第ニ章 神都の見習少女 25話 さようなら、またいつか
今日もよろしくお願いします。
「ねぇ。これって人によって作り分けるの?」
「いぃや。これから作るのはどれも同じ物だが、使う者によってすこし違いが出る」
「「???」」
「刃が見えないと危険だから光で認識されるようになっていてな、その光の色をそれぞれ別に登録した。男が青系、女が赤系。俺が青で、カザムが緑。サリヴィナが赤紫でメルノアは紅色。マチアはピンクでエノラがオレンジだ。エノラ、柄を握って刃をイメージしてみろ」
「はい」
正眼に構えると、ぼぅっと橙色に光る刀の形が浮かび上がった。
「本人が抱いている武器のイメージがデフォルトの形になる。エノラはやっぱり刀だったな。マチアはどうだ? あぁ、ピンクの直剣だな。手持ちの武器もそんなのが良いんだろう。そのタイプは結構出回ってるから気に入るのを見つけて買うと良い」
マチアに柄を渡すと左利きの彼女は左手で柄を握って半身に構えた。
ピンクの細身の直剣がなかなか似あってる。
彼女から手元に戻った柄を旦那様が八双--正眼とか八双ってここでは言わないんだけど--に構えると青く光る大振りな長剣が現れた。
その後、旦那様はマチアの仮ライセンス申請にギルドへ向かったので、あたし達も一緒に行ってマチアの剣を見繕った。
町の武具屋でも良かったんだけど、ギルドならあたしの預託金で買えるからね。
細身の直剣は結構色んなのがあって、マチアの好みの形の3本のうち鋼の質が良いのを旦那様に選んでもらった。
昼になったのでそのままギルドで昼餉をとる。
マチアの資格試験は今週中にも対応してもらえそうだって事で、昼からは大型魔獣の狩りに出掛けて、マチアが新しい剣でヤミヘラジカを2頭仕留めた。
それだけで戻ったのは、マチアの剣の腕前の確認と防具用の魔獣皮が目的だったから。
*
「へぇ。良いじゃないお父様の作の中では秀逸じゃないの」
「おいおい、おれの練成品はどれも銘品揃いだぞ」
「どれだけ良い物でも私が使えなければ駄作だわ」
大商家バクルットの当主様も実の娘の前では只のダメ親父よね。
あたしとマチアは顔を見合わせて笑いをこらえるのが大変。
相好が崩れ放しの旦那様の横で奥様がにこやかに微笑んでる。
「あなたが従妹のマチアね。よろしくね」
「えぇ、よろしく。メルノア従姉様」
「それに新しく又従妹になったのよね、エノラ。久し振りだけど大きくなったわね」
「お久し振りです、お嬢様」
「お嬢様は駄目よ。まぁ年上だからマチアと同じようにオネエ様にしなさい」
「はい。メルノア又従姉様」
あたし達は神都から商都のバクルット本家に戻ったばかり。
マチアが探究者の仮ライセンスを手に入れてから一月余りが過ぎた。
あの魔道具の柄はマチアの命名で光刃と呼ばれる事になって、あれからあたし達の鍛錬に大活躍してきた。
マチアの防具はあたしとお揃いだけど、デザインは彼女の好みで少し女らしい物に変わって、色がピンクとサーモンピンクの2種類。
あたしは魔獣皮で袴を新調した。
マチアのは袴じゃなくて巻きスカートで、色はあたしの濃焦茶と違って深紅。
右腰に直剣が提げられるようになっている。
マチアの仮ライセンスが入ってからはずっとコガネ魔窟で鍛錬三昧の日々を過ごした。
光刃の威力はやっぱり凄まじくてアレを使うと鍛錬どころじゃなくなるんだけど、光刃が使える事で深層での活動に目途が立ったのよね。
実際に常用するのはマチアだけなんだけど、いざとなればアレで何とか出来るというのは大きなアドバンテージで、あたし達3人の力は全ての意味で底上げされた。
今なら旦那様は間違いなくイクァドラットで一番の探究者だし、自分で言うのもなんだけどあたしもかなり上位に入る筈、マチアだって間違いなく上級者と呼ばれるレベルになってるわ。
で、あたしがイクァドラットを出る目途が立ったと言う事で商都に戻った。
だって、イクァドラットから出るには商都が在る【東イクァタ】から大河を下って海に出る以外は空を飛ぶしかないんだから。
全てあたしの想定内だった筈なんだけど、ここで大きな想定外が起きたのよねぇ。
何とマチアがあたしと一緒に行くと言い出した。
「私が居ないとエノラはまた昔を忘れて落ち込んじゃうんだから。マチアおねえさんが付き合ってあげるわ」
まぁ確かにひ弱に見える女子って以外は全く違う2人でお互い補い合えるのは間違いないから、あたしにとって悪い話じゃないんだけど。
「マチアはあたしと違って家族がいるのよね。家族を心配させたら駄目じゃない!」
「あたしん家は大家族でね。サリヴィナさんがバクルットで奥様と呼ばれる様になった頃には子供のうち誰かがサリヴィナさんを頼って家を出るのが当たり前みたいになってた。あたしが手を上げてバクルットへ行くって決めた時から家族皆養子に出してサリヴィナさんに任せ切ったつもりだから、連絡なんて無くても誰も心配しないんだ。もしもの時はサリヴィナさんから連絡が届くだろうし、それはそれでしようがないってね」
「そんな事は無いんじゃない?」
「そんなもんだよ。成人まで家に居たってその後は出て行かないと食べていけないんだからね。そりゃ死んだって聞いたら皆悲しむだろうけど、それまでは何かの都合で思い出すくらいで皆心配なんてしてる暇は無いよ。エノラは家族って物に幻想を持ち過ぎなんじゃないかな。バクルットみたいに思い合ってる家族でも別々に暮らしてるんだからさ」
『確かにそうかも知れない』とあたしは何にも言えなくなった。
マチアも魔窟で荒稼ぎしてあたし程じゃないけどギルドの預託金も使い切れないくらい貯まってるから経済的な心配はない。
一緒に居るのが嫌な訳がないし、2人でなら何でも乗り越えられる気がする。
それに、さっき奥様がOKを出した時点でマチアの同行は確定してしまった。
*
「すっごい男前じゃないの!」
カザムさんを見たマチアは大興奮。
昨日買い付けの仕事で店を空けていたカザムさんと再開したのは今朝の事で、今日はこれから6人で大型魔獣狩りに出掛ける。
光刃が使える6人なのは言わずもがなで、こちらに居た3人が使い勝手を確認しがてら今夜の壮行会用の魔獣肉を狩る予定だ。
例によってあたし達の壮行会に託けて本店全関係者の親睦を図る事になったので、前回の魔獣狩りの残りでは到底足りないらしい。
でもこの6人で狩りをしたら一帯の大型魔獣を狩り尽してしまうかも知れないので、使い慣れているあたし達は付き添うだけになりそう。
とっくに6人に予備を含めた12個は出来上がっていて、全員中身は同じ物だけど柄の根元に刃光色の色輪が嵌められて誰の物か一目で判るようになった。『ねぇ、紹介してよ』と積極的なマチアは移動中も狩りの間もカザムさんから離れようとしない。
『そんなに好きになったのなら、あたしと行くのは止めにする?』と訊くと、
『馬鹿ねぇ、男前が居る時は最大限それを楽しまないと損じゃない。全くお子ちゃまなんだからエノラは』なんて却って馬鹿にされてしまった。
その日はやはり光刃の性能に興奮した3人が張り切りすぎて、カザムさんが牽いて来た荷馬車を満載にしても魔獣が載り切らず、ダフネ以外の馬の腰に各1頭、シルファには2頭の魔獣を乗せて帰る事になった。
その夜の壮行会は大盛り上がりで、タリアンさんも本店の人達に上手く溶け込んでいて、いつも通り平気な顔をしてるメルノアお嬢様も少し嬉しそうに見えた。
お嬢様の結婚式を見れないのだけが残念だけど、それはしようがない。
明日には『さようなら、またいつか』なんだ。
今度戻った時にはお子さんが居たりするんだろうか。
*
次の日、あたしとマチアは商都郊外の河港から船に乗った。
この船は東平野を横切る大河を延々と下って行く。
河港の地点ですでに商都より300メートルほど標高が低く、港まではずいぶん九十九折の坂道を下りてきた。
バクルットの皆とは店の前で別れを済ませたので、今はマチアと2人きり。
さぁ、これからあたし達の冒険が始まる……のよね、きっと。
ここで第二章完結となります。
明日から5日間ほど挿話が続きますので
何卒よろしくお願いいたします!




