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第三章 海路の探究少女  8話  よせばいいのに

 少年は『誰だろ?』って感じでチャンクの周囲に目を走らせるけど、やっぱりあたしとマチアは数の内に入らないみたい。

ティリオが苦笑いで肩をすくめて見せるのに『いいのよ。続けて、チャンク』と囁いて先を促す。

だいたい『普通じゃない奴』って言い方が引っかかってて怒るならそっちが先なのよね。

なによりあたし達以外の誰かが気付く前に話を聞いておきたい。

後部甲板に今居るのはあたし達だけだし乗員の注意は前方に向いてるから、操舵室より後ろで起きている事をまだ誰も知らないけど、長引くと気付く者が出てくる。

船長に不干渉なんて結論を出されたら動き辛くなるからね。


「で? お前さんが出て来た時の状況を詳しく話せるか」

「ウチの島は昔パノン・アルテ両王国の南海領と言われていた海域南端の孤島で、宝石鉱山だけが主な産業なんです。交易船は一月ひとつきに1度も来ないけど、自分達が飢えないだけの田畑はあるんで何とか生活は出来てます。鉱山と加工場は砦として使えるようになってて、島の皆はそこに立て籠っています。家財なんかは海賊に奪われたでしょうけど、次の交易で原石が売れれば何とかなります。ただ、立て籠りの準備が出来ていなくて食べ物とかが足りないんです。量を減らして食い繋いできたけど、昨日の朝から食べる物がなくなってしまった。昨日の夜にこの船の事を砦を囲んでる海賊が話してるのが聞こえて、皆で相談して今朝早くに反撃の真似で騒ぎを起こして、その隙をみて俺が抜け出して来たんです」

「ふむ。それで海賊の勢力は?」

「海賊船が3隻で、上陸してるのが30人くらいだと思います」

「なるほどな。お前さん達の家を押さえてるし海で漁もできるから、奴等には食糧はふんだんにあるが、砦の中は飢え死に寸前って事か。昨日から喰ってないなら、死なないまでも砦を守る力が出るのは精々あと二三にさん日がいいところだな」

「そうなんです。交易船には強い護衛の人たちが乗ってるんで、次の便が来れば海賊は逃げ出すと思うんですけど。早くても10日位後の事でそれまでに皆飢え死にしてしまう。せめて10日分の食糧だけでも持ち込めたら、何とかなるんですけど」

「島の住人は何人だ?」

「100人ちょっとです」

「100人10日分かぁ。1日2食で1度に300グラムとして600キロ。1人20キロ背負っても30人掛かりの荷物だな」

「おまけにそれを海賊の目を掻い潜って届けなきゃいかん」

「島まで600キロを運ぶ算段だって要るしな」

「この船ごと島に横付けして警備員と若手乗員を総動員すれば届けられるかもな」

「それでこの船を乗っ取られて、丸ごと差し上げそうろうってかぁ?」

「そうだよ。だから普通に考えれば助けに行くなんて論外なんだ」

「やっぱり、駄目なんじゃないですか」

「いや。普通じゃないのは居るんだ。よせばいいのに・・・・・・・首を突っ込みたがるのがな」

「???」


 ほらまた『普通じゃない』でこっちを見るんじゃないわ、チャンク。


「なぁ、お前さん達の中に探究者は居たりするのか?」

「とんでもない。魔窟が無い孤島で魔獣も出ないから探究者が居つくわけないでしょ」

「なら、精々島の喧嘩自慢くらいのあんちゃんがいる位だな」

「そうですね」

「砦が在るにしても、それを攻めきれない海賊も大した腕じゃない。おぉい、エノラ。そんなの30人がだってよぉ。どうする?」


 チャンクがあたしに声を掛けて、やっと少年の目があたしに向いた。


「そうねぇ。人質は取られてないのね?」

「えっ? あ、はい。今朝までは」

「それならあたし1人で大丈夫」

「もしもの備えで私がついてってあげる」

「じゃ。それで決まりだな。お前さんのイルカにあと2人乗れればだが」

「へっ? 2人なら何とか。でも2人じゃ……」

「あぁ、いいわよ。あたし達は船に備え付けの巡遊艇レジャーボートで行くから」

「おいおい。漕いでく気か?」

「ううん、スキルでイルカについて行くわ」

「げっ! そんなスキルまであんのかよ?」

「違うよ。同じスキルを別に使うだけなの」


 チャンクが訝し気に眉をひそめる。

それに構わずマチアと2人、操舵室の横を抜けて中央甲板に移動した。

中央甲板は乗客用の運動場に開放されていて安全管理と利用受付を兼ねた警備員が居る。

舷側には巡遊艇レジャーボートが2隻ずつ吊るされていて、警備員に声を掛ければ船室のツケで時間貸ししてくれる。

あたしは凪に入ったこの一週間むいかかん頻繁にこれを借りて海面に降りていた。

船の周りくらいなら浮動ムーブ移送トランスファで走らせる事が出来るので漕がずに動くのを誰も怪しまないけれど、あたしはずっと【天鳴】の使い方を試してた。

波=波動を扱うスキルで、あたしが好きだった【音】が最初で、波だって知ってた光は難しくて精々色を変えて照らす程度だから燐光ライトで事足りてた。

震動空間スペイシァルスーパヴァイブレイトで初めて空間を震わす事が出来て、今はその応用の仕方を色々考えてる。

船から水面を見て震動空間スペイシァルスーパヴァイブレイトで水を押しやれば進むんじゃないかなって思ったのは赤道に入る前で、バンリノの流れの上だった。

河口付近から赤道域は暑過ぎてそれどころじゃなかったけど、暑さのピークを越えて試し始めて巡遊艇レジャーボートを動かすまでそれ程日数は掛からなかったわ。

要は、纏わせる震動の振幅を徐々に小さくして前から後ろに水を押しやるのよ。

ただ前側の振れ幅が大き過ぎると抵抗が推力より増して動かなくなる。

だから震動空間スペイシァルスーパヴァイブレイトは細長い方が効率はいいけど、それだと推進力が限られちゃう。

なので舟の前部に付属させた空間を幾つも後ろに流して、ベクトルを合わせる事にした。

見た目の感じは【吹き流し】みたいかな。

それで、出来上がったのが空震水流スペイシャルヴァイブワラァストリィム

出来てまずは今停滞中の船足を早められないか試してみた。

確かに動かせない事はないけど、さすがにこの船は大き過ぎて原付エンジンで満載のトレーラーを牽いてる感じだった。

でもこのボートになら充分過ぎるからイルカだって追い越してしまうかもね。


中央甲板から見えないところに回り込んで『4人乗りだから貴方あんた等も行く?』とチャンク達に声をかけたら、ティリオが真剣まじな顔で首を横に振った。

【探査】に何か引っ掛かったのかなと【天鳴】を拡げていてみると……あぁぁ、なるほどねぇ。


「分かったぁ。なるべく早く戻るから、あとはよろしくねぇ!」


 手を振るとティリオが大きく頷いてチャンクに耳打ちする。

面倒が嫌いなチャンクは苦虫を噛みつぶしてるけど、問題はない筈。

不機嫌そうな顔のままチャンクが両手をメガホンにして『お前等、武具も持たずに行く気かよ! そいつ訳が分からずに固まっちまってるぞ』って怒鳴った。

『武具ならあるよ!』ってマチアが右腰に差した光刃ライトブレードつかを左手に差し上げるから、あたしも右手に持って見せる。


「何だ、そりゃ?!」

「えっと、そうだなぁ。あぁぁ、そこらに古い蹄鉄を溶かした塊が有ったよね。それ、魔法も使って2人でこっちへ放ってよ」

「放れって、こいつは多分20キロ以上あるぞ」

「いいから、いいから。時間が無いんだから、早くしなよ!」

「よぉし、いくぞぉ!」


 2人が不格好な鉄の塊を『せいのぉ!』と空中に放り出した。

2人で魔法を使ってもそれ程高くは上がらないけど、船縁ふなべりは海面からかなりの高さだから、こっちへ届くのに時間的な余裕はある。

マチアが何の前触れも無く飛びあがった。

魔窟三昧でマチアの一番の成果はやっぱり魔法で、あたしがまだ苦手な飛翔フライなんかお手の物でひらひらもひゅんひゅんも自由自在なのよね。

飛びながらピンクの光刃ライトブレードを伸ばすと、鉄塊をシュパシュパッと切り刻む。

バラバラに落ちてくる2キロ前後の鉄屑を浮動ムーブで引き寄てじょう型の光刃ライトブレード捻扱突打ジャイロスラスト風に使って全部を串刺しにした。

刀身の長さで間に合うように薄く重ねて刺すのが結構面倒。

20キロは刺して持つには重すぎるから、間を措かずに輸送キャリーで甲板へ戻す。


 それを見てキョトンからカチカチに変っても動かないのは同じだった少年だけど、マチアの『案内しなよ』に『はっ、はぁぁぃい!』

イルカを勢い良く泳がせ始めた。

お読みいただきありがとうございました。

明日もよろしくお願いします。

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