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第三章 海路の探究少女  9話 ラストチャンス

今日のありがとうございます。

「快適ぃ! チャンク達も来れば良かったのにね」

「うん、ちょっと気になる事があるみたい」

「ふぅぅん。……まぁいいや」

「そぅだよ。こんなに気持ちいいんだから、そんなのは後廻し」


 海賊退治に行くなんて緊張感が全くゼロのマチアもそうだけど、お気楽気分ならあたしも負けてないかな。

だってもう、なんてったって気分爽快なんだよぉ!

空震水流スペイシャルヴァイブワラァストリィムを纏った巡遊艇レジャーボートが波を切って進むと、晴れ渡った空から射す陽射しに輝く水しぶきが舞う。

今乗ってる貨客船はすごく豪華で乗馬や鍛錬のスペースもあるからちゃんと運動も出来るんだけど、なんだかやっぱり付いて回るちょっとした閉塞感がストレスになってるのかな。

澄みきった空を【水色】って言うのも変だけど海原の【紺碧】との対比が、風を切って見開いたあたしの瞳を愉しませてくれる。

重く淀んで感じられた海上の大気が一気に清々しい息吹きに思えるなんて本当ほんと調子が良すぎるんだろうけど、そこは『所詮得手勝手な小娘の戯言たわごと』でいいよね。


 それにしてもあれはイルカなのかな。

イルカにしては大きいけど、形と色はイルカなんだよね。

あたしの知ってるイルカは4メートル位までの鯨の仲間で、とても賢い動物だった。

大きいのが鯨で小さいのがイルカ、肉食の鯨の中でイルカより二回りくらい大きくて白黒模様がはっきりしてるのがシャチだった筈。

あたし達の巡遊艇レジャーボートはその【イルカ】のあとを追ってるんだけど、そのスピードは30キロを越えてるのよ。

そもそもイルカって最高に速く泳いでも40キロ程で、30キロ超えってかなりのハイペースの筈なのにずっとそれを維持してる。

シャチなら最高速度50キロ前後だし大きな鯨ならもっと早く泳げる。

あたしの知ってるのと種類が違うだけなんだろうけど、10メートル近い大きさで立ち乗りされながら時速30キロで泳げるのも此処にはいるんだね。


「ねぇ、聞こえる? 島を出てあたし達に合うまでどの位時間が掛かったの?」


 あたしは前を進む少年に出来るだけ大きな声で呼び掛けた。

イルカも空震水流スペイシャルヴァイブワラァストリィムも大きな音は立てないから彼の耳に入るのは潮騒くらいで、あたしの声も届く筈。


「1時間半と少しかなぁ! 真東に進んだら帆柱が見えたんだ」

「分かった、ありがと!」


 イルカが時速30キロなら50キロくらいの距離だし、いくら船足が遅くても昨日発見されたなら船はもっと南にいたよね。

『そんな遠くの船の事を海賊はどうやって知ったんだろろ?』

お気楽な舟遊びを続けるつもりだったのに、気になり始めたらもう駄目。

探知系のスキルの事も色々聞くけど、ティリオの【探査】が探知範囲としては最大級だったと思う。

ティリオのスキルレベルがどの程度か知らないけど、多分最高レベルの人でも探知範囲は半径数キロまでだったんじゃないかな。

とってもとても胡散臭いんだけど、材料がこれだけじゃあね。


「あのさぁ。あんたが【調教テイム】したイルカの事、海賊は知ってんの?」

「あぁ。奴等最初は遭難者の振りして近付いて来た。それを見つけたのが俺とこいつだからね。そん時【調教テイム】の事訊かれたから正直に答えちゃったよ」


 ふぅぅん、なんだかきな臭さが増した。

まっ、どっちにしても順に片付けていくしかないんだし、今は島へ急ごう。


     *


「へぇ、鉱山が在るだけあって結構大きな島だね」

「あの山に鉱山があるの?」

「うん。手前の斜面に入坑口があってその下に加工場。それ全体を高い壁が囲んでる」

「そっか、今それが砦になってるんだね」

「そうだよ。中に皆が閉じ籠ってる」


 なんだかんだと思いを巡らせている内に、あたし達はくだんの島の入り江の外までやって来た。

【聴く】の感度を抑えて範囲を拡げると確かに山の斜面に人が立てる声音こわねを感じるけど、手前の海や野が出す物音がうるさくて何が起きてるかまでは分からない。


「それじゃ、行こうか」

「大丈夫なのか?」

「さあ、どうだろ? でも待ってても何ともなんないのは確かだよ」


 とにかくこの目で見ないと分からないから巡遊艇レジャーボートを湾内に進める。

今は【少年】もイルカを沖へ返してあたし達のボートへ移っている。

海賊船は入り江じゃなくて外側両方の磯へ別々に泊まってると聞いたので、正面から向かう事にした。

湾内に入るとだいぶ様子を【聴く】ことができるようになって、砦の中と外に人が集中してるのが判る。

誰かがあたし達に気付けばそれなりの反応がある筈だと思ってたら、案の定、砦の前が騒がしくなりだした。


「塀の方じゃなくて、海を見張ってたみたいね」

「助けが来なきゃ砦は墜ちるんだもんね。騒ぎの隙に君が抜け出したのも多分気付かれてたんだよ」

「そうかも知れない。あん時は必死で気付かなかったけど」

「それが普通だから気にしなくて良いよ。じゃ、あたし達は行くね」

「俺はどうしたら?」

「飛べないだろうし、一緒に来ても正直足手纏い。オールがあるから岸まで漕けば、ちょうどいい頃合いに着くんじゃない」


 言い切ったマチアが舞い上がったのを、あたしも追いかける。

飛翔フライは苦手だけど、あたしも普通に翔ぶくらいは出来るようになった。

マチアらしく途中で降りるなんて面倒とばかりに、ぴゅぅぅっと海賊達の上を飛び越えて鉱山砦の上空に浮遊フロート

思ったより頑強そうな塀には数基の物見台まで造られてて、それぞれ数人が弓を構えてあたし達を視てる。

確かにこれはちょっとやそっとで攻め落とすのは無理かも。


「ねぇ! 私達、救けに来たんだけどぉ! 面倒だから射ないで、これ観てよね!!」


 マチアが声を張った後、【幻想】を起動した。

有効範囲は限られるけど、少なくとも物見台や壁際の人達にはちょっとだけデフォルメされた映像と音声が届いてると思う。

マチアが見聞いた【イルカの少年】とあたし達のやり取りは、古い映画--ってのもこの世界には無いけど--みたいな粗画像でもちゃんと伝わって、理解できる筈。

浮遊フロートを使いながらだけど、スキルだから負担にはならないのよ。


「分かったぁ? それじゃあ、私達が外の奴等をやっつけてる間、邪魔しないで待っててねぇ!」


 翔んできたのも間違いじゃなかったみたいで、あたし達が味方で、海賊達よりも格上だって解ってもらえたみたい。

物見台の上の人達が弓を下ろして手を振ってる。

これで良し……と言う事で、あたし達はもう一度海賊たちの頭上を飛ぶ。

それなりに膂力に優れたのもいるみたいで、結構な勢いの矢が飛んで来る。

でも所詮勢いは衰えてるし、元々視認できる矢なんてあたし達に届きはしない。

コガネムシ魔獣は硬さこそカブトに劣るらしいけど速さは同じで、あれを見極めた目にはどんな矢だって宙に漂う風船みたいにのんびりした動きに思えるのよね。

だけど、避けるしかないと思われるのも癪だから光刃ライトブレードを出して1本ずつ丁寧に切り捨ててあげた。


 頭上を越えて斜面の下に降りたあたし達を見下ろす海賊達。

うん、やっぱり見た目と人数が問題なんだろうねぇ。

誰一人恐れ入ってはいないみたいだわ。

なら、今度はあたしが前に出る番。


「素直に降参するなら手荒な事はしないけどぅ、抵抗されると保証はできないわぁ。痛い目に遭う前に観念した方が良いよぉ」


 全員に聞こえる様にと声を上げた分、ちょっと間延びした印象になっちゃたかも。

もう一度言い直そうかと思ってると、1人の男が前に進み出た。


「空を飛べるだけのガキンチョが2人。それで何ができるってんだぁ? ハッタリかましてないで、おめぇ等こそ今の内に尻尾を巻いて消え失せやがれ!」


 あぁぁ、安っぽいかたき役のお定まり。

じゃあ、さっさと済ませちゃおうか。

こんなやからにもう何も言う事はないわ。

さっきのが1度きりのラストチャンスだったのにねぇ。

明日もよろしくお願いします。

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