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第ニ章 神都の見習少女  13話  負かす気のみ

お読みいただきありがとうございます。

「おいおい。急な話で上級者が集まらなかったのは仕方ないが、お前等も古参の探究者で正式な試験官の資格も持ってるんだろうが。合否云々の前に途中で審査を止めて結論を出さんのは資格の剥奪も有り得るんじゃないかぁ」


 良く通る声をあげながら悠然と闘技場に姿を現したのは旦那ギルァム様。

5人の試験官達の背筋がピンッっと伸びて『気を付け!』みたいになるのが可笑しい。

さっき愚痴っぽく『合格でいい』とか言ってた探究者が緊張を解いて口を開く。


「でもなぁ、 ギルァムの旦那。こいつの言う事もあながち的外れじゃねぇと思うよ。何せ触るだけで折れちまいそうな華奢な体を見てると、いくら攻撃が強くたって流れ弾1つで死んじまうんじゃないかって心配になるのも無理はねぇからな。もう3年して成人すりゃ放っといてもそれなりのガタイになるんだし、それからでも遅くはないって言うのが無難なトコかも知れねぇよ」

「そうよ。背丈は年相応だけど、こんなに痩せっぽちじゃとても持たない。せめてあと1年待ったらどうかしら。実際何事も無かったとしても、どう見ても無理そうな子にライセンスを発行したって言われたら神都ギルドの信用に関わるんじゃない?」


 こいつと呼ばわりされたのは『まだ無理』って言ってたひとで、旦那様の出現に緊張はしていてもやっぱり意見は変わらないみたい。

審査が多数決かどうかも分からないけどもう1人反対したら過半数、とっても雲行きが怪しいんだけど今は待つしかない。

旦那ギルァム様だけが頼りなんだけど。


「ほぅ。エノラの体を心配してくれてるのか。確かにドカンドカン魔法を撃てても土台が弱けりゃ駄目な事もあるよな。それじゃあどうだ? 武技の実技審査は魔法禁止で、お前等2人相手に何分持つか。そうだな、3分持たなきゃ不合格、それ以上なら合格。それなら問題無いんじゃないか?」

「あらぁ。2人相手に3分って、諦めたも同然じゃない。あっ、そうか!  ギルァムさんもその子に諦めさせる手立てが要るのよね、きっと。いいんじゃない? こってりと現場の厳しさを味合わせてあげるわ」

「いいんだな? おいっ、お前の方はどうなんだ」

「何か茶番みてて面白くねぇが。まぁその子がいいなら構わんよ、俺は」

「どうだ、エノラ。これで負けたら諦める事になるがそれでいいか?」

「はい! やらせて下さい」

「よし。他の3人もそれでいいかな? うむ。それじゃあ、俺はあっちの隅っこで見てるから後は頼んだぞ!」


 旦那ギルァム様があたしと試合う2人の肩をポンポンッと軽く叩いて軽い足取りで闘技場の端っこへ歩いて行く。


「そんな訳で2人相手になるけど恨まないでね。貴女のおじさんが決めたんだから」


 女探究者さんがニッコリとあたしに微笑みかけた。

女のあたしから見てもとっても色っぽいのがよく分かる。

体の造りが全く別物で、出っぱってるトコと引っ込んでるトコに『えげつない』って言葉がピッタリの落差があって、とてもあたしと同じ種類の生き物とは思えない。

あたしだってこれから成長するとは思うんだけど『絶対、あぁは成れない』って自信がある。

そう、『成らない』じゃなくて『成れない』ね!

この人の目には、この性に生まれた者に刷り込まれた絶対的な優越感が溢れてる。

あたしは別にそれを悪いことだとは思わない--本能だもの仕方ない--けど、あんまり気分が良いもんじゃないのも確か。

本人はあたしのことなんて【女】の数の内に入れてなくて、今は探究者として負かす気のみ・・・・・・なんだろうけど。

そんな気持ちは露も漏らさず、あたしは無邪気な笑みを返した。


「えぇ。お手柔らかにお願いします」


 あたしが壊した標的の残骸の前に探究者の男女が並んだ。

魔法禁止だからもう少し近くでも良いんだけど、あたしが魔法を放った場所そのままに居るから闘技場のバランスを考えてそうしたのかな。

残りの3人の試験官の1人が前に出て真ん中に立った。


「それでは実技審査の試合を行う。試合時間は3分間で、その間に受験者の闘技衣が戦闘不能色に染まるかギブアップの場合は不合格、それ以外の場合を合格とする。主審は私、後方の2人が副審と時間計測を担当する。うむ! それでは試合を開始する、始め!!」


 相手の2人が手に持った長剣を抜いて鞘を後ろに放った。

実技試験だからあたしも腰に長剣を下げているけど、とにかく間合いが遠すぎるのでとりあえずは素手のままで無造作に数歩前へ進む。

あたしが近付くと2人は少し離れながらあたしを挟み込むように前に出た。

ちょうどあたしが主審が居た辺りに立ち、主審から見ると近い方が男で遠い方が女の探究者。

距離はどっちも3メートルくらい。

数瞬こっちを睨みつけた後、相談でもした様にあたしを中心に反時計回りにジワジワと移動を始めた。

3人一直線だから両方見ようとすると視界の両端になってしまう。

あたしは2人の動きには無頓着に最初に歩いてきた向きのまま棒立ちに近い姿勢でいる。

死角を作るのが初めからの狙いなんだろう。

後ろに回り込んだ女探究者が大きく一歩踏み込んで剣を目一杯伸ばして横振りに切りつけてきた。

勿論、威力は当れば即試合終了。

あたしは半歩前に出て剣先を闘技衣ぎりぎりで躱して、剣が降り抜けた元の位置にすぐ戻る。

彼女の動きは見えないけど、スキルが全ての音を捉えている。

彼女がもう一度逆に剣を振ると同時に前の男性が剣を思い切り突いて来た。

さっきと同じ逃げ方だと突きで串刺しなので、前に出ながら体を低く突きの下にくぐらせる。

低くなった目標に合わせて男の剣先が下がって刺そうとするのを腰に差したままの剣柄で弾いて軌道をずらした。

踏鞴たたらを踏み掛けた男探究者の後ろに回って背をトンッと押してやると、さっきまで低い姿勢のあたしがいた所へ振り下ろす女の剣の軌道に入り掛けて、大慌てで斜め横に転がり逃げている。

あたしは空いた元に位置に戻って、次の攻撃を待った。


 相変わらず背中を向けているあたしに焦れたのか、女探究者が転がった男の反対側へ移動しながら剣を斜め上へ斬り上げた。

逃げてばかりも詰まらないので移動する彼女の方へゆらりと近付き剣の内側に入り込んで振るう腕を取ると、勢いに合わせた巻き込みで崩れた体を軽く腰に載せて投げ落とした。

同時に腕の急所を突いて剣を落とさせる事も出来るけど、あんまり見せ付けるのも悪趣味かなと思う。

地べたに腰から落ちた彼女が横腹を押さえてあたしを見上げる間に男探究者が起き上がっている。

投げた姿勢のままわざと無防備な背中を見せていると大きく跳び上がって上段から剣を振り下ろしてくる。

ちょっと明白あからさまよねと振り下ろすそのふところへ移動すると、右膝を脇腹へ喰い込ませようと器用に蹴り付けてきた。

膝から逃げる様に体を左に回し、半身はんみの左肘をみぞおちに突き当てて『ヨイショ』っと肩越しに投げ落とした。

元々腕で剣を振り下ろしていただけで棒立ちのていで膝を突き出しただけ、小さなあたしに投げ落とされても回転不足で地面へは顔から落ちていく。

受け身の体勢も取れずに何とか捻った肩から地面に落ちて闘技衣が淡く染まった。

反対側で立ち上がった女探究者の腰も色付いているけど、もちろん致命傷扱いには成らないから勝負はまだ決まらない。


 男も立ち上がり、2人はじわじわと距離を詰めて来る。

離れた所から剣を振ると腕が伸びた懐に入られるのに気付いたみたい。

『あんまりゆっくりしてると時間切れになっちゃうよ』と声をかけると、2人が頷き合って同時に剣を振るった。

女が右上から左下へ、男は右から左へ横様に。

確かに腕は伸びずに懐もいていないけど、こんなコンパクトな振り方剣道でもやってなけりゃ練習しないわよね。

明らかに剣速が遅い。

魔法禁止だから剣を避ける程跳び上がれないけど、男の横振りの手元には剣の腹の根元が剣速の遅さでほとんど動かないように見えている。

長剣は幅が在るから根元なら完全にあたしの小さな掌は載ってしまう。

剣の根元にを掛けて、その反動を使って跳び上がった。

剣が振られる前にあたしの体は男の肩口まで浮き上がって、そこで男の額を踵で蹴って反転、女の額も同じ位置を爪先で蹴りつけた。


「勝負あり!」


 2人の闘技衣のターバンみたいな帽子の額が濃紺色に染まっている。

明日もよろしくお願いいたします!

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