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第ニ章 神都の見習少女  16話  明日はれるかな

いつもお読みいただきありがとうございます♪

 残念ながら、最初の中型魔獣はお馴染みのツノヤマイヌだった。

討伐頭数の記録を伸ばすのも大事なので、ここからは魔力無しで倒せる分はあたしが全部倒す事にしている。

進むついでの小型魔獣みたいにおざなりじゃなくて、ちゃんとこの三月みつきで再構築した所作やかたを意識して倒す。

あくまでも意識の問題で、時間を掛けるって意味じゃないよ。

中層が目的なんだから進むのは早い方がいい。

この魔窟は旦那ギルァム様が大体の最短ルートを憶えていて、あたしがその指示を聴いて前を進むから攻略速度はかなり早い方だと思う。

初めのうち、魔獣が一二いちに頭で現れていた間は歩調を変えずに襲って来るのにカウンターを合わせるようにしていた。

こっちに来ないと手間が掛かるから『あたしを祟れ! あたしを祟れ!』って大声で怒鳴りながら歩いていたら、旦那ギルァム様はちょっと呆れ顔だったけどね。

群れが四五しご頭になると同じタイミングで襲って来るのが多くなって、カウンターのタイミングをずらす為に少しだけ歩く方向や速さを調整した。

あたしが攻撃を切り返すほんのちょっとの時間を調整するだけだから見た目の歩く速さは変わってないと思うけど。

10頭近くなると流石に歩くだけでは魔獣の始末に追い付けなくなった。

動線の中心がこれまで通り旦那ギルァム様の横なのは変わらないけど、小走りの僅かな移動で魔獣を出迎えて討伐数を稼いでいく。


 目的がお金じゃないし切りが無いので、ここまで魔核は拾わず放って来た。

小型魔獣の領域では見える範囲に他の探究者が居たので彼等が『貰って良いのかな』と言う感じで拾う事もあったけど、中型の領域では近くにほとんど人が居ないので魔窟に再吸収される物の方が多くなる筈。

魔核は魔石ほど安定性が高くなくて特に魔窟の中では数時間で再吸収されてしまう。

密閉した容器や袋に入れれば地上と同じように数週間はもつから、探究者は獲った魔核は出来るだけ早く袋とかに入れる様にしてる。

精錬して魔石にしちゃえばどこに居ても滅損を気にしなくて済むんだけどね。

魔獣が大きくなるにつれて出現率が低くなる傾向があるみたいだから、大型魔獣からは出来る範囲で回収しようかなと思う。


「ギルァム様の【練成】って魔核の精錬は出来るんですか?」

「当たり前だろ。一番やる機会が多いから今なら袋に入れるくらいの手間で出来るぞ」

「えぇぇ! じゃあ大型魔獣の魔核を回収したら群れ単位で精錬して下さいよ」

「どのみち暇だから別に構わんが。ほとんど受付で買上げになるぞ」

「でも数が有れば持ち出せるのも増えるじゃないですか。綺麗なのを残してマチアや皆の土産にしましょう」

「まぁ初めての記念にそれも良いか。魔核で渡してもそのうち消えちまうからな」

「やったぁ。ありがとうございます」


 魔獣を狩る合間にお願いをきいて貰えたので気分は上々だけど、浮かれはしない。

実戦でどれだけ精確に武技を使うかも重要な鍛錬の1つで、そのためにここに来てるんだからそれを疎かにしちゃ本末転倒よね。

魔窟に入れば色んな状況があるから魔核を回収するかどうかは探究者の意思に任されてるけど、回収した魔核の大部分はギルドで買い取られる。

一人当たり一定量までは全量買い上げで、大型魔獣10頭分を越えると1割は探究者が手元に残して自由に使えるんだけど、そんなに獲れる人は中級者でも珍しいみたい。

ギルドで買い取るって言っても全ての魔窟の近所にギルドが在る訳じゃないから今は全部魔窟の受付で処理されて、受付にあるお金で払えない分はギルドへの貸し付けとして記録されるの。

これは貯金と同じでそこのギルドが出せる範囲ならいつでもライセンス証で引き出せるし、ギルド内の飲食や買い物を引き落とす事もできる。

ちなみにギルドで買い取った魔核は魔石に精錬されて、ほとんどがギルド内や役所・公共施設の魔道具の燃料に使われる。

余剰分がギルドで販売されるから探究者達は自分が使う魔具の燃料として購入する訳。

上級者は手元に残る魔核を自分で精錬して使う事が多いみたいだけどね。

魔核精錬コアプリファイって魔法を使うんだけど、旦那ギルァム様のスキルの方が便利に違いない。


 午前中に低層の一番奥、中層への降り口に着いたのは『個人探究じゃ最短レベル』らしい。

少し早いけど降り口の中で昼餉にする。

この魔窟が便利なのは、こういった魔獣領域の切り換わりがはっきりしているので切り換わりの降り口ではそれぞれの領域が干渉してどっちの魔獣もほとんど現れない事。

そうでない場所では見張りを立てて交代でないと休憩も食事も出来ない。

もっとも半日ではここまでどころか小型と中型の切り換わりまでも辿り着けない探究者が多くて、そんな人達は見張りだけで魔獣を倒す事はできないから実質休息を取るなんて無理なのよね。

疲弊して効率が悪くなれば探究も進まないから、低層の浅い所でうろうろする事になる。

力が無いなら魔導具や魔薬に頼るしかないけど、【練成】や【精製】みたいなスキルでもない限り費用が馬鹿にならない。

結局、魔力か武技かスキルか、何がしかの強さが無ければ探究者になっても成功なんて無理って事なの。

その点あたしは物凄く恵まれてる。

自前のスキルがまだ何者かも分からないのに天地流で武技と魔力を伸ばして貰えたから。

『あのまま孤児院に居たら』『メルノアお嬢様に出会わなければ』って考えるとゾッとするわ。


 食事を済ませて、いよいよ中層に入る。

戻りの時間を考えると進めるのは後3時間もない。

今日、超大型達を見る事はできるかしら。


「分かってるだろうが、天地流の実地検証が目的だから、出来るだけ魔法は使わずに倒すんだ。ここまでは良かったが、大型が相手だからってかたに狂いが出たら何にもならん。急がずに確実にな!」

「はい!」


 いた気分を見透かされたみたいで、首を竦めてペロっと唇を舐めた。

そう、魔窟にはこれから何度だって入るんだから何も焦らなくていい。

あたしは長剣を抜いた。

あたしの体には大型魔獣を素手やナイフで確実に倒すだけの力がない。

魔力を付加すれば別だけど、今それを使うのは何の為にもならないのよね。

長剣は真っ直ぐで居合抜きとかが出来ないから抜き身で構えるのが普通なんだけど、正直スマートじゃなくてあたしは好きになれない。

天地流には【刀】を扱う武技の鍛錬も含まれてるんだけど、イクァドラットに【刀】は流通していないみたい。

バクルットに置いてないのはきっとそうなんだと思う。


     *


 結局、中層前半で大型魔獣を相手に剣を振るってる間に時間切れで戻る事になった。

奥に進むと大型魔獣の群れがどんどん出てきて魔法なしだと結構手間取るようになってしまった。

特にマダラオオワシが空中にいるとナイフを投げるくらいしか攻撃が出来なくて、襲って来るのを待つしかないのよ。

イライラして天地流に狂いが出ないように呼吸を整えて待つのも鍛錬の1つと、頑張ったけど正直余り性に合ってないかも。


     *


「全部魔石に精錬してあるんですか! これは凄い金額になるなぁ」

「全額こいつの預託金でいい。それと大きいのをいくつか持って帰るからな」

「はい。ではそのように」


 魔石でいっぱいになった2人の背嚢を受付のカウンターに置くと、中を覗き込んだ新任責任者さんが息を呑んで声を上げた。

群れ単位に精錬してあるのでそれぞれ超大型前後の大きさがある。

これだけでもちゃんとした勤め人の年収くらいの金額になる筈で、これから先もこの調子ならあたしの預託金はとんでもない金額になるかも。

カウンターの上に木箱を持って来て魔石を1つずつ計量しては箱に収める。

特に大きいの3つが計量後カウンター上に残されたのは持って帰る分だ。

作業を終えて木箱に蓋をした責任者さんがにこやかにこっちを向いた。


「作業は終了しました。預託金の情報はギルドに共有されたのでいつでも使えますよ。また近々にでも来てもらえればノルマが一気に解消してウチとしては助かります。よろしくお願いしますね」


 頭を下げた彼に頷き返して、カウンターの上の魔石を背嚢に詰める。

いつの間にかあたし達の後ろに探究者達が集まって覗き込んでいた。

ここはほとんど初級者しか来ないから大きな魔核や魔石が余程珍しいんでしょうね。


「ぐぁっ!! いてててぇぇ!」


 ダフネ達が待つ表に出ようと歩きだした背後で悲鳴が上がる。


見ると責任者さんが魔石をいっぱい詰め込んだ木箱を足の上に落としていた。

木箱は壊れて無いから中身は大丈夫だろうけど……。

『ふん! 骨も筋も異常無し。放っておいても数日で治る』と【鑑定】で知ったらしい旦那ギルァム様は振り向きもしない。

『すごく明日腫れるかもなぁ』って顔を顰めてあたしも後を追った。

お正月休みも今日まででしょうか?

明日からもよろしくお願いいたします!

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