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第ニ章 神都の見習少女  9話 もう孤児なんていない

お読みいただきありがとうございます。

「うむ。絶好の狩り日和って奴だな」

「ほんと気持ち良いですねぇ。それだけで何だか上手く行きそうな気がしますよ」


 ティランさんとソロムさんが馬上から空を見上げて話している。

今はまだ神都マズマトから出たばかり、中堅の使用人さんを先頭に2列で街道を馬なりに進むだけなので気楽なものだ。

薄い雲を掃いた水色の空がそよ風をより爽やかに感じさせる。

今日は分布調査済みの中型魔獣領域までしか行く予定がないから急ぐ必要が無い。

ぽっくりぽっくり常足なみあしの馬上は長閑のどかな気分が増すばかりだけど、どうやら2人の話には少しばかり虚勢の香りが沁みているみたいで、すぐ後ろを行くダフネに揺られるあたしの目にも彼等の背に緊張の色が映っている。

初めての狩りの日を思い出してあたしはクスッと笑った。


 しばらく進んで街道脇へ外れて休憩、人は疲れていないけどこれは馬のため。

あたしが軽く目配せしたのを旦那様が気付いてくれたので気になる所へ顎をしゃくると、しばらくその辺りを見やった後で『問題無い』と言う風に軽い頷きを数度返してくれた。

取り越し苦労ならそれでいいので、気にしないことにして休憩の終わりを告げる。

ここからは街道から遠ざかって魔獣の出現領域を目指す。

まだ当分魔獣は出ないけれど、人目が無くなるので何かが起きても不思議じゃない。

少し用心が過ぎる位でも構わないでしょ。


     *


 小型魔獣の領域に入ったので全員に告げた。

ほんの子供に過ぎないあたしの言う事を皆真剣に聴いている。

それはあたしが天地流を指南するバクルットの身内だと信じているから。

ちっぽけな孤児だったエノラ・ウズミヌ はもう何処にも居ない。

少なくともこの神都ではそうで、あたしも段々とそれが普通に思えてしまう。

『もう孤児なんていない』こんなのに慣れてしまって本当に大丈夫なんだろうか。


 さて、ここからは候補7名のチームで狩りをする。

鍛錬を積んだこのメンバーにとって小型魔獣を倒す事自体はもう難しくない。

問題は魔獣をいつ発見できるかと、その状況に対して適正な対応ができるかどうか。

もちろん倒すのにも効果効率が関わってくるので、旦那様とあたしはそれらを総合的に観る。

観るだけが目的なのだけど、あたし達も出現領域に居るので魔獣の標的になる。

ただ旦那様は当然、あたしにも既に小型魔獣は何の脅威にもならないから、彼等を観察しながら片手間以下で殲滅してしまえるだけ。

突進してくるのを見向きもせずに一閃で首を落とす。

あたしは【天鳴】の響きで魔獣の動きを把握できるし、旦那様もスキルか探究者の経験かは知らないけどちゃんと分かってる様だわ。


 まず彼等を標的に襲ったのはカギツメテン8頭の群れ。

素早く動き回って鋭いカギ状の爪で標的を切り裂く魔獣だ。

ここの地勢は所々に大きなくさむらが在る原野で、叢の陰になる平地を近寄られると視覚に捉えることも叢を搔き分ける音や動きで気付く事も難しい。

8頭はかなり離れた叢を抜けたらしく生い茂る草が立てる音や動きを、目敏くソロムさんが見つけた。


「西南西の茂みに動き!」

「了解だ! 全員弓を構えろ」


 ティランさんの号令で全員が弓を構えた。

割と遠い茂みからバラバラと飛び出した白黒の毛並みを7本の矢が狙う。

8頭が現れた所に降り注いだ7本の矢は3頭に命中し、残りは5頭。

ティランさんは再度弓を構えかけたが思い直して魔法の発動に切り替えた。

その間に2本の矢が飛んだけど魔獣には当らず、魔法の射程に入った魔獣に5人の魔法が放たれた。

命中したのは3人だけど偶然1頭に2人の魔法が当たった魔獣だけが消えて、4頭はまだ向かって来る。

さっき矢を射た2人が魔法を放つと距離が近い分どちらも命中して2頭を減らした。

残る2頭が迫るのに5人が長剣を抜き放って構える。

焦って前に出た2人が振るった剣をスルリ躱したカギツメテンを、後ろのティランさんの剣が斬る。

残る1頭が素早く後方に回り込んで背後から襲い掛かるのを、さっき近距離魔法で1頭を倒したソロムさんが振り向き様に真っ直ぐに突き刺して群れは全滅した。


「50点か?」

「60点はあげてもいいんじゃ……」

「そうか。まぁ最初だからな、間をとって55ってトコだ。しかしなぁ、75点は取ってくれんと今日は帰れんぞ」

「大丈夫でしょう。慣れれば出来るだけの技量はつけてありますもの」

「ふむ。そう願いたいものだ」


 旦那ギルァム様は自分の使用人達が可愛い分、却って採点が辛めになるみたい。

【鑑定】で彼等の能力は判っている筈なのに、自分で指南していないから今一つ頼りなく感じるのよね、きっと。

あたしとしては指導した手前80点を最低ラインに考えてたけど、それはどうかな。

察知・連係・個人技・倒し方それぞれ5点上げて75は行けると思うけど、まぁ倒し方が酷いからそこが10上がれば80ね。

小型魔獣は小さいだけに下手な位置でとどめを刺すと皮や骨を傷付けて売り物にならなくなる。

今のは8頭の内なんとか店に出せるのが半分でそのうち3頭は見切り品扱い、全部は無理にしても6頭は見切り品無しで売りに出せないと駄目なのよね。

まぁ駄目なら駄目で明日からの鍛錬で絞ればいいだけの事で、それは良いんだけど……。


「それより、さっきのアレ。やっぱり来てますけど、良いんですか?」

「あぁ、気にするな。それなりの準備もしているようだから、午前中は放っておいても大丈夫だろう。そんな事よりうちの奴等を何とかせんといかん」

「そうですね」


 確かに旦那様の言う通り、そんな事より今はうちの事に集中しないと。

進むにつれてキバウサギやトゲオオネズミやアカメイヌにケナガネコそしてツノイタチ、お馴染みの小型魔獣が次々と現れる。

大半の群れは五六匹ごろっぴきで使用人さん達の人数より少ないので魔法を使うことも少なくて魔力切れの心配をせずに狩りを続けられた。


「あれ? 聞き慣れない音がスキルに響いて」

「うん? あぁ、ハンモンヘビが地を這って近付いて来たようだな。地上じゃ滅多に見ない珍しい魔獣だが。さぁて、誰か気付くかな?」

「へぇ、あたしも初めてです。蛇ですか、強いのでしょうか?」

「見た目よりずいぶん素早いから始めてだと戸惑うだろうが、強さは他の小型魔獣と変らん」


 流石に熟練の探究者だけあって珍しい魔獣も熟知している。

あたしも記録は読んでいるから聞けば分かるけれど、始めてなので音だけでは見当が付かなかった。

移動の音も低いし、視界にも映りにくいから使用人さん達の発見は遅くなりそうね。


「あぁあぁ! 蛇だ! あれも魔獣でしょうか?!」


 やはりかなり近付かれてから若手の1人が地を這う動きを視界に捉えて声を上げた。

ティランさんが『ハンモンヘビか!』と唸って、全員に小さく集まる様に指示を出した。

弓はもう間に合わないのでまず魔法からになるけど、魔獣が倍近い数なので撃ち漏らしに小人数が囲まれると厄介なのよね。

幸い魔力は充分だから接近戦になる前に全員が2度魔法を放つ事ができた。

皆それほど強い魔法は撃てないけど小型魔獣なら何とか倒せるし、力不足でも狙いが重複すれは確実に仕留められるので、2度の魔法で半数近くを減じて彼我の数は同じだ。

小さく固まっているので1対1で相手取れ、接近戦で天地流がものを言う

『頭を狙え』とティランさんの声が飛んで、皆危なげなくハンモンヘビの頭の急所を割るのに成功した。


「よし、80点。合格だな!」

「そうですね。判断も正しいし、連係も確実。何より、どれも売り物になります」


     *


 旦那様の合格が出たのでダフネに合図を送る。

何回も分布調査に出ている間にダフネは【天鳴】で届く合図を辿ってあたしの元まで駆けて来れるようになった。

皆の馬は旦那様の黒馬に続く様躾けられているし、分布調査でダフネとシルファと黒馬には深い馴染みが出来上がったので、ダフネが移動すれば全ての馬がついて来る。

全員騎乗で一旦圏外へ出て、昼餉を取った。

今週もよろしくお願いいたします!

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