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第三章 海路の探究少女  13話 ひとみをとじて

2月に入りました。

これからもよろしくお願いします

 旧南海領地サウスアイランズは今もパノンとアルテ共同管轄の自治区で、アテメア大陸南方から赤道域の北方にわたる広大な海域に拡がる島々の総称なのよね。

行政区分は北西部・北東部・西部・中部・東部・南部の6つに分かれていて、島の分布が一番密な北西部だけは全て自前の完全自治が成立しているんだけど、その他の地域では領域運営の一部をパノン・アルテ両国から派遣された人材に頼っているの。

その依存度は南に進む程高くて、今回の鉱山島が在る南部はほぼ100%依存らしいわ。

南部全域のおおよそ中央部北側に位置する1つの島全体が南部自治役所で、各島への交易船はその近隣の島にある交易会社が運営してる。

あたし達が乗る貨客船はイクァドラットから真っ直ぐ北上していて、自治役所の島よりかなり東の海域を通過する予定。

自衛の為もあって海賊を退治たけど、まさか役所まで連行する義理もないから、海賊行為の実体と海賊を放置した島について通報すれば、こっち側の責任完遂なのよね。


 海賊の対処から通報まであたし達4人が勝手に進めたのにはそれなりの訳があって、公的な巡察部署や軍隊が不在の場合に限っては秩序維持を探究者ギルドが担う事が正式に認められているから。

これを船会社の警備部門がやっちゃうと場合によっては過剰防衛とか越権行為なんかの責任を問われる事がある。

もちろんあたし達だって糾弾される場合はあるけど、今回は加被どちらにも死者を出していないし物的損害も軽微に済ませたから文句を言われる筋合いは無いのよ。

多分役所からすれば、海賊を全滅させていれば全責任をあたし達に押し付けられる上に、収監の手間も掛からないから最高の結末なんだろうけど、そうは問屋が卸さない。

報告を聞き進める間に担当者の返事がどんどん鬱陶しそうな声色に変わっていくのを気にせずに、一分の隙もない通報を済ませてやった。

『…………』指摘を探して思いを巡らしても何一つ見つからず『ご苦労様でした』と苦虫顔が透けて見える担当者の声を合図に通信を切る。


「「「「いぇぇぃ!」」」」

「探究者をなめんじゃねえぞ!!」

「だよねぇ!」


 通信魔導具の前に並べた椅子からスタッと立ち上がって4人でハイタッチを交わす。

もしかすると商都ナムパヤを出てから最高の爽快感かも。

別に役所勤めの人に何か思う所がある訳じゃないけど『役所そのものがもう少し効率よく動けるんじゃないかな?』と常々思ってしまうのはタリアンさんの影響なのかな。

でも他の3人も似たような反応なんだから、きっと皆同じ様な事を考えてるんだよ。

まぁ、公僕に全く不満を感じない人の方が余程よっぽど珍しいだろうけど、皆あたしと同じように漠然と思うだけでこんな憂さ晴らしで気を紛らせるのが精一杯。

その辺がタリアンさんとの違いなんだね。


     *


「ねぇ、アレなぁに?」


 中央甲板で鍛錬の仕舞い所作を終えたばかりのマチアが北の空を指差してる。

晴れてはいるんだけど小さな綿雲が撒き散らされたような蒼空に米粒みたいな何かが見えた。

雲の流れで隠れないところを見るとそれほど高くはない。

どうやら近づいて来るみたいだけど、ちょっと見当が付かない。


「あぁ。ありゃあ、飛空艇だな」

「飛空艇?」

「そうだ。民間で使われてんのは見た事がないから、パノンかアルテの公用艇だろ」

「空飛ぶ魔導具なの?」

「進んでるのは魔力だろうが、浮いてるのはそうじゃないって聞いたことがあるが。俺等に説明しろなんて言うんじゃないぜ」

「イクァドラットじゃ見た事がないわよ」

「あぁ。何でも海抜数百メートルまでしか上がれないらしい。あんな高いトコばかりの国じゃ使いモンになんないだろうよ」

「重さの制限があって貨物も載せられんし、乗員数も限られるって言うからな。交易なんかの役には立たないが、軽いだけに移動が簡単だ。凪続きの時は船なんかより余程よっぽど役に立つらしい」


 なるほどね。

飛行船の浮力に魔力推進を組み合わせてるんでしょうね。

確かにイクァドラットの薄い大気だと浮力が得られないわ。


「公用って事は、役所関係? ひょっとして海賊の件で何かあったのかな?」

「さあなぁ。こっちの手続きには何の問題も無かったと思うぞ」

「そうよねぇ。エノラがぐぅの音も出ないように片を付けて、スッキリしたんだもの」


 話している間にも飛空艇は見た目の大きさを増していく。

この辺りには島どころか他に船も居ない筈で、この貨客船を目指しているのは間違いなさそうね。

米粒よりはだいぶ大きく見えるようになったけど、真正面だからまだ小さな丸みたいな感じで細かなところは分からない。

正面は赤っぽく見えるけれど、全部があの色だとあんまり趣味が良いとは思えないな。


「ねぇ。船の通信魔導具に何か連絡が入って無かったか訊いてくれない?」

「分かった。ちょっと待ってろよ」


 チャンクが仕舞い所作に座り込んでいた甲板から立ち上がって操舵室へ向かう。

ティリオが腰を下ろしたまま瞳をとじて・・・・・るのは【探査】が利くか試してるんだろう。


「ティリオ、何か分かった?」

「乗ってるのは3人で、全員男だな。公用艇だとしたらパイロットとナビゲータは必須の筈だから、公務で搭乗してるのは1人だけって事になるな」

「へぇ。それってどう理解したらいいんだろうね」

「難しいトコだな。辺鄙なクソ田舎の仕事を押し付けられた気の毒な窓際族か、将又はたまた好き勝手に仕事を選り好みできる興味本位のエリート様か。まっ、どっちにしても関わり合いは御免蒙ごめんこうむりたいね、俺は」

「で……。本当ほんとに厄介なのはどっちなの?」

「言わずもがなってのはこんな時のためにあるんだろうが」

「って事は……」

「そう。エリート様さ。なにせ奴等の得意技が『法の拡大解釈』だからな。自分等の都合で好きな様に捻じ曲げた理屈を振りかざしてくる。そうなるともう庶民には手のつけようが無い。当然出るトコに出て筋を通せば無理は引っ込むんだが、それに掛かる手間暇は途方も無いし、横車を押し通された時の鬱憤は消えない。奴等自分の言い分が覆っても『ほう、その様な解釈があるとはな、はっはっは』だけで謝りもしないからな」

「何よ、それ! イクァドラットにそんな役人は居なかったよ」

「あぁ。お前さん達の国は【大変革】の後に出来た新しい国だから。法体系も違う筈だ」

「それじゃあ、これから行くアテメアはそんな役人達の好き放題の国ばかりなの? 私行くのがになったかも」

「だがな。そんなエリート様にも唯一の泣き所がある」

「えっ、どこどこ?」

「探究者よね、きっと」

「そうだよ! 俺が居ない間にえらく深刻な顔してると思ったらその話か。あぁ、特にそれらしい通信は無かったってよ。それじゃついでに、続きは俺が話してやる」


 操舵室から戻ったチャンクがニマっと悪い顔で笑って話の接ぎ穂を拾う。


「エノラの予想通り、そんなエリート様達のたった1つの泣きどころと言えるのが俺達探究者なんだな。事の起こりって言うか、全てはやっぱりあの・・大変革に端を発してるんだ。何で一気に世の中の仕組みがあんなに大きく変ったのかは、清龍様が世界を救った事の揺り戻しみたいなもんだって言われてるけど、まぁそれはどうでもいいよな。要は変革が大き過ぎて世間の混乱がどうにも収まらない時期がかなり続いた。そこで何とか混乱を抑え込もうとして一部の役人に大きな権限を与えた訳だ。それで時間は掛かったがどうにか世間が落ち着いたんだが、その頃には一時的な筈の権限を役人達が既得権として手放さなくなってしまった。その権限ってのが『緊急時の官僚権限』って奴で、その法文には緊急時かどうかを役人本人が判断できるように書かれてるんだ。ただ、その法文は表裏一体の物でな『探究行為阻害禁止』てのがセットなんだよ。これは『探究者が必要と判断した救済行為については何者もそれを阻害糾弾できない』って条文で、これもその行為が救済かどうかの判断は探究者に任されてるから、探究者絡みの事案を救済行為だと言い張ればどんな役人だって難癖は付けられないって事になるのさ」


 あぁ、もう少し話を聞いときたいけどあの飛空艇が舳先上空まで近づいて来ちゃった。

明日もお待ちしております♪

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