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第ニ章 神都の見習少女  8話 候補指南て嫌味?

今日もお付き合いいただきありがとうございます。

「なぁ、エノラ。何度か言ってるが、お前はまだ小さいから俺の動きをそのまま真似ようとすると必ずどこかに無理無駄ができる。例えばこの所作だと、肝心なのは体の回転軸と肘がこっちへ抜けていく時に変化する角度が全体の動きのどこで合わさるかが大事なんだが。お前の動きは俺を忠実に再現しているようで、そのポイントが数センチずれてる。ここはこうして、見た目は違う様になっても合わさるポイントを優先するのが正解なんだ」

「はい。じゃあ、こうじゃなくて、こう。これでいいんでしょうか」

「あぁ、良くなった。そのまま、変えた所がスムーズに繋がるように意識して繰り返して体に馴染ませるんだ」


 商都から神都への移動の間に、基本のかたと所作をじっくり再構築--とんでもなく大変だったけれど--する事ができたので、神都に来て簡単な応用の形の組合せ部分を見直し始めた。

やっぱりカザムさん以外の使用人さん達が最初に教えてくれた形と所作は本来のものから随分と変ってしまっていたのが良く分かる。

それらとカザムさんの動きを見比べて、あたしがカザムさんを最高と思ったのは間違いじゃない。

でもカザムさんがきっちりと出来ているのは基本の部分だけで、応用の部分ではメルノア様に及ばない。

しかもその基本の部分でさえ、今指摘された『体の大きさの違い』からあたしは歪な覚え方をしていたのよね。

でもカザムさんにはそのどこが悪いかは分からないから直しようがなくて、半年近く歪なまま続けて固まりかけていた。

メルノア様は問題点には気付いたけれど全体通して1ケ月では一からやり直す時間がないから、そこは敢えて放置して期間内で効果をあげる促成策を取らざるを得なかった。

と言うか『どうせ直すなら【最高】の指導でする方がいいだろう』って父親に丸投げしたに違いないわ。


 旦那様の指導は優しいんだけど指摘は厳しくて半年間にこびり付いた【悪癖】を削ぎ落すのは大変、旦那様やメルノア様に何度か言われてるように『天地流の鍛錬に向いている』だけにそれは余りにあたしの体に馴染み過ぎていて、ほんの微妙な差を修正した動きを体現することに気力だけでなくかなりの体力が必要で、しかもそれが無理なく出来るまで繰り返さないと意味が無い。

延々と繰り返して、時には旦那様との鍛錬時間いっぱい使ってたった1つの動きしかものに成らないこともある。

そんな旦那様の指導を受ける時間は朝餉の後2時間ほどで、その後は神都周辺の魔獣分布調査に2人で出掛ける。

以前にやった、小型魔獣の領域を移動し続けて、中型魔獣領域に入って、更に大型魔獣領域を探す。

これをいろんな方向で展開して記録する作業を続けて分布図を作ろうとしている訳。

もちろん分布が徐々に変化するのは分かっているけれど、それは実際にチームが狩りをしながら修正して行けばいいのよね。

明日からは朝餉前と夕餉後に魔獣狩りの担当候補の鍛錬が始まる。

当然、責任者は旦那様なんだけど『お前の鍛錬は俺が見て、その後魔獣調査まで一緒にやってるんだから、それ位お前がやれ』と云う事で、実際の指導はあたしがすることになってる。

みんな年上なのは当たり前で、普通は誰もあたしの言う事なんて聞く筈ないんだけどね。

あたしを【身内扱い】にしてお嬢様の又従妹またいとこなんて発表したのは、それを何とかして自分が楽したいからなんじゃ無いかと思ったりしてる。


     *


 旦那様の策が功を奏したのもあるけれど、指導を始める前に候補者のトップと模擬試合をしたのが効いたみたい。

神都店の天地流ナンバーワンは当然ジェランドさんなんだけど、彼は狩りに参加しないのが決まってるから候補者で一番なのはティラン・ゴームズって売り場の責任者。

ジェラルドさんがカザムさんには及ばないんだからティランさんの実力は推して知るべしで、結構自信満々で出てきた彼を手玉に取ってコロコロ転がしてあげた。

天地流が適性者に甘いのは周知の事実でその頂点がバクルット一族だから、この模擬試合であたしがバクルットの身内と言うのを皆が信じてしまった。

強い者が指導するのも、バクルットの身内に従うのも使用人さん達には当たり前の事だから、その瞬間からあたしに逆らえる人は神都店にマチアだけになっちゃったのよね。

まぁ自分の鍛錬が大変だし魔獣分布の作業にも手間が掛かるから朝晩の指導に苦労しないのは助かるんだけど、皆のあたしを見る眼に今まで感じた事のないものを感じてとにかく居心地が良くない。

マチアもれっきとしたお嬢さん扱いだけど、彼女は奥様の姪でバクルットの血筋じゃないから明らかに見られ方が違う。

子供頃からバクルット内で育ったメルノア様には敬愛とか欽慕の言葉に当たる感情が向けられてるけれど、突然現れた【異物】のあたしには畏怖とか怯臆とかを含んだ視線が送られてる気がする。

今まで馬鹿にされたり不憫に思われてばかりだったから、敬愛と畏怖どっちにも馴染みが無いのは同じなんだけどね。

何より旦那様から『候補指南・・・・殿』なんて呼ばれるのが嫌味・・ったらしくて敵わない。


 とにかくどうであれ神都に居るのは半年だけの予定だからその間をやり過ごせばいいんだし、魔獣狩りチームを強くしちゃえば神都店の人達と直接関わる事は無くなるんで実際に居心地云々はもっと短期間の筈よ。

念のためにティランさんのスキルを旦那様に尋ねたら【率先】と【談判】らしい。

【率先】はテネスさんの【先導】に似てるけど、もっと直接的に『やって見せる』ことで複数の人を導くスキルで、【談判】はタリアンさんの【折衝】の小規模版。

なるほど、売り場限定の責任者なら適任だろうけどそっちは【教導】【算定】持ちのジェランドさんが店全体の経営を見ながらでも代わりが出来るので、実際の狩りの現場でティランさんが部下を育てて狩りチームを任せてしまえばいいのよね。

取り敢えずあたしはティランさんを含めた魔獣狩りチームの候補を大型魔獣が狩れるところまで引き上げてしまえばお役御免で自分の事に集中できる筈。

そう言えばメルノアお嬢様があたしの【誘導】の教導部分が発現しかけてるって言ってたのを思い出す。

指導するのは天地流と狩り限定だから鍛錬との相性だけでも乗り切れると思うけど、成果が上がるならスキルを意識してやって行くのもいいかも知れないわ。


 こうして早朝から夜までびっしりと詰まった予定に追われる日々が始まった。


     *


 あっと言う間にふた月が過ぎた。

狩り担当の候補者はティランさんを含めた7名で例によって最初は全く鍛錬をこなし切れずに音を上げるだけの毎日だったけど、皆頑張って半月余りで何とか全員鍛錬について来れるようになった。

それから今までの間で多少の差はあるけれど全員何とか大型魔獣を倒せるだけの技量に達したのだけど、もちろんこれだけで魔獣狩りが出来る訳じゃない。

何より大事なのは魔獣の習性や狩場の環境を理解して的確な判断をする力量を身に付けること。

その為にはとにかく現場に入って簡単なところから実践を積み上げるしかない。

商都の本店には狩りの経験者テネスさんが居たけど、ここの人達は全員未経験だから尚更なのよね。

これまでの鍛錬の一番の成果はソロムさんって名の若手の使用人さんで、ほとんど初心者に近かったのがティランさん以外の人達を追い越す勢いでめきめき上達している。

何より期待できるのはテネスさんと同じ【先導】の持ち主で、現場での要領を上手く習得できれば先々神都店の魔獣狩りのリーダーを任せることが出来るかも知れない。


 今週末には始めての体験演習を予定してる。

小型魔獣の領域での狩猟体験と中型魔獣領域に入って旦那様とあたしの狩りを見学する。

あたしの鍛錬時間と分布調査を丸ごと潰しての半日仕事で旦那様も参加してくれるけれど、やっぱりあたしに丸投げされそうで責任重大なのよね。

今週もありがとうございました。

明日からもよろしくお願いします!

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