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第三章 海路の探究少女  2話  埠頭をわたる風

本日もお読みいただきありがとうございます。

 2人の強さが分かって一安心。

あのお色気探究者さんよりマチアがちょっと強いくらいだから、マチアも1対1なら心配は要らないだろう。

この2人も多分中層前半までは進んでるんだからちゃんとした探究者で、商団の護衛の話も嘘じゃないと思う。

こんな時お嬢メルノア様や旦那ギルァム様みたいな【鑑定】が使えれば手間要らずなんだけど、無い物ねだりをしてもしようが無い。

マチアの【幻想】みたいに人にだけ効くスキルを持ってる可能性も無い訳じゃないけど、あんまり心配しすぎてもね。


 そうこうしているうちにお昼になったのであたしはシルファの背の荷を開いて、今朝川湊の宿で買った弁当の包みを取り出した。

大きな葉の包みを開くと中には鶏肉の炊き込みご飯がおにぎりで6つ並んでいる。

2人前を頼んでおいたから、マチアと3つずつだ。

マチアに手招きをして甲板に座り込んむと、チャンクさん達が物欲しげに覗き込む。


「えぇぇ。いくら見たってあげないよ。中の食堂で食べるか、売店で買っといでよ」

「河船の中はライセンス証が使えないのを忘れてたんだ」

なぁに、お金持ってないの?」

「あぁ。もうここを発つからな。商都で使い切ってしまった」

「馬鹿なんじゃない。わたし等みたいな子供でも分かってんのにさぁ」

「悪いが、タジフで返すからちょっと貸してくれないか」

「そんな義理は無いんだけど」

「そう言わずに頼むよ。実は寝坊して朝飯も喰ってないんだ」

「ふぅぅぅ、仕方ないなぁ。ちゃんと返してよ」

「あぁ、約束するよ」


 マチアがポケットから銀貨を取り出して2人に1枚ずつ渡す。


「ありがとう! 恩に着るよ。ティリオ、俺は馬を見てるから売店で何か買ってきてくれよ」

「あいよ! いつものみたいのでいいよな」

「あぁ、頼んだぞ」

「ねぇ、ここで食べる気?」

「駄目か?」

「駄目じゃないけど。仲間でもなんでも無いんだから、あんまり馴れ馴れしくされると困るのよね」

「そう言うなよ。袖振り合うも他生の縁なんて言うし、人数が多くて賑やかな方が楽しいだろう」

「別に貴方あんた達と居ても楽しくなんかないわ。さっさと消えてくれないかしら」


 とっても素っ気ないマチアだけど、なんだか気分が乗っているように思えるのは何故だろう。

そんなやり取りがしばらく続いて、ティリオさんが揚げパンが入った紙袋を抱えて戻って来た。


「ほいよっ! ソーセージ入りのこれしか残ってなかったぜ。馬の無い連中は船内だから先に買ってやがる。俺等の方が高い船賃払ってんのになぁ」

「まぁ、残ってて良かった。着くのは遅くなるだろうから、朝昼抜きはキツイぜ」

「うむぅむむぅ。結構美味いな。ところで、貴女あんた等、何処に行くんだい?」


 戻るなり揚げパンに喰らい付いたティリオさんが突然訊いて来た。

それまで余り口を利いていなかったから喋るのは苦手でチャンクさんに任せっきりなのかと思ってたから少し意外だ。

もしかしたらお腹が空いて元気が無かっただけなのかもね。


「アテメア方面は決まってるんだけど、細かいトコは明日何処に行く船があるか見てからにするつもりなんだ」

「おいおい、大丈夫かよ。イクァドラットに来る外洋船は多いが、外洋船ってのは中身が千差万別でな。選び方次第で船代から居心地まで天と地ほど違って来るんだぜ」

「へぇ、そうなの」

「そうさ。俺等ぁイクァドラットは初めてだが、アテメア方面の外洋船は何度も乗ってるからその辺の目利きには自信があるんだ。良かったら船を選ぶの付き合ってやってもいいぜ」

「うぅぅん、どうしようっかなぁ。目利きは確かでも、漏れなく貴方あんた達が付いてくるんじゃ考えもんだよねぇ」

「あははぁ。だから、良けりゃでいいって。俺はチャンク程しつこくないからさ」

「だぁれぇが、し・つ・こ・い、だってぇ? いい加減な事言いやがって。魔窟で会ったあねさんにしつこく喰い下がったのは手前てめぇだろうが」

「こぅらぁ。それとこれとは話は別だぁ。他人ひとの痛手を何度も何度もほじくり返しやがって。いい加減にしやがれってんだよ。お前だって昔、宿の後家さんにほの字でいつまでも居ついて、ずっとおんなじ魔窟に潜る羽目にったじゃねぇかよぉ」

「ありゃあ、いい女だったんだ。あんな派手な見た目だけの女じゃなくって、料理が上手くて笑顔がキレイでよぅ」


 楽しいかどうかは怪しいけど、確かに賑やかなのは間違いないわ。

2人共ロリコンの気は無さそうだから少しの間なら一緒に居てもいいかも知れない。


 バンリノは下る程に川幅を拡げ、谷は徐々に深く広くなっていく。

谷の上から流れ込む小川だけじゃなくて、海からの風は谷の中にもかなり雨を降らせるみたい。

今日は雨降りじゃなくて良かった。

ダフネ達と後部甲板に居るのに、降られたら面倒だもの。

まぁどんどん暖かくなってるから、風邪をひく心配はなさそうだけどね。

西の方は谷の斜面ばかりでもう陽は見えないけど、まだ空は明るい。

昼過ぎに何隻も帆を張った河船と擦れ違ったから、上りも下りも朝出発の便だけなのね。

日暮頃にはタジフに着くって聞いたから、あと一二いちに時間だわ。


     *


 タジフが見えてきて驚いた。

もともと谷底が広い場所を選んだんでしょうけど、河から大きな水路が何本も引き込まれてそれぞれがいくつもの埠頭を備えた港になってる。

水路全体を取り囲んで街が出来てるけど、家並みより停泊してる数多くの外洋船の方が余程よっぽど立派に見えてしまう。

河船はその大きな水路じゃなくて、手前の川辺に造られたこれまた何本もの突堤の1つに停船するみたいね。


「暑いわねぇ。なんにもしないで汗をかくなんて初めてよ」

「ホントね。船が動いている間はまだ良かったけど、今は蒸し蒸しする」

「そうかい? 俺達には上の気候がちょっと涼し過ぎたくらいで、この方が調子がいいけどな」

「そうだぜ。この位でへばってちゃ駄目だ。海の上はもっと暑いからなぁ。赤道域を抜けるまでは真北に進むが、最低でも3日はひどく暑くて蒸すんだぞ」

「うへぇ。私、微冷クールを使い続ける事になりそうだわぁ」


 高原気候とでも言うのか、イクァドラットでの生活に慣れたあたし達にタジフの気温は高く感じるけれど、チャンクさん達に言わせればアテメアの南部はどこもこれ位の気候だそうで、確かにこの程度なら我慢出来なくはないけれど、赤道直下の海上は耐えられないかも知れない。

旦那ギルァム様に微冷クールの魔導具をこしらえてもらえば良かった』なんて考えてももう遅い。

なんとか、この街の魔導具屋で見つけられないかしら。


 停められた河船から突堤に降りると辺りはもう薄暗い。

地に足を付けると、止んだように思えた河下からの風が頬に感じられる。

多少生暖かくても埠頭を渡る風があるのはありがたいわ。

ライセンス証が使えるのは港湾施設の中だけで街に出るにはお金が要るし、チャンクさん達にも銀貨を返してもらう約束なので、真っ先にギルドの出金出張所の場所を訊いて向かった。

先に着いた河船から降りたらしい探究者が居るけど、河船に乗る探究者はそれほど多くないから並んでるって程じゃない。

まずチャンクさんとティリオさんがイクァドラットのお金を少し下ろして、あたし達はアテメアの公用金貨と銀貨を数枚ずつを引き出した。


「へぇ、平気で金貨を下ろせるくらい預託してるんだな」


 チャンクさんが平気な顔で訊いてきたのはきっと邪心がないからだろうけど『他人ひとの耳もあるんだから少しは気を使えば』と思うのよね。

この辺りのデリカシーの無さは言っても治らないんだろうなと思いつつにらみかけたところへ声が掛かった。


「バクルットのお嬢様方でございましょうか?」


 見ると、壮年を越えているだろう長身の男性がピンと背筋を伸ばしたまま慇懃な会釈で佇んでいる。

明日もよろしくお願いします!

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