第ニ章 神都の見習少女 6話 ささやきながら…
今日もよろしくお願いします!
受付職員の話では今回の暴漢たちの総勢は20人程。
魔窟に入ったのが5人、受付で暴れたのが12人、参道への分岐で見張ってたのが3人だと思ったみたい。
抜け出した職員を追ったのが5人、受付付近で捕縛したのが7人だから辻褄は合う。
捕まえた連中から聴き出すと、皆似たり寄ったりの強さなので役割はクジ引きで決めたらしく、魔窟に入った者もたまたまクジが当たっただけらしい。
この程度の強さでも日頃の連繋が取れてれば大丈夫かも知れないけど、即席パーティで大型魔獣の群れを倒すのは無理。
そう、地上と違って魔窟の大型魔獣は個体数が多いので群れを作る。
低層も中型魔獣までの数層なら問題ないだろうけど大魔核狙いなら大型魔獣を倒すために中層手前まで行き、必然的に5人は危険に身を晒すことになる。
まだ、そこまで到達していない事を願うしかないのよね。
ざっくり職員とあたし達で話した内容がこれで、【緊急時特例措置】を適用して5人を追跡し保護捕縛を図ることが再確認された。
問題は追跡するメンバーだけど、資格があって安全確実に中層手前まで行けるのは旦那様しかいない。
でも5人を保護するため大型魔獣を排除中に、万一彼等が襲ってきたりしたら旦那様一人だと彼等の安全までは保証できない。
なので最低もう一人は必要なんだけど、大型魔獣を確実に相手にできる探究者は誰一人残っていないしそれは受付職員も同じで、そもそもそんな人が居るなら今の状況には陥ってないのよ。
だから、旦那様と一緒に中層手前まで行けるのはあたしだけ。
緊急なのは確かなんだけど間違いなく【特例措置】で許してもらえるのかが不安なまま、あたしは『本当に大丈夫なんですよね』と囁きながら旦那様と魔窟へ入った。
*
半人前の探究者達を選抜して、入り口から数層の間に一定間隔で地歩を固めてもらったのは万が一の備えでもあるけれど、5人を確保した後に旦那様とあたしが彼らを連行する距離を出来るだけ短くしてしまいたいから。
その位頑張ってもらっても罰は当たらない筈よね。
半人前さん達はいつもの探究単位で一人もいればパーティもいるけど、探究記録は全部受付に残ってるから配置を決めるのは簡単だった。
あたしにとっては初めて魔窟なので感慨ひとしおなんだけど、燐光を放つ岩壁や水滴を落とす鍾乳石など洞窟型魔窟の特徴をじっくり確認する暇は無い。
ライセンスが手に入れば何度でも見れるんだからと言い聞かせて、決めた手順でさっさとやる事を済ませていく。
最初は小型魔獣を数層目からは中型魔獣を駆逐しながら半人前さん達の配備が終わった層までに、結局5人は居なかった。
旦那様に訊くと中型魔獣の層は次が最後だから、そこに居なければかなり危険な所に踏み込んでることになるわ。
幸いなのは低層が単純な構造でどこかに迷い込んで見つからないような事態は考えられないこと。
中層以降は一気に複雑になって段々と未踏破の部分が多くなるので人探しはとても難しいらしい。
旦那様と2人、襲って来る魔獣は中型だから何て事ないけれど、5人の姿が見えないのにちょっと焦りを感じながら進む。
あたしは初めて倒した小型魔獣と中型魔獣の魔核だけは記念に獲ったけど、それ以外は放っておかないと旦那様に置いて行かれる。
「ヤバイな。次の層に降りれば大型が出てくる。やられてなきゃいいが」
眉を顰めてあたしにぼそり囁きながら層を下る旦那様に続く。
下る途中で旦那様の背中を突くと振り向いた視線に肯いてみせた。
「居たか!」
「はい! スキルに響きが」
今まで声を潜めていたのは魔獣を刺激して彼等の不利にならないように気を使っていたからで、既に襲われているようで遠慮は要らないから普通に話す。
層を移動すると急にスキルに響く音像が切り換わるのは魔窟が普通の洞窟と全く違う理屈で創られているからだろうけど、もしかしたらスキルが育てば違う層の響きも判るようになるんだろうか。
それはともかく、響きの元が見える所まで急いだ。
「最初に出くわしたのが3頭だけか。運を使い果たしては居なかったみたいだなぁ」
旦那様の言う通りヤミヘラジカ3頭が5人を襲っていて、防戦一方だけど何とか持ちこたえている。
もしこれが4頭だったらあたし達が来る前にやられていたかも知れないんだから、悪運が強いんだろうね。
でも、もう限界なのは目に見えてるし本人達が一番良く分かっているだろう。
「おぉぉい! 助けてほしいかぁ? 大人しく捕まるなら助けてやるが、どうだぁ?」
「…………」
どうやら返事するどころではないらしいので、あたしは弓を取り出して1頭の尻に氷結を載せた矢を放った。
急所でもないから氷結では倒せないけど少しの間1頭分の攻撃は止むから答える余裕はできる筈。
そうしている間に私達の方へ空中からマダラオオワシが襲い掛かるのを襲雷で撃ち落としながらもう一度旦那様が声を掛けた。
「要らんならこのまま帰るが、それでいいのかぁ?」
「あぁぁ、帰るなぁ!」
「助けて欲しけりゃ、大人しく捕まるんだな」
「捕まるから、助けてくれよぅ!」
守るかどうか判らないけど言質は取った。
マダラオオワシの群れは旦那様に任せて、あたしはスタスタと彼等の方へ歩いてく。
その間に長剣を抜いて、動作の応用で1頭のヤミヘラジカの背に飛び乗って大きな角の間にある急所を後から突き抜いた。
次々と飛び移ってさっきのが魔核に変わる前に3頭とも始末した。
とっくにマダラオオワシを片付けた旦那様がそばに来て呆然とあたしを見つめる彼等を睨めつけてる間に、初めての大魔核を獲ることができた。
「捕まりたくないなら抵抗しても構わんが、勝てる気がするかい?」
彼等も一度は探究者の端くれになったことがあるなら上級者との差は身に沁みてる筈。
だからわざわざ上級者が居ない時を狙ってやって来たんだからね。
あたしみたいなチビッコが3頭をあっという間に倒したのと、マダラオオワシの10頭近い群れが数瞬で魔核に変わったのを見せ付けられたら何をする気にもならないでしょう。
返事がある前にナタヅメクマが5頭現れる。
旦那様が彼等の方を向いたまま動かないので仕方なく凍結で一気に動きを止めて1頭ずつ止めを刺していく。
「さぁ、行くぞ! 来なけりゃ置いてくだけだ」
旦那様がさっさと歩きだすのに慌てて彼等が付いて行く。
よかった、そろそろ魔力が心許なくなってるのよね。
*
2層上がって、半人前でも一番マシな探究者達のトコまで彼らを連れて行き、縄で縛られるのを待ってやっとあたし達の役目は終わり。
魔窟を出たあたしたちは受付でマチアと合流した。
あたしは懐から大魔核を取り出して半分マチアに渡す。
「いいの?」
「うん。あたしが魔窟に入れたのも偶然だからね、山分けだよ」
「ありがとう」
魔獣の区分に合わせて大魔核と呼んでるけど、実際は大豆程の大きさしかない。
大麦程の小魔核や小豆くらいの中魔核に比べれば大きいけれど中層の特大魔核はどんぐりほどで深層の魔核なら最低でもうずらの卵、一番大きいのは鶏の卵程もあるらしい。
そんなのは1年分の給金よりずっと高いけど、大魔核なら月の給金でいくつか買えるから山分けするのも惜しくはないわ。
一応、その夜は何かあるといけないから魔窟の宿に泊まることにした。
翌日は【昇龍昇り】の決着時間を見計らって受付職員を伴って参道方面へ移動する。
分岐の見張りが居たらあたし達で排除して、職員は報告に、私達はそのまま神都に向かうつもり。
お参りは次の機会にお預けね。
明日もまたお付き合いいただければ幸いです♪




