第二章 神都の見習少女 12話 まだムリそし
あけましておめでとうございます。
本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
魔道具と魔薬のお蔭もあって停滞気味だった魔獣狩りチームの育成にようやく明かりが見え始めた。
鍛錬の指導を始めて2ヶ月以上経つのにまだ大型魔獣の領域へ完全に踏み込む事が出来ていないけれど、何とか2頭までなら持ちこたえて狩る事が出来て獲物として持ち帰れる様になってきた。
ただし、3頭以上の群れが現れた場合はあたしが間引くのが前提で、あくまでも大型魔獣とその領域に慣れるための演習に過ぎない。
とは言え、この半月の成果は大きくて何とかチーム成立の目途も立ちそうよ。
あたし個人の鍛錬の方も促成栽培で染み付いた悪癖はほとんど抜けて、もうすぐ旦那様の御墨付が貰えそう。
ただしこっちはその先が大変で、旦那様としては魔窟の中層を個人で抜けられるだけの実力を付けてから送り出すつもりらしくて、何とか特例で魔窟に潜れるように根回しを始めているらしい。
だから最近『それまでにチームを立ち上げてしまえよ』って無言の圧力を感じ始めた。
ジェランドさんにあたしが知ってる経理の基本を教えないと駄目だし、教える内容を前もってメルノアお嬢様に送るのも忘れられない。
神都店が本店より進んでるのは変だけど、お嬢様とタリアンさんのスキルがあれば理屈だけ書いて送れば完全理解できる筈だからね。
まぁとにかく忙しくて息吐く暇もないのよ。
*
「久し振りに横に立ったけど、ひょっとして追い抜かれた?」
「うん。もうだいぶ前にね」
「そうかぁ。だけど体重はまだ勝ってるよ、きっと」
「そう。あんなに食べてるんだけどね」
「忙しすぎるんだよ」
「じゃなくて、体質だと思う」
神都店に来て1日も休まない日々で、三月が過ぎた。
ただ救いは毎日夜早く寝間に入ってぐっすりと眠っている事。
趣味とか遊びとかは思い浮かべることすら出来ないけど、今はそれで良いかな。
たっぷり寝て、沢山食べて、その分動く。
背丈はとっくにマチアを追い抜いたけど、ガリガリなのは相変わらず。
丸顔で頬が赤いのも変らない。
胸やお尻がふっくらして頬の赤みが薄らぐのはまだ何年も先なのかな。
マチアだって背も伸びてるんだから、あたしはもう12歳でも可笑しくない背丈にはなってるよね。
目標はあと二月で探究者の仮ライセンスを発行してもらう事。
それには最低12歳になってる必要があるんだから、そう見えないとね。
この国にはちゃんと役所が有って、人の戸籍だって整備されている。
ただ、あたしは捨て子だから出生届なんてなくて孤児院から保護の届けが出されただけ。
なので誕生日も登録されずに保護された年に多分0歳だったろうって記録されている。
それだとまだ9歳くらいって事になるんだけど元々がそんないい加減な登録だから、そんなのは無視してバクルットが身内認定をして12歳って横車を通してしまう事も無理じゃないんだと思う。
別に役所の登録を変えなくても、探究者ギルドが認めればいいだけの事だからね。
実は来週、狩りチームの最終演習を予定してる。
久し振りに旦那様立ち合いの下で大型魔獣の領域に入って、群れを3つ以上狩るか、大型魔獣を6頭以上倒して領域を出るのが合格条件。
魔道具や魔薬など色々工夫したお蔭もあって、この半月余りで彼等の実力はかなり上がった。
個々の天地流の技量は本店のチームメンバーに及ばないけれど、チーム全体としてはかなり近付いてると思う。
それが晴れて合格となれば、ようやくあたしは指南役から開放される。
そしてそれを待ちかまえている旦那様と探究者ギルドにいって仮ライセンスの試験を受ける事になるそうだ。
*
「えぇっと、エノラ・バクルットさん、12歳ですか? 仮ライセンスの受験ですね」
「はい。よろしくお願いします」
「一応、試験の内容を説明しておきますね。実は15歳で受ける正規ライセンスなら現役中級以上の探究者の推薦があればほとんど形だけの試験なんです。探究者は全て自己責任ですからね。エノラさんは上級探究者の推薦があるのですが、未成年は自己責任という訳にいかないので全ての試験が行われます。えぇぇまず最初に筆記試験があります。探究者の行動規範や魔窟の構造や魔獣の特性に関する設問と常識問題で25問中20問以上の正解が必要です。採点は直ぐに行われ、筆記試験に合格すると実技試験に入ります。ここまでは大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
「実技試験は魔法と武技の2つ。現役探究者5名が試験官で、魔法は指定された魔法の発動と効果を確認します。武技では中級探究者との対戦形式の模擬試合、これは勝ち負けでは無くて武技の熟練具合と技の強さが評価されます」
「はい。模擬試合は実際に技を掛けたり打撃を当ててもいいんでしょうか」
「えぇ、基本は真剣勝負です。闘技衣を身に付けて行いますから放出系の魔法や打撃の類は効果が闘技衣に色で表れます。実際の効果の大半は闘技衣に吸収されるので大怪我をする事はありませんし、大概の怪我は試合後に魔薬か魔法で治療されますよ」
「それなら安心ですね。精一杯頑張ってみます」
「健闘を祈ります」
神都の探究者ギルド、あたしはカウンターで受付係と話をしている。
書類は旦那様から渡されたので事前に記入済みのを提出した。
名前は旦那様の設定通り【エノラ・バクルット】としてあるし、年齢は12歳になったばかりになる様に誕生日をつい最近の日付にした。
旦那様が先に根回しを済ませているのか、受付はスムーズだった。
筆記試験を受ける部屋へと向かう。
*
筆記試験はその場で採点され、満点で合格した。
受験者はあたし1人で闘技衣に着替えて屋外に案内された先の闘技場には5名の試験官が待ち受けていた。
みんな中級以上の探究者らしいけど、余り強そうには見えない。
お嬢様みたいな【鑑定】があれば強さも具体的に分かるんだろうけど、あたしのは当てにならない。
でもどう見たって旦那様の方が強そうなのは間違ってないと思う。
「うむ。エノラ・バクルット君だね。これから魔法の審査をするが大丈夫かね」
「はい。大丈夫だと思います」
「それでは前の標的を破壊するつもりで魔法を放ちなさい」
「はい!」
あたしの前10メートル余り先に5個の木製の標的が立てられている。
『破壊って言ったけど余り大きい魔法だと駄目かな』って、1つずつ左から小さ目の魔法を放つ。
炎熱弾で燃やし、雷攻矢で割り焦がし、遠強打で打ち壊し、離把潰で潰して、凍気だけでは壊れにくいので1段強い氷柱槍で凍壊させた。
我ながら上手く行ったと思ったけど、どうも試験官達の表情が固い。
『やっぱり灼熱投槍を旋回させて一度に燃やし尽くした方が良かったのかな?』とか、色々悩んでると……。
「あぁあぁあぁ、もう合格で良いだろ! 観たか!? 立て続けにどでかい中級魔法を4つ放った後に上級の氷柱槍を撃って涼しい顔してやがる。これで合格じゃ無けりゃウチのギルドで合格するのはここに居ない上級者だけだよ。少なくとも俺は武技の相手は降ろさせてもらうんで、やるんなら誰か代わってくれよなぁ。それに、あのギルァムの旦那が自信満々に送り込んで来たんだ、武技も出来るに決まってるじゃないか。俺あ嫌だぜ、こんな小っちゃい子に見っともなく負けんのはよ!」
「でもこの体ではまだ無理じゃないの? 何かあって私達の責任にされたらどうするのよ」
あららぁ、どうもやり過ぎてしまったのかな。
多分仮ライセンスの受験だから中級の人達に任せて上級探究者が来ていないみたいね。
旦那様はいるだろうけど、身内って事になってるから審査には入れないし。
『このまま中止とかになったら困るなぁ』って結果待ちの身は辛いのよ。
『まだ無理』だけは何とか阻止しないと……。
皆様のご多幸をお祈りいたします♪




