第ニ章 神都の見習少女 7話 もう年なんでしない?
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翌日受付の女子事務員を伴って参道方面に向かうと、分岐付近に見張りらしき姿は見当たらなかった。
多分、大魔核の入手に成功すればその日の内に合流して裏道から昇龍神社に向かうつもりだったのが、誰も来ないから失敗を察して遁走したんだろうね。
それとも昨日職員さん達を助けたのを見ていたのかも知れない。
捕縛した連中から見張り達の情報は取れるだろうから、この後どうするかは神都の役所とギルドの判断次第だと思う。
山裾を回り込んで神社に向かう山道と神都への街道の別れ道で女子職員と別れた。
これから神社に向かえば【昇龍昇り】の儀式が全て終わった頃合いに着く筈で報告もし易いんじゃないかな。
あたし達は報告に立ち会おうなんて気は毛頭なくて、そそくさと神都への街道を速足で進んだ。
*
「あっ! 旦那様、お帰りなさいませ」
「あぁ、ただいま。皆、変わりはないか?」
「はい! ジェランドさんは奥でミレリさんと打合せ中だと思います」
「そうか。じゃあ、我々も奥へ行くので、仕事を続けてくれ」
「はい!」
若い使用人が目敏く旦那様を見つけて声を掛けてきた。
おそらく使用人頭と奉公人頭の所在を告げたのだろう。
旦那様はがお客の邪魔にならない様に気遣いながら店の中へ入って行くので、マチアそしてあたしの順で後に続く。
店構えは商都の本店とそっくりで、奥への造りも似ている。
突き当たった両側に奥への廊下が口を開けているのが、直ぐに折れて見通せないように成っているのも同じだ。
旦那様は左側の廊下に入って右折れ左折れの先を奥へ進んで行く。
両側に並んだ扉や廊下には目もくれずに突き当りまで進んで扉を開けた。
「帰ったよ」
「「お帰りなさいませ」」
部屋の真ん中に置かれた大きな打ち合わせ用のテーブルに向かい合わせに腰掛けた男女がこちらを振り向き旦那様に挨拶を返した。
カザムさん、レベッサさんよりは年嵩で中年手前かな、出来る上司と言うよりはしっかり者の上役って感じかも。
右手に座った男の人が立ち上がって女性の隣に回ると、旦那様が空いた所に腰を下ろしてあたし達を手招きした。
あたしは旦那様の斜め後ろに立って2人に会釈をした。
隣でマチアも同じようにしている。
「サリヴィナはメルノアの面倒を見るため半年ほど本店で過ごす事になった。マチアの事は紹介だけは済ませたから憶えていると思うが、サリヴィナの姪で行儀見習いに来た所を連れ出してしまった。行儀見習いと言っても奥向きの用事には余り向かないようなので、若手の使用人扱いで店の仕事と武技の鍛錬を中心に仕込んでやって欲しい。女子なので一応ミレリの下になるが、仕込むのはジェランドの方で頼む」
「「承知しました」」
旦那様が横目で見て眉を動かすとマチアが小さく頷いた。
どうやらマチアの希望通りみたいで眦に笑みが浮かんでる。
「こっちはエノラだ。外聞があるので苗字は伏せるが、先々代の外孫で俺の従妹に当る」
旦那様の血縁と聞いた2人の瞳が見開かれてあたしを凝視する。
「一応身内だが店の跡目などには関わらんのは納得済みなのでその心配は要らん。俺の従妹と言ってもこの年だからな、扱いはメルノアの又従妹で頼む。この半年はメルノア達に預けていたが、本人の希望が探究者なので俺が仕込む事になった」
店に入るのでなく探究者と聴いて2人はあからさまにほっとした様子。
「聞いてると思うが本店では魔獣の扱いを始めていてな。神都店でも取り入れるつもりだ。商いには関わらんが、エノラは魔獣狩りの中核メンバーだったので、神都店の魔獣狩りメンバー候補の指導に当るので店には頻繁に出入りする事になる。いいかな?」
「「はい」」
「俺はちょっと出掛けるから2人に部屋をあてがってくれ。皆には夕餉時に俺の方から紹介しよう。それまでに何かあるかな?」
「どの様にお呼びすればよろしいでしょうか?」
ミレリさんがあたし達を交互に見ながら尋ねた。
確かに直系でない身内の呼び方はこれまで決まってなかったでしょうね。
「2人共、店では呼び捨てだが。そうだな奥向きでは『さん』で良いんじゃないか。様付けはややこしくなるからな」
「「承知しました」」
「よし。じゃあ、俺は出掛けるから後はよろしくな」
「「行ってらっしゃいませ」」
「エノラさん、マチアさん。ジェランド・シュマルです。使用人頭で表を預かっていますのでよろしくお願いします」
「マチアです。よろしくお願いします」
「エノラです。身内と言っても降って湧いただけのお話で私には……」
「まぁ、こちらでは旦那様が言われる事が絶対ですので。それにその御年で魔獣狩りを任される程天地流に長けていらっしゃるなら血筋を疑う者など居りはしません。血筋以外ではカザムが最高ですが、あれも成人まではメルノア様の足元にも及びませんでしたから」
「はぁそうなんですか。それでは、よろしくお願いします」
「奉公人頭のミレリ・コルテムです。奥向きの事は私の方へ」
「「よろしくお願いします」」
「部屋に案内しますから、夕餉までは部屋で過ごしてください。ちょうど適当なのが続きの2部屋になるのですが、よろしいですか」
「「はい」」
*
「へぇ、続きの部屋ってこういう意味なのね。左右反対だけどそれ以外は全く同じ」
部屋の左奥にある扉を開けてマチアが入って来た。
シルファから降ろした荷物を若い使用人さんが届けてくれたので片づけていたところ。
あたしが荷を解いてクリナを掛けてタンスに仕舞うのを所在なげに見ている。
「もう片付いたの?」
「全然。今要るものを出しただけ。それで充分だもの」
「そうなの?」
「うん、荷物から出すか、タンスから出すかの違いだけじゃない」
「なるほどねぇ。あたしは嫌だけど」
「あんたはそうよね。でもさぁ、急にお嬢さん扱いでびっくりだね」
「そう、それはあたしも驚いた。身内扱いとは言われてたけれど、目上の人からさん付けはちょっと居心地がわるい」
「でも慣れなきゃね」
「そうだね」
*
旦那様はちゃんと夕餉前に戻って皆への紹介を済ませてくれた。
ここにはバクルット親族用の食堂もあるらしいが、旦那様は必ず皆と一緒に食事を取るみたい。
もっとも魔窟に行ってる時の方が多いから、いつもって程の事じゃなさそうだけど。
当然あたしとマチアも店の皆と一緒だし、旦那様が居なくてもそれは同じ。
皆と一緒はいいんだけど、バクルットの身内としてそこに居るのはとっても疲れそうで先が思いやられる。
旦那様と並びの席なんて注目の的にならない訳がないもの。
『これからここじゃあ、俺の事は『おじさま』って呼ぶんだぞ』
食事が終わって去り際に旦那様が耳元で呟いた。
同じ事を言われたらしいマチアが眉を顰めてこっちを見るので、あたしは思い切り顔を顰めてしまった。
翌朝あたしは魔獣狩りのメンバー候補の選考に呼ばれた。
まだ書類審査みたいなもので、実際には動きを見ないと分からないけれど全員を見てもしようがないので旦那様とジェラルドさんが話しているのを横で聞く。
マチアは店の方で勘定場の後からお客と皆の様子を見せてもらうらしい。
結構楽しそうに大きな使用人さんの後について行った。
それで、あたしの方はと言えば。
「ジェランドさんは魔獣狩りに参加しないのですか?」
「はい。もう年なので、そう言うのはどうも」
「エノラぁ。お前、ジェランドの鍛錬を指導する気か?」
あぁぁ、確かにそうね。
『もう年なんでしない』んじゃなくて『もう指導を受ける年じゃない』のよ。
うん、ジェランドさんならあたしより年上の子がいても可笑しくない。
子供より幼いあたしが指導するところを周りに見られたら【しっかり者の上役】のイメージが丸潰れに成り兼ねない。
ジェランドさんの苦笑いに胸が痛むわ。
明日もよろしくお願いします♪




