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第ニ章 神都の見習少女  24話  よくきたえる

お読みいただきありがとうございます。

「いやぁ、お帰りなさい。昨日出て来られないから少し心配しましたが、ご無事で何よりです。あれぇっ! 深層魔石じゃないですか! まさか、入窟2回目で深層に入ったんですか!」

「入ったのは確かだが、入っただけ。まったく進まずに出て来たよ。俺もパーティじゃ無いと流石に深層は厳しいからな」

「2人で深層、しかも1人は2度目の入窟でしょう! と、言うか。 降り口前の超大型の集団、ここは上級者が少ないからかなりの数に成ってるらしいですが、それも2人だけで倒したんですよね」

「あぁ、あそこまでは順調だったんだがな。欲を掻いてこいつが死にかけたんで、慌てて深層を出たんだ」

「慌てたって……、深層魔石が5つもありますが。えっとぅ、しかも深層魔核のうち4つは彼女ので、他のも超大型のいくつか以外は全部彼女の実績とライセンス証に記録されてますよ。もう完全に上級者ですね!」

「いいぇ。蟲型魔獣が硬すぎて……」


 あたしは消え入りそうな気分だ。

戻りの中層を抜けるまでは何とか気を張っていたけど、低層に入ってからは【天鳴】頼りに刀を振りまわすばかりで碌に魔獣も見ていなかった。

旦那ギルァム様も呆れ気味だったけれど、言葉通り『無理をさせた』と思っているようでいさめる言葉も掛からないのがなんだか余計に情けない。

何より調子にのって、上級者気分で『深層だって大丈夫』なんて思ってたのが恥ずかしいのよね。

クラッドさんは素直に凄いと思って話しているんだろうけど、言われれば言われるほど閉じこもる穴が欲しくなる。

彼の声を聞いて集まった新米さん達が『へぇ、あれが深層魔核を精錬した魔石かぁ。あんなにデカいといくらになるんだ』とか『あのが獲ったらしいぜ。どんな凄いスキルを持ってんだろうな』とか『2人で深層なんてホントに行けんのかよ!』『さっきあのが戻ってきた時、見もしないで魔獣を蹴散らしてたぜ。俺ころがった魔核いくつか拾っちゃったよ。あんなに強けりゃ深層だって行けるんじゃねぇの』なんて話してるのが耳に届く。

今まで外野の声なんて聞き流してたのに、一度気になるともう駄目。

旦那ギルァム様の上着の裾を引っ張って『早く出よう』って視線を送った。


     *


「それで、いつも元気だったエノラちゃんがそんなに落ち込んじゃったのね」

「うん。情けなくって、恥ずかしくって。おまけにどうしたら蟲型を倒せるかも分からないしさ」

「あんたねぇ。馬鹿なんじゃない!? 一丁いっちょ前の成人探究者が皆、中層にも入れないって苦労してるのに。一人で中層を闊歩出来んなら何を恥ずかしがることも無いっしょ! 情けないって、自分を何様だって思ってんだろうね。あんた、1年も経たない前は裏路地のちっぽけな孤児だったんでしょうが。ちょっと恵まれて皆から『エノラお嬢さん』なんて持ち上げられたら全部忘れちゃったのかなぁ! 孤児の時には『情けない』とか『恥ずかしい』とか何も感じずに必死に生きて来たんじゃないの? あたしはそんなあんただから年下でも対等の友達だし身内だと思ってんだけど、今のあんたはどんなに強くったってそうは思えない。もいっぺん、前の時のこと思い出してみな!」


 言うつもりは無かったけど、様子のおかしいあたしを問い質したマチアに今の気持ちを話すと、情け容赦ない言葉でこっぴどく叱られた。

それで、本当ほんとに最近孤児の頃の事を思い出さない自分に気付いた。

それを悪い事じゃないと思ってたけど、確かに最近のあたしは生温なまぬるかった。

孤児院で暮らしてた時は、深層魔獣の攻撃で傷付いた時よりよっぽどつらい目に遭っても何とも思わなかった。

人って幸せに成ると弱くなるのね。

弱くなったあたしは今、幸せなんだ。

だから、何も悩まなくていい。

ニコリ笑ったあたしを抱きしめてワシワシと頭を撫でたマチアが『分かればいいのよ! お腹空いたね、そろそろ夕餉じゃないかな?!』とあたしの手を引っぱる。


『あぁ、あたしの初めての友達は最高だ!』


     *


 2度目の入窟で深層に入ってから半月が過ぎた。

あれ以来ずっと攻撃と防御両面の見直しをしている。

あたしだけでなく旦那ギルァム様も一緒になってね。

お互いのスキルや武具に魔法から天地流まで含めてあれやこれやで、頭の中はごった返してるけどとっても楽しい。

旦那ギルァム様はまるであたしが子供なのを忘れたみたいに相談したり言い合いになったり、たまに覗きに来るマチアまで入って喧々諤々の騒ぎになったりする。

そんな中マチアが『エノラの震動空間スペイシァルスーパヴァイブレイトと天地流の捻扱突打ジャイロスラストって凄く有効みたいだけど、それって武具に【練成】したり出来ないの?』なんて言い出した。

あたしが『そんなにうまく行くわけないじゃない』って言ってる横で何故か旦那ギルァム様の目の色が変わったのよね。


 翌日、目の下をくまで真っ黒にした旦那ギルァム様が『出来たぞぉ』って、あたし達の続き部屋に現れた。

手にしているのは30センチ程の円筒でマチアは『何それ?』的に首を傾げてたけど、あたしは思わず『うわっ! ライ▷セー△ーじゃん!』とか声を上げそうになった。


「これは剣の柄にあたる部分でな、この先から空間刀身スペイシァルブレイドが出るんだ。エノラのアレを参考にして幾通りかの形状を選べるように柄の中に【練成】で組み込んであるから、自分で形状から構築する必要は無い。その代わりパターン外の形状に変更する事はできないがな。刀身の特性は捻扱突打ジャイロスラスト超振動スーパヴァイブレウトとその融合系を指定できて、エネルギーの分布も均等と先端寄りと中央寄りと手元寄りが選択可能だ」


 説明を訊いて余りにも性能が凄過ぎるのに声を無くしていると、何の気兼ねも無いマチアが素直に訊いた。


「良く分からないけど、これが武器になるの?」

「そうだ。要はこれを剣や刀の様に使って闘う事ができる」

「凄い性能ですよね。これが出回ると世の中の色んなバランスが崩れてしまうんじゃ?」

「ところがな、凄いものには制約が付き物なんだ。別に俺が意図した訳じゃないが、これを使うには2つの条件をクリアする必要がある」

「「それは?」」

「1つは魔力制御。全ての操作に魔力制御が必要だからある程度天地流を修めたレベルの制御力が要る。それから、エノラのスキルがベースなんでスキルのレベルが高くないと扱えん。別に【天鳴】なんて訳の判らないスキルじゃなくていいが、持っているスキル自体が高レベルでないと駄目だ。前に話した【近道】にある程度の距離が必要で、近い奴には無理って事だな」

「具体的には?」

「【鑑定】はスキル自体として問題は無いが、トップレベルのメルノアやそれに続く俺は大丈夫だがジェレミィのじゃ無理だ。【解析】も2段階までいいが【究明】はトップレベルだけで【算定】は不可。トップレベルの【統率】は良くても【教導】や【先導】では駄目だな」

「私の【幻想】は?」

「サリヴィナの【幻影】なら2段階OKだが【幻想】は1段階だけ。お前のは【幻想】の中ではトップレベルだから合格だよ」

「やったぁ! 私も使えるのね」

「あぁ、良かったな」

「それじゃ、イクァドラットでも使える人は限られますね」

「今のところは俺とサリヴィナ、メルノアにカザム、それにお前達2人。これだけだな」

「それなら大丈夫ですね」

「あぁ、悪用される事はないから俺も安心して練成できる」

「これで私も探究者になれますよね!」

「探究者? マチアが?」

「あぁ、実はこいつも探究者志望なんだ。魔法が得意で仮ライセンスにも充分手が届くんだが、如何せんスキルが完全に対人向けで魔力が切れたら魔獣に攻撃する術が無い。だから、天地流がカザム程度になるまで待たせるつもりだったんだが」

「でも、これにも魔力が必要なんじゃ?」

「うふっ、魔具なんだからきっと魔石でも動くんですよね」

「そうだ。最悪魔核でもな」

「魔具って魔獣を狩れればずっと使い続けられるのよねぇ」


 こんなに嬉しそうなマチアは初めて見るわ。

それにしても探究者……って、あぁ前に使用人扱いで天地流の鍛錬が出来て嬉しそうだったのはそう言う事だったのねぇ。


「さぁ。明日からはこれを使った鍛錬も組み入れないとな」


 さぞかし良く鍛える・・・・・事が出来そうよね。

明日もよろしくお願いします。

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