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第ニ章 神都の見習少女  20話  振りだけじゃ無し

今日もよろしくお願いします。

 大型魔獣の飛行種、マダラオオワシが降り口の手前に群がっている。

大型の狼ほどもある胴体から伸びる翼は4メートルを超えて広がり、鋭いカギ爪とクチバシは一撃であたしの頭を掻き取ってしまいそうだ。

単体での強さは他の大型魔獣と変わらないだろうけど20近い頭数が脅威だし、何より空を舞う巨躯には刀が届かない。


「流石にこれは無理だろう。2人でやるか?」

「うぅぅぅん。何とかならないかなぁ。ちょっとだけ考えます」


 どうやらマダラオオワシ達は降り口の守りを担っているみたいで、少し離れた場所から見ているあたし達には興味を示さない。

ばらばらとこっちを襲いにきてくれればその分だけ数を減らす事ができるのに、そんな都合よくは行かないみたい。

ここまでが超順調だったから時間の余裕はあるけど、悩んだから解決する訳でもないのは良く分かってる。

何か具体的な手立てがなければどうしようもないんだ。

あたしは刀を抜いてじっとみつめた。

刀身に震動空間を纏わせても何にも見えないけど【天鳴】にはその様子がくっきりと響いている。

『これが届かないのが問題なのよね』

刀と同じ長さの震動空間。

『あれ? 空間ってどこまでも拡がってるもんよね』

たしかに刀身のイメージに重ね合わせたからこそ、これが創れたんだけど。

『イメージねぇ、イメージ。長い刀を想像してぇ……あぁ、難しいなぁ』

長い刀のイメージを固定するのはとても無理みたい。

『固定じゃなくて伸びるイメージは?』

いえいえ、却って難しいわ。

『形はそのままで、遠くって? 鉄砲みたいに撃ち出すの?』

駄目よぉ、これ鉄砲じゃなくて刀だもん。

『飛ぶ、飛ばす、飛んでく』

もう一度納刀して、じっと見詰める。

『あれ? このまま振ったら鞘が飛んでくよね』

これはイメージし易いかもと、鞘ごと軽く振ってみる。

『うんうん。この鞘が抜ける感じ、この振りがもっと早ければ』

そう、確実に鞘は飛んでくよ!

『居合の速さで振り抜いたら凄いスピードで飛ぶはず!』

居合の構えで鯉口を切って何もない目の前を最速で振り抜きながら、刀身に震動空間が纏われたイメージを消し去る。

次の瞬間かなり先を飛行周回していたマダラオオワシの左の翼が根元から断ち切られた。


「おい! 何をしたんだ!」

「刀身に纏った空間を飛ばした……みたいです」

「みたいって、お前。魔法じゃなくてスキルの消費魔力であれが出来るのか?」

「多分、でもまだ良く分からなくて……。もう一度やってみないと」

「おぉぉ、試してみろ。的はあそこに幾らでもいるんだ」


 抜き身のまま上段に構えて振り下ろしながら同じイメージを思い描く、けれど何も起きない。

横一文字でも駄目!

下段からの擦り上げも、突きも駄目だった。

『何が違うんだろ? あぁっ、そうか居合だ』

あたしの中に居合が【最速】のイメージなんだよ、きっと。

最速で振り抜くから飛んで行く。

今はとにかくそのイメージ通りにしか出来ないみたい。

『普通の振りだけじゃ・・・・・・飛んでくのは無し・・ってことね』

刀を鞘に納めて軽く構え、鯉口を切って、振り抜く!

また1頭、マダラオオワシが墜ちた。


「居合でしか出来ないみたいです」

「でしかじゃなくて、それで充分だ」

「でも、この距離だとまぐれ当たりですよ。沢山いるから当っただけ」

「もっと近付けばいいんだろ。これまでも居合で至近距離のを沢山斬って捨ててたじゃないか」

「そうですね。じゃあやってみます」

「あぁ。万一の時は助けに入る」

「お願いしますね」


 無造作に近付いて行くと魔獣の警戒線を越えたみたいで、次々と襲い掛かってくる。

間合い内の魔獣を斬るつもりで居合の抜刀・振り抜き・納刀を繰り返すと、その先のマダラオオワシがどんどん墜ちては消える。

この距離だとほぼ狙い通りの箇所に飛ばせるみたい。

少しずつ距離が縮まって最後の3頭は至近距離へのホントの居合抜きでの両断になったけど、それで全部の魔獣を倒す事が出来た。

魔核の数が多いので密閉袋じゃなくて無造作に背嚢へ詰め込む。

別の魔獣が来ると面倒だからそれまでに降り口の中に入りたいのよ。


「おそらく魔法無しの武技とスキルだけだと最多記録だろうな。俺もあの数は魔法で減らさんとどうにもならんわ」

「ギルァム様は戦闘系のスキルじゃないですから当然だと思います。武技と魔法だけで上級者って言うのが常識外れだって聞きました」

「まぁな。だが、天地流が反則みたいなもんだから自慢にはならん」

「それならあたしも同じですよね。居合だって天地流がなければ出来なかったから」


 大型魔獣と超大型の干渉効果で魔獣が居ない降り口の中でゆっくりと昼餉を取りながら話す。

食べ始めてすっごくお腹が空いてるのに気付いた。


「あれは超大型にも効きそうだな。流石に一撃では無理だろうが、何発か集中すれば急所以外でも倒せるかも知れん」

「えぇぇ、本当ですか。楽しみです!」

「だが、ここからは気をつけろよ。これまでの魔獣はお前の一撃で消えていったが、ここからは違う。倒せない場合は至近距離の攻撃が襲って来るし、超大型の攻撃はとんでもないからな」

「はい! ところでギルァム様は超大型をどんな風に倒すんですか?」

障壁シールドで一発轟沈を防いでおいて、近付いて来る前に魔法で出来るだけ弱らせて、急所を突く。前からだとまぐれ当たりが怖いから後ろに回り込んで首筋にズブリってのが多いな」

「何頭倒した事があるんですか」

「2頭だ。超大型が群れることはほとんど無い。2頭ならこれまで確実に倒せたから、もし3頭現れても何とかなると思う。問題は群れの頭数じゃなくて、その出現頻度だな」

「魔力枯渇ですか?」

「あぁ。今のお前の倒し方ならともかく、普通はまず魔法で魔獣の余力を削ぎ落さない事にはとどめが刺せない。だから魔薬を使う間もなく立て続けに群れが現れると非常に厄介な事になる。そうなったらもう御辰おたつさんに祈るしかないだろうが、少なくとも俺はそんな目に遭った事が無い」

「あたしも魔法を使う方がいいんでしょうか」

「少なくとも魔法を使うのを躊躇しない事だ。元々お前の魔力量じゃ2頭が本当にぎりぎりかどうかだと思っていたんだが、スキルでの攻撃があればその問題は解決する。だが次からはあの攻撃を補助的なものだと思って闘う方が安全かも知れんな」


 確かに居合は一撃必殺を旨と--少なくともあたしはね--しているから、一太刀ひとたちで倒せない時点で本来の役割を果たせていない事になる。

それならば潔く主役の座を明け渡すのは正解なのだけど。

どうも何だか気が収まらない。

魔法を使うのが嫌な訳じゃない。

でも同じ魔力を使うならもっと面白い使い方って無いのかしら。

『うんっ? スキルだって魔力を使うし、元々魔法みたいなもんじゃないの?』

確か世の中の仕組みが変わる前には魔法は煩雑怪奇な代物でそれを無しにして、それまでのスキルを皆が使えるようにしたのが魔法だって聞いたことがある。

それで個人個人に残ったスキルは、元々ユニークスキルって言われてた。

元々のユニークスキルやスキルが使えたのは一部の特別な人だけだったけど、それを普通の人が扱える様にしたんだって。

ユニークスキルは個々に特殊な機能があって魔力効率も高かったんだけど個性が強すぎて一般化は出来なかった。

その代わり色んなユニークスキルを作り出して誰もが何がしかのスキルを持てるようにした。

『あれっ? これって誰に聞いたんだっけ?』

まぁいい、とにかく魔法が一般的でスキルは個人的って違いはあるけど、元々は同じ土俵の物だったって事。

それならスキルにも魔力を上乗せする事が出来るんじゃない?

『例えばこの震動空間に魔力を……』って思うけど、これが一筋縄ではいかない。


「何やってるんだ?」


 いぶかし気に見守る旦那ギルァム様の前、あたしの頭はフル回転で魔力をり回している。

明日もお読みいただければ幸いです!

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