第ニ章 神都の見習少女 18話 かこくになろうと
今日もよろしくお願いします。
「なんだぁ、藪から棒にぃ。そんな一目で惚れちまうようなのは、ここには無かったと思うんだが」
「あれが……」
「あれって、どれが?」
「あれって……」
「だからぁ、どれだ?」
「あれ! あれって、カ・タ・ナ、ですよね」
「なんだ、お前。刀が欲しいのか?」
「えっ……? あっ、はい! あれを使ってみたいです!」
「ほぉう。珍しい、と言うかぁ。お前、何で刀の事知ってるんだ?」
「えぇぇ?」
「ありゃあ、切れ味が抜群に鋭いし長剣に較べりゃ軽くて捌きも楽だからって大昔には流行ったらしいがな。手入れがとにかく大変で、ものぐさな探究者には面倒が見切れないってずいぶん前に廃れて今じゃもうあれを使う奴なんてイクァドラットじゃ見たことがない。確かに天地流には刀を扱う為の形や所作がかなり入り込んでるが、実際使ってるのを見る機会は無い筈なんだがなぁ」
「えぇ、その、形と所作から想像してたのと同じだったから……」
「ふぅん。なんとも想像力豊かなこったなぁ」
だって、生まれた時から知ってるなんて言えないし、観る機会が無かったのも確かなんで、適当な事しか言えないのよ。
「まぁ、良い。確かにお前にとっては馬鹿重たい長剣より性に在ってるかも知れん。ちゃんと手入れが出来るならな。だが、あれはどうかな。以前興味があって入念に見たことがあるが」
「駄目なんですか?」
「うむ。駄目とは言わんが、お前にはちょっと合わないだろう。あいつは胴田貫って奴でな。どっちかって言うと長剣と同じように力任せに叩き斬る目的で作られたもんだ。切れ味が劣る訳じゃないが、刀としてはデカくて重いから、お前には勧められんな」
「はぁぁ、そうですかぁ」
確かに見た目がなんだか野暮ったい気がしてたのよね。
刀ってもう少し繊細な美しさがあると思ってたのが私の思い込みじゃ無くて良かった。
でも、合わないものを無理に使ってもしようがないから、今回は諦めないとね。
『はぁあ。廃れちゃったって言うからもう巡り合う事はないかもね』と沈んでいると。
「まぁ、そう落ち込むな。実はな、バクルットには何本か刀が伝わってるんだ。以前メルノアを連れ歩いてた頃に使わせてみようと神都に持って来たのが一揃いこっちに置いてある。メルノアは見た目がどうにも馴染めないって使わなかったんでな。あれなら今のお前にも扱える筈だ」
「本当ですか!」
「あぁ。もし良けりゃ、やってもいい」
「えぇぇ! 大事なものなんですよね」
「そうだが、武器や防具なんて使ってナンボのもんだ。間尺に合わないのは駄目だが、使いこなせるなら使ってやるのが一番良いと俺は思ってる」
神都店に戻って奥の応対室で見せて貰ったのはまさしくあたしのイメージ通りで、思わず『これぞ日本刀よ!』って声を上げそうになった。
大小揃いの拵えが何とも言えずあたしの郷愁を誘う。
たしかにこれはイクァドラットの雰囲気には合いそうもないからお嬢様が馴染めないって言ったのも分かる気がする。
もしこれを使わせてもらえるなら、キュロットの上に穿く袴みたいなのを作ってみよう。
*
2晩かけた裁縫仕事で七分丈の袴を縫い上げた。
色味はかなり悩んだけれど濃いこげ茶色の生地をうちのお店で買った。
あたしの防具のオレンジと深い緑、どちらにもそれなりに合うと思う。
見て貰いたいのは左腰に大小揃いの刀を差す部分を細工したところ。
これで無理なく二本差しで活動する事ができるわ。
一目見て気に入った刀と脇差を胸に抱いて旦那様を見上げると、
『分かった、分かったぁ! 取り敢えずは貸してやる。明後日コガネ魔窟で使いこなせるかを確認する。やるかどうかはその結果次第だな』って、あたしのキラキラビームが効いたみたい。
それから1日半、昼間は刀を使った鍛錬で夜は袴の裁縫で過ごした。
鍛錬の時間は限られるけれど天地流の鍛錬には元々刀を使う動きがふんだんに盛り込まれているから、体の動きに不自由を感じることは無い筈。
それにあたしは刀がどう使われるものかを大体知ってる。
どの鍛錬がどの使い方の為のものかも分かるから、実際に刀と脇差を握ってその長さと重さそしてバランスを感じ取ってしまえばどんどん動きが馴染んでいく。
一日ちょっとの鍛錬で重たい長剣よりは余程上手く使えるようになった……ような気がする。
*
「ほう。そのパンツを穿くと刀を差した姿が様になるな。メルノアもそれがあれば使ってくれたかも知れん。そいつは自分で仕立てたのか?」
「はい。二刀を差すとあたしのキュロットにはどうしても収まらないので、どうせ何かが要るならデザインも合いそうなのにしようと思って」
「なんだ、まるでもう自分のものにしたような言い分だな」
「いぃえぇ、とんでもない。そんなつもりは全然……」
「まぁいい。その位の気構えで無いと使いこなすのは難しいだろう。それで、少しは振れるようになったのか?」
「はい。多分」
コガネ魔窟に向かう日の早朝、まだ開店準備も始まっていない店の前で待っているところに現れた旦那様はあたしの姿を見るなり『おはよう』も言わずに話し始めた。
あたしの格好は本当は上も着物で【若侍に成りすましたお姫様】風にきめたかったのだけど、2晩ではとても無理で諦めたから今の袴姿は妥協の産物なのよ。
だからそっちの話はどうでもいいんだけど、少しは刀を使えるところを見せておかないと『やっぱりヤメだ』なんて言われ兼ねない。
あたしは足を前後に少し開いて腰を落として刀の鯉口を切った。
「ふむ。やけに堂に入った構えだな」
居合の要領で、抜刀し振り抜きからクルリと刀を返しての納刀までを一瞬で済ませて見せた。
『うん。我ながら上手くいったわ!』と内心悦に入ったのは顔に出せない。
「なんだぁ! ひょっとして、それが居合か!?」
「えぇ、形と所作を一通り当て嵌めて鍛錬したら出来る様になりました」
「初めて見たが、凄まじい速さだな。抜き身の長剣で突くより早いんじゃないか?」
「かも知れませんね。特に速さは意識してないんですけど、なんだかとってもしっくり来て滞るところがなくなっちゃいました」
「なっちゃいましたって……お前なぁ」
目を大きく見開いて『開いた口が塞がらない』表情そのままの旦那様はしばらく言葉が出ない様だ。
「いゃ。自分で使いたいと言っただけあって、とんでもなく相性が良いようだな。もう確認の必要は無さそうだが、自分でも実戦の使い勝手を知っておきたいだろう」
「はい! 是非」
「なら、予定通り出発だ」
あたしが牽いて来ておいたいつもの黒馬の手綱を取って街外れを目指して歩きだす。
ダフネとシルファがその後に続いたのを見て、あたしも旦那様の隣に並んで歩いた。
*
「いらっしゃい! 首を長くしてお待ちしていました」
コガネ魔窟の新任責任者はクラッドさんって言うそうで、あたし達を目敏く見つけて大きく手を開いて満面の笑顔で迎えてくれた。
相変わらず魔窟の入り口はごった返しているけど、第二層への特別ルートがあるのを知ったので焦ることは無い。
「こっちの入り口を使う人が来てくれないと実績が上がったりなんですよ」
カウンターの中に入ってあたし達のライセンス証を処理して入り口を開けてくれる。
「珍しい武器ですが、特注品ですか?」
「いや。今は廃れた古い武器でな。こいつが使いたいと言うからうちの家で眠ってたのを引っ張り出して来たんだ」
「じゃあ今日はそのテストでもありますね。上手くいくと良いですね」
「えぇ、ありがとうございます」
さぁ、実戦だ。
前よりずっと上手くやれそうな気がするけど、どうだろうか?
どんなに過酷になろうと構わない、しっかりやって納得出来る結果を残す事だけを考えよう。
明日もお付き合いいただければ幸いです。




