第三章 海路の探究少女 11話 ろくなもんじゃねぇ
「この船の人達は何て言ってんの?」
沈思黙考を決めようかと傾げた頭越しにマチアが2人に訊く。
「おぅ、ここへ上がる前に船長と話したが。言わなくても想像はつくだろう」
「乗客乗員の安全優先よね」
「そう。海賊は許しがたく見逃せんが、それも乗客乗員の安全が大前提。実のところ最低限の被害でやり過ごしたいってのが本音だな。相手が乗り込んで来るまで、警備員も盾に隠れて動く気はないし、乗員を矢面に出すなんて考えたくもないだろう」
「なら、私達も当面ここで待ちの一手ね」
「そうだなぁ。海賊船が1隻なら、俺達が乗り込んで一気に片を付けるのも有りだし、2隻でもできん事は無いだろうが、流石に4隻同時はなぁ。お前等が良くても俺達に1人1隻は荷が重すぎるぜ」
「そんなの私にも無理よ。エノラならやっちゃうけどさ」
「どちらにしても、余程よく考えないと間違いなく残りの船からの攻撃を誘発する事になる。この船が全面抗戦で一丸にならない限りこっちからの攻撃は難しいだろうな」
「やっぱり、そうよね。ねぇエノラ、どうする? 黙ってないで何とか良いなよ」
「うん! 海賊船をやっつけちゃおう!」
「へっ? それは駄目だって今ティリオが言ったじゃない」
「要は向こうの2隻に知られなきゃいいの。マチアの負担は大きくなるけど【幻想】の見せ場よ、ここは!」
「幻想? あぁマチアのスキルか」
「しかし、どうやって? まさか、右舷側全部に作りもんを見せるつもりか!」
「できるよね、マチア」
「うへぇぇっ。 出来なくはないけど……だいぶ雑な【絵】になるよ」
「大丈夫。あたしが戻るまで誤魔化せればいいのよ。チャンク達は時間が掛かっても、あたしとマチアが居ればこの船は守れるから」
「ちょっと待て、整理するぞ。まずマチアが誤魔化しの【幻想】を右舷に展開する。それからエノラが1隻、俺とティリオがもう1隻の海賊船を攻める。エノラは速攻で海賊船を攻め落として誤魔化しが見破られる前にここへ戻る。俺等はそれを気にせずに攻略を進めればいい。これで合ってるのか?」
「そうだね。そんな感じ」
「そこまでは良いとして、その後はどうするんだ?」
「残り2隻になれば勝ったも同然じゃない! 当然あと2隻も攻撃するのよね」
「海賊船が攻め落とされたら、あの2隻は逃げ出す様な気がするわ」
「あぁ、俺もそんな気がするよ」
「海賊の首領はいるが、あっち側にはそれらしいのが居ないみたいだからな」
「多分、この件の黒幕はここには来ていないのよ。それを炙り出すような証人や証拠も乗せてないような気がする。でも、今は海賊を捕まえてこの船を守れればいい。もし黒幕の狙いがあたし達だったら、また何か仕掛けてくるだろうし。これで凝りてくれればそれはそれで儲けものだから」
「そっかぁ。まぁ旅は始まったばかりで先は長いし、お楽しみはとっておくのも悪くないかな」
「何が『お楽しみ』なんだよ! 話は決まったんだし、さっさとおっ始めようぜ!」
*
「チャンク達、遅いね」
「きっとあたしの話聞いて、誰も殺さずに落そうとしてるんだと思う。あの人達の力だと大変だけどね」
「へぇ、頑張ってるんだ」
「もう少しで何とかなるんじゃないかな」
「エノラにそう【聞える】なら大丈夫だね」
往きはあたしが巡遊艇にチャンク達を乗せて送っていった。
『飛翔は?』って訊いたら『何とか飛べるが、矢で狙われるとちょっとなぁ』と歯切れが悪かったからね。
死角に回り込んで巡遊艇から海賊船の舷側まで飛ぶのは大丈夫だったから、あたしの飛翔とそう変わらないみたい。
ここまで来るのに矢がひゅんひゅんと降り注いできたけど、方向が決まってるので障壁を2面張るだけで事足りてしまう。
こっちの船まで飛翔る間もね。
島の海賊と同じで遠距離攻撃の魔法やスキルは皆無。
『そんな事が出来るなら誰も海賊なんかには成らないか』と思うとちょっと胸が痛い。
あたしが向かったのがティリオが『頭が居る』って言った方の船で、船に乗り込む時の抵抗もこっちの方が激しかった。
今回は『痛い目に遭わせる』って言ってないから、盆の窪へ【気】を当てる例の気絶攻撃で次々と意識を刈ってしまう。
甲板で暴れていたら弓矢攻撃をしていなかった海賊達もどんどん上がって来る。
船内に残る音は【天鳴】に何1つ響かなくなって、甲板だけを一掃すれば済むのでずいぶんと手間が減って助かったのよね。
操舵室の上甲板でやたら怒鳴ってるのが【頭】に違いない。
海賊は50人近く居たけど、同時に掛かってくるのは精々3人程度だから何の事はない。
5分ちょっとで【頭】一人を残して全員の意識を刈ってしまった。
「ねぇ、ちょっと訊いてもいいかしら」
「おい! もう勝った気でいるのか。そいつはどうかな!」
「あれ? それって魔導具?!」
「ふふぁふぁはぁ! ここまで来たのは恐れ入ったが、残念ながらお前はこれでお終いだ! この近さでこいつを避けれる奴は居ないからな。冥途の土産に旧王国の魔具をその身で味わって死ぬがいい!!」
「いやぁ、お願いだから使わないで!」
「もう遅い! 死んでしまえぇ!!」
「ダメェ! ヤメテ! アァァァ」
相手が手にした鞴状の魔具から紅蓮の業火が吹き出し、あたしを包み込む。
「わぁっはっはっはっはぁ! どうだぁ! 探究者の端くれならまだ燃え尽きずに聞いてるかぁ?! ぐわははは! 言うだけ無駄か、もう骨も残っていまい。さぁ、魔石も尽きて奴も燃え滓に……ふぁあぁぁ?」
「『ふぁあぁ』じゃないわよ! 間の抜けた声出したって駄目だからね! あれだけあたしがヤメテって言ってるのに何で止めないのよ! アンタねぇ、もうちょっとで手下もろとも焼け死ぬトコだったんだよ!! あたしがなんとか二重結界を間に合わせたから良かったけど、そうでなきゃ船ごと燃えてアンタ等みんな海の藻屑なんだから!」
「……???」
何を言われているか分かんないかも知れないけど、それはそれで構わない。
とにかく言っておかないと気が済まないのよね。
まぁとにかくこんな馬鹿もいるって、あたしもいい勉強になったわ。
鞴の形で炎熱系の魔道具なのは見当がついたし、魔石の大きさで威力が判ってあたしは慌てた。
だって、結界で防げる威力だからあたしは平気だけど、この【木造船】は簡単に燃えちゃう!
海賊船が燃えるくらい普段なら気にも留めないけど、今この船はあたしが気絶させた輩で満載なのよぉ!
放っておけば全員死ぬのが確実で、それじゃまるであたしが殺すみたいで、そんなの見過ごせる訳ないじゃない!!
二重結界であたしと炎熱、どちらも包み込んでしまえば大丈夫なのは分かり切ってるけど、問題は発動するのがマチアじゃなくてあたしだって事なのよ。
本当に正直間に合わないんじゃないかって心臓が口から飛び出るかと思った。
とにかく、間に合って良かった。
一生の不覚になるかも知れなかったからね。
「あ痛てぇえ!!」
「拳骨で済んで助かったと思いなさいよ!」
頭蓋骨が陥没しないギリギリの強さで【頭】の脳天にゲンコツを噛ませた後で、何だかんだと聞き出そうとしたけど、やっぱり大したことは知らない。
「相手の事はよく知らねぇ。向こうの指示通りにすりゃあ、鉱山の島と特大貨客船のお宝を全部俺等の物にできるって話だからつるんでただけだ。えぇ? 連絡は通信の魔導具が届いたんで操舵室に置いて使ってる。探究者を誘き出すのに島の奴等を囮に使うって聞いたがな、お前みたいなバケモンが来るなんてこれっぽっちも聞いてないぞ。まったく、ろくなもんじゃねえなぁ」
何が『まったく』よぉ。
ロクでないのはアンタの方だ!
明日もお越しいただければ幸いです。




