第三章 海路の探究少女 12話 わかってください
今日で1月も終わりですね。
あっと言う間のひと月でした。
皆さんはいかがでしたか?
「おかえりぃ!」
「おかえり。大変だったね、お疲れ様」
「ぐはぁっ! もうやらねぇぞ、あんなの。ティリオが拘るからめちゃ苦労したぜ」
「むふぁあ。確かにきつかったが、これで明日の寝覚めはきっと良い筈だ」
「そうよ。悪人だって殺すのは気分がいい訳ないもん」
「その顔付きだとちゃんと達成できたのね」
「あぁ、誰も死んじゃいないぜ! もっとも本人に取っちゃ、死んだ方が楽な奴もいるかも知らねえがなぁ」
「で、生け捕りにしたのはいいが。ここからどうなるんだ?」
「重症なのは私が治癒か再生を掛けてもいいけど」
「そうじゃなくて、ティリオが言ってるのは残党の処理や役所への引き渡しだろうが」
「あっ、そっちの件ね」
もう1隻の海賊たちを鎮圧して戻った2人は完全に息が上がってる割に表情は穏やかで明るい。
もしかして疲れてるのは戦闘のせいじゃなくて、あたしが残してった巡遊艇を漕いで戻ったからじゃないのかしら。
「残りの2隻はやっぱり逃げ出した。通信の魔導具で【頭】の船と連絡が取れなくなったら、マチアが【幻想】を解除する前にさっさとね。どうも推進用の魔道具まで積んでたみたいで、ティリオの【探査】でももう圏外でしょ。魔道具や魔石に不自由しないんだから、余程金回りが良いのね。どう考えても喰いっ逸れの海賊なんかじゃない。通信の魔道具も回収したけど、値は張っても所詮汎用品だから素性を特定するのは難しそうよ。なので、あの2隻は打ち合わせ通り今は放っておきましょ」
「それは良いとして、問題は海賊達だぜ。正直、殺しちまえば面倒は無かったが、島のも合わせりゃ100人じゃ済まない。ありゃ、どうするんだ?」
「あぁ、それね。島に行く途中であの少年に聞いたんだけど、この辺りには樹も生えない小さな無人島が幾つもあるのよ。戻ってくる途中に1つ見つけたから、ここの海賊達はあたしとマチアが海賊船に乗せてその島へ連れてくよ。この船は大きすぎるけど海賊船ならあたしのスキルにマチアの魔法を足せば割と速く動かせそうだから」
「島へも2人で行って適当な無人島の場所を訊くの。それで向こうに残ってる海賊船で同じようにするんだね。海賊船は沈めちゃうの?」
「えぇっと、1隻だけは島に残しておこうかな。役所から連行に来た時に要るかも知れないからね。」
「役所への連絡は?」
「この船にも通信魔導具があるから。無人島の位置をちゃんと確認して、戻ってから連絡するわ。狭い無人島で何週間か暮らす事になるけど、海の男達なんだから何とかするでしょ。最低限の飲み水は海水から浄化で抽出るだろうし、当面の食料と釣り竿と投網でもあれば拘引されるまで生きていけるよね、きっと」
「それじゃあ、明日朝出るとして戻りは明後日遅くになりそうだな」
「そうだね」
「エノラ。海賊たちの様子を見に行くから付き合ってよ。今夜また暴れられたら、落ち着いて寝てられないからさ」
「了解」
「悪いな。俺等は疲れたから干し肉でも喰って寝させてもらうぜ」
「頼んだよ。明日朝にまたな」
「「うん。じゃ、また明日」」
*
翌々日、そんなに遅くはならなかったけれど、戻ったのは夕餉の直前。
一昨日のチャンク達じゃないけど、あたしとマチアもぐったりしていた。
なんてったって昨日今日と2日連続で、ほとんど風に頼らず2人だけで海賊船を10キロ以上移動させて海賊達を無人島に押し込んで来た。
散々あたしが手玉に取った海賊たちは抗う気力を無くしていたし、チャンク達が制圧した奴等は障碍が残らない程度までマチアが回復させただけで満足に動ける者はほとんど居ない。
海賊船の移動にうんざりしていたあたし達には、海賊が大人しく従うばかりなのはとても助かった。
そうでなければ2人して要介護者を増やしてしまったかも知れない。
昨日は島に泊まって歓待を受けた。
30人程度が食い散らかしただけの被害で済んだのは、あたし達の手柄と言うより黒幕の浅知恵のお蔭なんだけど、何かの形で歓びを表したい人達の気持ちはよく解るのでありがたく受ける事にした。
入り江の浜で開かれた祝宴には質素だけど心尽くしの料理が並び、賑やかに始まる。
鉱山の島といえば山師の集団の様にも聞こえるけれど、南海領土の多くの鉱床は領主だった人が魔力で見つけたもので、そこに順次作業者が入植していったと聞いている。
こんな一番端っこの南の果てに入植するなんてかなりの事情を抱えた人達だったんだろうけど、今の島民は純朴や職人気質といった山師とは程遠い人達ばかり。
あたし達が未成年でお酒が飲めないと聞いた時の気の落とし様はこっちが見ていて気の毒なくらいだった。
お酒が入るとそこかしこで歌や踊りが始まる。
それはそれで賑やかで楽しいんだけど、あたしの目は海に釘付けになった。
山がちの島によくある通り浜の近くから深くなる海に沢山のイルカが集まって来る。
あの時迎えに来た大きなイルカにあの男の子が乗って悠々と入り江を回遊する周りで、少しだけ小さなイルカ達が様々なジャンプを繰り返す。
小さ目と言ってもあたしの知ってるイルカよりずいぶんと大きいから浜から見ても充分な見応えがあって、奇しくも大小の月が満月近くで並んだ明るい夜景に浮かび上がるイルカと水飛沫の煌めきがあたしの記憶をくすぐる。
『あぁ、ラッセ▷だわ』と思わず漏らした声も周囲の歌声に埋もれ、耳に届いたマチアがキョトンと首を傾げただけで済んだ。
こっちで教えてもらった無人島は鉱山島の西5キロ程の所に在った。
関節を継ぎ直した海賊たちは普通に生活はできるけれど、5キロも海を渡ったり全力で闘ったりする程回復するには一月以上掛かる。
この無人島は昨日80人余りを置き去りにした無人島より更に小さいけど、たった30人だもの。
満汐になっても1人当たり3メートル四方より広い陸地が残るんだから大丈夫よね。
どっちの島にも貨客船で買い込んだ2日分の食料と食器それに釣り具類を置いて行く。
ちょっと面倒見が過ぎるのかも知れないけれど、それこそ乗りかかった船。
殺さずに捕まえちゃったんだからしようがないのよね。
昨日100人近くを乗せた海賊船はストレス解消に2人の光刃でズタボロにして海賊達から見える沖合に沈めてしまったけど、ここのは鉱山島へ戻す。
面倒だけどまた2人で5キロの海を航って、入り江の中に錨を下ろした。
巡遊艇に乗り換えて特大貨客船にさっき戻ってきたのよ。
あたしにすれば3日間の大活劇だったからこのまま休みたいトコだけど、まだ役所への届け出をしなくちゃいけない。
夕餉も取らずに部屋で休もうとしてるマチアを引っ立てて、操舵室に向かった。
「「ただいま」」
「おかえり」
「おぅ、ご苦労さん! 疲れたろうが、もう一息だ。船長に話して通信の魔導具を使う許可は取っておいた」
「ありがと、チャンク。じゃあ始めるね」
役所への連絡を4人でするのは当然報告の信憑性を高めるため。
あたしとマチアは魔窟の到達記録は申し分ないけど実働期間が短すぎる。
探究者歴が充分なチャンクとティリオは逆に到達記録では上級者レベルじゃない。
探究者の記録はある程度の頻度で全ギルドに通達されるから、この組合せの信頼度はかなり高くなる筈なんだけど。
しっかりと信用してもらえる状況で報告しないと、無人島に放って来た海賊たちが拘引されずに忘れられちゃうかも知れないからね。
魔道具が繋がった役所の窓口から巡察部門を呼び出してもらい報告を始めた。
『ちゃんとわかって下さいね!』と込めた気持ちは伝わったかな?
2月もよろしくお願いします!




