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第ニ章 神都の見習少女  11話 マヤクもしょうねん

本年も今日でおしまいですね。

1ヶ月半お付き合いいただきありがとうございました。

来年もどうかよろしくお願いいたします。


 役所に寄って色々と手続きを済ませたせいで帰りがだいぶと遅くなったので、魔獣肉の晩餐は翌日に持ち越しになった。

でも積んで帰った獲物に店の皆は興味津々で、興奮冷めやらぬ狩りのメンバー達の話で夕餉の場が盛り上がって中々収まらない。

仕方が無いのであたしは彼等が獲ったハンモンヘビと調理器具を取りに行った。

食堂には炭火用のコンロがあるので火を熾して、片側に蒸し器を準備する。

何が始まるのかと皆が見ている中でハンモンヘビを捌く。

例によって血は抜けているので汚れる心配はまずないのね。

首の部分に切れ目を入れて尻尾に向けて皮をいでいく。

ここら辺りは普通の蛇と同じで指を突っ込んで引っぱるだけで面白いようにけてしまって、予想通り肉質は柔らかくてある種の蛇の様な臭みもない。

魔獣肉の味や匂いは形の似た獣とは全く別物だけど、形が蛇でも同じ事みたい。

これなら大丈夫と、背開きにして骨と内臓を取り除く。

皮も骨も大事な素材だから別に取っておき、肉は6センチ前後の幅に切って串を打った。

ここまで来れば分かる人も多いでしょうけど、狙いは蒲焼。

イクァドラットは高地の国なので純粋な淡水魚以外は干物でしか魚が流通しないから、蒲焼は見た事も聞いた事も無くて試してみようと思ったのよね。

蒸し器の湯が沸くまでの間に、酒とみりんと醤油を同量混ぜて全量の5分の1弱の黒糖を加えたものを火に掛けた。

これだけ色んな調味料が揃っているのが結構不思議なんだけど、そう言うものだと思うしかないよね。

串打ちの肉を蒸しながら、タレをへらで混ぜつつとろみが出るまで熱を加える。

タレが肝で上手く仕上がるかは試さないと分からないので今日はこのままで使う。

肉の蒸し上り具合を確認して蒸し器を火から下ろしたら、蒸し上がった肉をタレにくぐらせて炭火に掛けた。

蒲焼独特の香りが食堂に全体に拡がり皆の鼻がひくつくのが分かる。

後は蒲焼の要領で仕上げたのを串から外して、尻尾の方の小さな一切れを試食した。

『うん。鰻とは少し違うけど、淡白で柔らかい肉質には良く合ってる!』

胴の太さは良く肥えた鰻ほどだけど、ずっと長いから7人前には充分。

みんな食事は終わってるけど狩りに行った7人はまだ食べれる筈だから名を呼ぶ。

余り物のご飯に蒲焼を載せてタレをかけ加熱ヒートで温め直して出すと、一口食べた7人は猛然と掻き込み始めた。


「明日は皆の分も作るからね!」


 こんな感じの予告編で皆も納得したみたい。

『どんな味なんだろ』とか『楽しみね』なんて話しながらみんな自室に戻って行く。


 翌日みんなが張り切って仕事をこなしている間、あたしは午後の魔獣分布調査を早めに切り上げて夕方は厨房に入った。

献立は昨夜披露した蒲焼丼に野菜天麩羅盛り合わせと茶碗蒸し。

カツオ節があるのも不思議だけど、この辺りの熱帯域では絶対に採れない昆布まで揃っているのに何だか作為か執念染みたものを感じるのは扨措さておいて、合わせ出汁から準備して満足のいく天つゆと茶碗蒸しを仕上げることが出来た。

あたしはまだ飲めないけど清酒も流通してるのは、昨日使った酒とみりんで分かるよね。

こうした食文化も例の『世の中の仕組みが変わった数百年前』に前後して変革期を迎えたようだけど、『神の御業』としか言えない一連の変革に酷く人間染みた意思の介入を憶えるのはあたしみたいな変わり者だけなんだろうねぇ。

材料が揃っているのは良いんだけど、例えば出汁の取り方とかにかなり雑な印象を受けるのは数百年の時の流れが影響してるに違いなくて、一度自分で満足の行く料理をしてみたかった。

これまで一度も厨房に寄り付きもしなかったあたしが手際よく調理をこなして行くのに、賄い当番の奉公人さん達が目を丸くしている。

彼女等には他の魔獣肉と野菜を使ったバーベキューの準備をしてもらうように頼んだ。

若い使用人や奉公人がほとんどだから、味付けが変われば二人前程度はぺろりと食べてくれる筈だもの。


 その日の晩餐は大盛り上がりで、あたしは『得体の知れないバクルットの異分子』から『料理上手な気の良いエノラお嬢さん』に見事ランクアップを果たした。

ただ、旦那様の『お前いったい……』のあとに続くだろう『何者なにもんだ?』を聞こえない振りをするのはとても無理そうなので、例の『孤児院の傍のお婆さん』が『料理上手で』と取り繕ったのだけど……、『???』と胡散臭さ満点の目付きで鼻を鳴らされてしまった。

まぁ鑑定が余り利かないスキルを持ってる時点であたしの胡散臭さはとっくに満点を越えてるから気にしてもしようがないんだけど。


 そんなこんなで魔獣肉の試食も済んで、狩りのメンバー候補達は鍛錬と演習を繰り返す日々に入る。

当然あたしはそのかん彼等に付きっぱなしで、自分の鍛錬と合わせて暇なんて感じる隙もない。

店には徐々に演習で狩った獲物の素材が並びだして、お客さんの評判も良いみたい。

本店と同じでまだ最初のうちは利益が薄いけれど、大型魔獣が狩れる様になれば商いも利幅も一気に大きくなる。

それは良いんだけど、問題はその責任がメンバーを指導しているあたしにあるって事なのよね。

その状況の中で急激に力を増して来たのはやっぱりソロムさんだった。

彼自身は天地流鍛錬との相性がそう悪くないので武技も魔力も伸びて、もう大型魔獣を狩れる実力を付けつつある。

だけどそれは彼とティランさんだけで、他のメンバーはまだ時間が必要だ。

例の魔導具については結局トルボアからの返却要請も無く、旦那様が燃費改善の改造を施したのでティランさんとソロムさんなら充分扱える様になった。

ただ、今は行き帰りにずっと起動していると狩る魔獣の数が減ってしまうので、使い方は考え中。

大型魔獣を狩りの対象に限定できるようになれば、その領域までの往復は起動し放しでいいんだけど。


 思ったよりメンバーの力の伸びが思わしくないので、少しだけ方針転換する事にした。

本店のカザムさんとテネスさんの力関係のように、魔獣狩りに関しては純粋な天地流や魔力だけでなくて『魔獣狩りに馴染む』ことも重要な要素なのでそちらにも重点を置こうと考えたのよね。

魔獣や狩場の特性を良く知って同じ力でもより高い効果を上げられるようにしたい。

そのためにはやっぱり現場で稼働する時間を長くする必要がある。

だから中型魔獣の領域までは例の魔導具を起動して一気に移動してしまう。

それで現場に居る時間は確保できたんだけど、問題は実力ぎりぎりの状況だと魔力消費が激しいし負傷とかの頻度も高くなるので、結局実質稼働時間はそれほど増やせない。

そんな時、お店で売ってる魔薬の事を思い出した。

『あれって魔力量や生命力を補填したり一時的に力を向上させたりするって言ってたわよね』

孤児院で育ちでお金が無かったあたしは自分に魔薬を使う事なんて考えもしなかったから、魔薬に関してはほとんど何も知らない。

旦那様に尋ねると『あぁ、探究者でも魔力が多くない奴等は魔窟で魔薬を使ってるぞ。俺は滅多に使わないがないがなぁ』だって。

やっぱり能力の不足する部分を魔薬で補填出来るのは間違いない。

もちろん狩りの本番で魔薬を使ってたんじゃ利益率が下がって駄目だけど、訓練に使う分には赤字にさえならなきゃ良いんじゃないの?

旦那様に足が出ない範囲で魔薬を使わせて貰うようお願いする。

最近あたしに任せっきりで演習にもほとんど来ない旦那様は『好きにしていい』って二つ返事だった。


 いままで演習の獲物の素材の売上と人件費と諸経費から利益までを計算したものを書き出してジェランドさんに見せると『どこでこんなやり方を学ばれたので?』と驚かれたけど、あたしにすれば経理の初歩の初歩に過ぎない。

とにかく納得してくれるまで説明して演習の前に利益分の魔薬を買える事になった。

『うちの帳場で使いたいので経費の出し方を教えて貰えませんか』なんて言われたけど、とにかく暇が無い。

一旦断ったんだけど、ジェランドさんが旦那様に泣き付いたみたいで、何とか時間を作って教える事になってしまった。

ますます暇が無くなってしまったけど、自業自得みたいなもので誰にも文句は言えないのが腹立たしいのよね。


 まぁとにかく今は演習の度、背嚢いっぱいの『魔薬も背負しょって』出掛けてるわ。

よいお年をお迎えください。

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