機体で、公用の物はクラーケンの水晶体を引き延ばした物を嵌めているらしい。

硝子よりも軽いうえに割れたり劣化したりしないんだって。

操縦席から4時と8時の部分に同じ様な盛り上がりの透明窓があって、乗客はそこから外を見る事ができる。

浮力は気球に満たされた軽気体--ヘリウムと水素--で専用の抽出アブストラクトの魔導具で空中から供給される。

気球の素材自体が収縮コントラクトの魔導具なのでそれで浮力を調整する。

推進力は前後方向だけの移送トランスファの魔導具で、船尾の方向舵は人力で操作、急旋回には左右後部に伸びたひれ動作モーションの魔導具で推逆の機動を起こさせる仕組みらしいわ。


 はじめは大人しく乗ってたんだけど、あたし等4人の【探究の虫】が収まりつく訳がなくて、半ば脅迫めいた手口で操縦士席を強奪してしまうと、その後は戦闘機や急降下爆撃機--どっちもこの世界にはないけどあたしがやって見せたら3人ともそれなりに真似るのよね--並みの機動の連続で、気付いたらシャムリ氏だけでなく操縦士まで口から泡を吹いて完璧に気絶してたのは少し可哀想なことをしたかも。

魔導具って魔石を燃料にして動くんだけど、この機体のは旦那ギルァム様お手製の物みたいに人の魔力干渉を排斥する機能が付与されていないし、燃費を向上させるのに安直な仕組みを使ってるから魔力干渉の効率も妙に高くてチャンク達の魔力量でも何不自由なく操れてしまった。

まぁっ、旦那ギルァム様に言わせたら『良く出来た玩具おもちゃ』で、探究者からすれば『外部からの干渉を受ける危なっかしくてとても公用には使えない代物』なのよね。

こんなのに意気揚々と自慢げに乗って来る【お役人様】の気が知れないけど、わざわざ教えてあげる義理は無い。

それを放置してるのはきっと『ギルドにとってその方が都合が良い』からなんだろうし、あたし達がそれを公表したりすればその思惑を台無しにするんだからできる訳が無いのよ。


 やっぱり魔力に関してはマチアが一番で、航空機の事を知らない分飛空艇の挙動が唐突で激しいものに成りがちだけど、放っておけば乗務区画内を転げ回る運命の意識の無いシャムリ氏と操縦士を魔力で座席に押さえ付けるのも忘れてはいない。

そもそも、あたしが最初に見せた見本は旋回や降下上昇どれをとっても2人が椅子から転げ落ちない様なG変化を配慮した挙動しか取らなかったんだけど、それを理解しろって言うのがまず無理だもんね。

無茶な挙動だからの楽しみもあるし、最終的にケガ人さえ出さなければいいんだと割り切る。

チャンクとティリオについては少ない魔力で似たような操縦をしようと、更に強引な挙動が目立つ上に気を失った2人に配慮する余裕もないので、あたしとマチアが眉を顰めながらフォローするしかなかった。


「どう、満足した?」

「いやぁ、最高だね! 俺達の操縦も捨てたもんじゃなかったろう?」

「そうね。あの2人が死んじゃいそうなくらいには」

「えぇぇ、本当かよ! マチアの時は何て事なかったじゃないか」

「私は自分の魔力で2人を押さえてたからね。あんたら、あたしが操縦してる間自分はどうして座ってた?」

「思い切り踏ん張って、それでも無理なら魔力で支えてた……、あぁぁ! そうか、意識が無けりゃ跳ね回るしかない」

「そんくらい分かって操縦席に座ったと思ってたんだけど、全く2人揃って能天気のお調子者なんだから。これで私等より十近く年上なんてとても信じられないわ」

「すまん、面倒かけて悪かった。こんなの初めてだから、ついつい興奮しちまってな。エノラが最初にやった時にはそんな心配は無かったから自分等も大丈夫って思い込んだのかも知らねぇな。それにしてもよくこんなのが出来るって思い付くもんだな。すげぇよ、エノラ!」


 操縦室から下りてきた途端マチアにやり込められた2人は反省の色はあるものの、興奮は冷めやらぬ様子だ。


「全員試したところで終わりにしないとね。2人が目を覚まして干渉に気付かれると拙いから」

「そうだな。じゃあ、こっからは誰が操縦するんだ?」

「あたしがする。ごくごく普通にね。あたしなら島の位置も分かるから」

「じゃあお願いね。でもお遊びでちょっと位置がずれてるし、今浮いてる間も少しは流されてるかも」

「その位の誤差なら俺の【探査】で見つけられるさ。エノラ、近づいたら合図してくれ」

「分かった。じゃ、操縦席うえに行ってるね」


     *


 あたしの操縦で最初の島に着く前にシャムリ氏と操縦士は目を覚ました。

『操縦不能で墜落しかけたのでは無かったのか?!』と目覚めるなり叫んだのがスキルに響いたから、あたしが始めたお遊びは操縦が下手で墜ちそうになったと思い込まれてるみたい。

『そうなんだよ。俺等も驚いたぜ』なんてチャンクが調子を合わせるのはいつもの事。

『ふぅぅ。どうやら操縦にも慣れたようだな。世の中飛べる者の方が少ない事を探究者も理解せねば困るぞ。こちらはこの飛空艇が墜ちれば死ぬしかないのだ』と毒づかれて耳が痛いけど、今回は正論だ。

流石の【お役人様】も命が掛かると真面な事しか話さなくなるのかもね。

その横から『あのぉ操縦に慣れたのは良いのですが、この速さだと魔石が持たないと思いますが』と恐る恐る操縦士が声を掛けてきた。

『なんだとぁ! それではまたもや海の藻屑の危機ではないか!』

『あぁ、魔石ならとっく無くなったわ』

『ふぇ? それなら今はどうして飛んでいるのだ?』

『何とぉ! 特大魔石ではありませんか!?』

操縦席への登り口に在る魔石ホルダーを覗いた操縦士が驚気の声を上げる。

『あんなみみっちい魔石で2つも無人島を回る気だったのなら正気を疑うわね。私達の手持ちの標準サイズに付け替えておいたからスピードの心配はしなくていいよ』

『特大魔石が標準だと。見栄を張るのもいい加減にするが良いぞ』とシャムリ氏は取り合わないけど、面倒なので放っておこう。


     *


「こ……、これは? 海賊を捕らえて島に押し込めたと言うのは本当だったのか」

「なんだよ。嘘だと思ってたのかぁ」

「いや。全てが嘘とは思わんが海賊の数については眉唾かと……」

「そんな嘘を言って誰が得をするんだよ」

「得とかどうかではなく、4人で100人以上を生け捕りなど聴き間違いに違いないと思うのが普通であろう。しかし確かに見えるだけで50人は居る」

「あぁ。あれは操縦してるエノラが全部独りで意識を刈った連中だ。俺達2人が倒した30人は多分まだ岩陰辺りで療養中だろう」

「4人で100人ではなくて、1人で50人なのか?」

「あの程度の相手ならエノラなら50人どころか100人でも足りない。マチアでも無傷に拘らなきゃ50人は確実だ。あいつらは俺等2人と比べもんにならないくらい強いんだぜ」

「それでは魔石の話も本当なのか?」

「そうだな。エノラなら超大型魔獣も瞬殺だ。奴等の荷物には深層魔石がゴロゴロしてるよ」

「あの若さで深層探究者だと」

「そうだよ、一国にそう何人も居ないって奴な。俺等2人だって何処に出たって恥ずかしくない探究者だがよ。あいつらはあんなの年頃でアレなんだ。そんな理不尽で不可解な世界で生きてんだよ、貴男あんたも俺等もな。あいつらがイクァドラットを出た事で世の中の何かが変わるんじゃないかと俺等は思ってる。貴男あんたも役人風を吹かすばかりじゃなくて、ちょっとは考えてみたらどうだ」


 こらぁ、ティリオ。

そんな話あたし達の居ないトコでしてよね。

ヒソヒソ話したって【天鳴】には響いちゃうんだから。

明日もお待ちしております。

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