第一章 商都の孤児少女 7話 お祭り万歩
初投稿から7日目、一週間になりました。
読み続けていただいてありがとうございます。
お祭りの日にやってるのは夜店だけ。
ほかはどこもお休みになるので夜店で買えないものはとなり町まで買いに行くことになるけど、それはみんな知っていてそんなヘマなんてしない。
その日はどこのお店も昼までに棚おろしと明日の用意をすませて、使用人はそのあと夜あけまで好きにできる。
虚空の神の日は元から休みなんだけどその日にお祭りはしない、だって夜店の人たちも休まないとダメだからね。
作りおきの物ですごす人もいるけど、昼前にはお祭りがはじまるから屋台のを買い食いする方が多いみたい。
どれも安いんだけど少ないし歩きまわっておなかもすくので、いくつも買うことになってしまう。
だからいつもよりごはんにお金がかかるのはしようがないよね、だってお祭りだもの。
そう、今までのあたしはその安いのだって1つも買えなかったんだから『しようがない』って言えるのがうれしい。
そんなお金のない子たちが食べものを手に入れる手立てがある。
【御辰さんのおやしろ】でお菓子がもらえるんだ。
町の大きな店が持ちよったお菓子を当番で何度かくばるんだけど気まぐれでいつになるか分からないから、あたしみたいなひもじい子は【おやしろ】にへばりついてた。
町には【御辰さん】の乗りものがあって、お祭りではそれをカグラって言う音楽やおどりではやし立てながら町じゅうをねり歩く。
乗りものはミコシとかダシとかヤマとか町ごとに色んなしゅるいがあるんだけど、どこも【おやしろ】から出てもどるをくりかえすからそこに居ればタイクツもしないのよね。
なのでこれまで【練り歩き】のようすは見た事がない。
お祭りは朝のうちに町の【ヤマ】を置き場から曳き出すところからはじまる。
【曳き出し】と【練り歩き】に【仕舞い】は男衆とよばれる町のわかい男の人の役目だけど、【曳き出し】と【仕舞い】には町の有力者が立ちあう。
お昼前まで仕事の片づけをするのも男手がいるし男衆もそうなので、立ちあうのは女の人も多くてバクルットから出るのはメルノアお嬢さまだ。
おおやけの場で女の人にはお供がつくのがあたり前なので、あたしもいっしょ。
【曳き出し】の立ちあいが終わったのを見はからってタリアンさんがむかえに来て【仕舞い】が始まる前に送ってくるみたい。
タリアンさんの町はお祭りじゃないけど、お供のじゃまが入らない日なんてほかに無いんだから何をおいても駆けつけるよね。
たぶん2人きりでどっちの町でもないしずかな所へ行くんじゃないかしら。
今朝起きたときからお嬢さまがめずらしくソワソワしているので間違いないわ。
*
真っ青な空に真っ白な小さい雲がまばらにうかんでいる。
お日さまはまだそんなに高くなくて、いつもならそろそろお店をあけるころだ。
町の寄合所のうら手にある置き場にお嬢さまと2人やってきた。
あいさつをすませた立ちあいの人たちが置き場の前にならび、あたしはお嬢さまの後ろにひかえる。
少ししたらおやしろのほうから男衆がガヤガヤとやって来るのが見えた。
かれらが置き場の大戸をあけ中へ入ってしばらくすると、ガラガラと音を立てて【ヤマ】が曳き出されてきた。
それにつづいて出てきた何人かが楽器を手にしている。
はじまったカグラは大きな音だけどそんなに早い拍子でもない。
御辰さんの乗り物は【ミコシ】【ダシ】【ヤマ】のじゅんに大きくなるのが普通で、その代わりに動きはさかさのじゅんで元気になる。
【ヤマ】【ダシ】は曳かれるけれど【ミコシ】は担ぐ物で、カグラは拍子が早くて勇ましいものが多い。
一番大きいヤマはダシほどいきおいよく曳けないので、カグラも少しゆっくりとおだやかな感じね。
孤児院が在ったのはミコシの町で勇ましいところが好きだったけど、ヤマのおごそかな感じもわるくない。
ヤマがおやしろの方へ消えると【曳き出し】の立ちあいは終わり。
久しぶりに見るタリアンさんの目くばせでお嬢さまが『行ってくるわね』と歩きだせば、朝のお役目はおしまいだ。
さぁ、今日はヤマについて町じゅうを歩いてやるわ。
どれだけ歩いて、そのあいだにどれだけの夜店がのぞけるか、すっごく楽しみ。
夜店は大まかに食べものと遊びのどちらかで、食べものは歩きながら食べれる軽いものがほとんど。
くし焼きは肉やさかなにヤサイと色んな店がある上に持ちやすくて人気だし、シュロの葉で包んだ蒸しものとかイモやとうきびみたいにまるごと焼いてあるのもよく売れている。
もちろん焼き菓子やくだものには子どもや女の人が集まるし、あめ玉を並べた店は色とりどりでとってもキレイだ。
たまに広い所にイスをならべているのはお酒をのむ店ばかりで子どもだけでは入れない。
遊びはクジ引きか的当てが多いけど、生きものをあつかう店も少なくない。
小さな投アミや引っかけ針で小魚をとったり、大きめの川エビのハサミにヒモをつかませてつり上げる。
石を1つひっくり返して下のタニシをとるなんてのや他にもいろいろあるけど、どれも食べれるものばかりで、近くで火だけおこしている店に行けば小銭1枚で焼いてくれる。
的当ては小さな品物をオモチャの弓や吹き矢で落とすのが多いけど、台の上の玉や石を魔法だけでとばすのもある。
たいがいの人はその位の魔法は使えるけど、ちゃんと的に当てれる人はめったにいない。
とてもむつかしいけど、かるい名ふだの的を落とせば本当に使えるわりと高い物がもらえるので、いいところを見せたい男たちがあとを絶たないようね。
酔ったいきおいの人が多いみたいだけど、酔ってもしっかり狙える人なんてその手のスキルを持った人だけじゃないかしら。
にぎやかでとっても楽しいけど、クジ引きだけはする気がしない。
見た目よりハズレが多いし、なかには大当たりが出ないようにできるしくみのクジもあるから。
*
「おい、おまえ! どこかで見たと思ったら、向こう町の商店街にいた孤児だろう!!」
ゆっくり進む【ヤマ】を抜きつ抜かれつ夜店を楽しんでいたら、うしろからカン高い声がふりかかった。
『孤児』と言われればあたしに間違いはない。
「お嬢様みたいな格好しやがって、どこで盗んできたんだぁ。金も一緒に盗ったんだな。後ろめたいから別の町まで来て使ってるんだろ!」
孤児に違いはないけど、生まれてこのかた盗みなんてしたことはない。
知らないふりして行こうとしたら、バタバタと男の子たちがあたしを取りかこんだ。
「こら、勝手に行っていいって誰が言ったんだよ! ドロボウはしっかりこらしめないと駄目だからな。皆! こいつをつかまえて連れてくんだ!」
あたしより3つか4つ年上だろうか、背たけはメルノアお嬢さまより高そうだ。
わりといい服をきてるけど、メルノア様が言った『既製服』みたいだから【良家ご子息】とかじゃなくてちょっと羽ぶりのいい家のドラ息子って感じかしら。
孤児のあたしをうたがうのがヘンケンでしかないのも分からないバカなのはしかたないとしても、それをちゃんとした大人にうったえるんじゃなくて自分たちでつるし上げようなんて考えるのはバカを通りこしてキチガイのなかま入りなんじゃないの。
だまってるとつけ上がりそうだから身の上だけは話しておこう。
「そうですね。たしかにあたしは孤児ですけど、今はバクルット家に奉公してお給金をいただいています。この服もいただいた物なのでドロボウあつかいはやめてもらえますか」
「聴いたかぁ、皆。よりによってバクルットだってよぉ。あんな大店が孤児を雇うわけが無い。ますます怪しいから捻り上げて白状させようぜ!」
やっぱりバカにつけるクスリはないのね。
でもどうしようかしら、もうすぐ【仕舞い】の立ちあいにお嬢さまが戻ってくるはずよ。
なんだかみんなスキだらけで何とでもなりそうだけどさわぎになるのは困るのよねぇ。
明日以降もよろしくお願いいたします!