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第一章 商都の孤児少女  4話 買物ズキ

本日もよろしくお願いいたします。

 メルノアお嬢さまが何でもできるといっても、できるのとするのはまたべつの話。

こまごまとしたことは小間使いがいなくても奥向きの奉公人がかたづけていたし、それはそのままあたしの役目だ。

たとえばごはんの上げ下げとか身のまわり品のほじゅうやゴミ出しにつくろい物とか、あたしがすることはいくらでもある。

あたしはそういったことがにが手じゃない。

生まれてはじめてすることも多いけどだいじょうぶ、話し方やあん算と同じで知ってることばかりだから。


 お嬢さまの部屋は庭に面した長いろうかのはしからわたりろうかでつながった離れだ。

奥が寝間で手まえに居間、その横の控えの間があたしの部屋で、ここではすごく小さな部屋なんだけどじぶんだけの部屋があるなんてそれだけで夢のようで、水まわりの隣とかも気にならない。

みんな知ってるように体やキモノは生活魔法のクリナできれいにできる。

水や湯できれいにしてた時の言葉がのこってるとかの言う人もいるみたいだけど、今は大小の用をたして身なりをととのえるだけ。

出したものは水でながすのが普通だから『水まわりの部屋』なんだと思う。

水でながしてもその家のどこかにためるだけだからダレかがしまつしないといけないんだけどね。

じつは魔力によゆうがあれば出た物もクリナでしまつできる。

部屋のそうじもできるし、魔力しだいで家ごとだってむりじゃない。

お嬢さまはふだん水は使わないらしくて、あたしも離れに入ってすぐにきかれた。

孤児院では水もだいじだから、ためておいてあとでしまつする。

あたしがそのにおいがイヤで『じぶんのだけは魔力でさっとしまつしていました』と聞いたお嬢さまは少しほっとしたみたい。


     *


「エノラ。街に出るわよ」

「はい、お嬢さま」


 いつも通りじぶんで身じたくして出かけるメルノアさまについてわたりろうかを歩く。

あたしはどこに行くのもメイド服だし、いつ言われてもいいようにお出かけのじゅんびはすませてある。

もうすぐ成人のメルノアさまが腰かけたのと背たけが変わらないあたしだけど、今はおなかいっぱいご飯を食べているのでどんな早足だってついていける。

離れからは勝手口のほうがずっと近いけどお嬢さまの『お出かけ』は表から。

明るくお客さまや使用人に笑顔をふりまきながら売り場をぬけると、カザムさんの目くばせで大きな男の使用人が2人かならずついて来る。

表から出るきめ事はこのお供のためで、お嬢さまが小さいころからずっと変わらないらしい。

彼らはお嬢さまの行き先にまでは入ってこないからタリアンさんとはそうしたところで出あったんだと思うけど、たしかにこれではないしょで会うのも大変だわ。


 こんなふうに言うとメルノアさまがひどい【箱入り娘】のようにおもえるでしょうけど、あたし・・・のお嬢さまはすごいひとだった。

レベッサさんからあたしのお手あてがお嬢さまのお金からいただけると聞いて、おこづかいの中からだと思っていたけどそれは大まちがい。

お嬢さまは辻馬車にのって色んなところに出かける。

その先にきまりはなくて、行った先ではどんどん歩きまわる。

そして歩きながら目についた物があると、そこの人と話をする。

話のあいては職人さんやあきんどやお百姓さんとその時しだいできまっていないけど、じつはそんなふうに目をつけたものが今バルクットであつかっているうちの1割近くになっているそうなの。

さいしょは口やくそくから始まったらしいけど、今では旦那様からけいやくを任されて、純利益もうけの2割が取りぶんになってるんだって。

バルクットの中でもお嬢さまがあつかった物はまちがいがなくて利益率かせぎが高いから店にのこるお金の1割くらいはお嬢さまのものになっているみたいで、カザムさんだけじゃなくて店のだれもがメルノアお嬢さまには頭が上がらないらしい。

ちょっとはじいてみると、前にいたところの商店街で上から10店の粗利益うまみを合わせたよりも大きいんじゃないかしら。


 ふつうの女の子にはそんなことができないのがあたり前で旦那さまゆずりのスキルがあればこそだけど、スキルの力だけでこれだけのことができるとも思えない。

あたしにはひとのスキルは分からないけど、お嬢さまはたぶん『物の良し悪しと価値が分かる』のと『早くて正確な勘定ができる』のじゃないかな。

ただ『分かる』や『できる』のと、『なしとげる』とが違うのはだれでも知ってる。

いくらスキルで利益もうけを見こんでもそれを手にするのは本当に動いた人だけ。

まぁそれも『バクルットのお嬢様』でお店のお金があるからできたにはちがいないけど、それでもやっぱりすごいと思う。


 今日は辻馬車でナムバヤの北はずれまで行き、とりひきのある家で荷馬車をかりて北どなりのカサエの町へ向かった。

町の外では魔獣がでるというけど、ナムパヤみたいな大きなところはむかしからまわりの町の外がわで探究者が狩ってしまうからあたりに魔獣はあらわれない。

カサエには前にも何回か行っているそうで、今までとべつのうら道をすすんだ。

ガタガタとゆれて荷台に毛布をしいただけの乗りごこちはひどいけど、メルノアさまは平気な顔でタヅナをひくお供の人にも何も言わない。

とちゅうで何度か馬車をとめて道ぞいではたらいている人と話をした。


「次の辻を右に折れてちょうだい、その先しばらくは真っすぐらしいわ」

「はい」


 さっき話したおばさんが『ちょっと変わったチーズを作ってる』と言っていた農家おうちへ向かっている。

こういう話は日に10度も聞く事があって『よっぽどあやしい話でなければ寄る事にしているけれど物になるのは二三十にさんじゅっ件に1つ』らしいわ。

右にまっすぐのあとの道はあたしが書きつけておいたのでまよわず着くことができた。

牧場まきばではないけど牛や山羊をかなり飼っているみたいで、男の人が牛のせわをしているのにメルノアさまが気さくに近づいて声をかけた。


     *


「今のままじゃバクルットで扱うのは無理ね」


 その人と話しこんでチーズの見本を買ったお嬢さまが馬車にもどって言う。

『面白い味で売れ筋は見つかると思うけれど、今のままじゃ元々のカビと違うカビが生え易くてすぐに腐る』ので『オイル漬けとか売り方を色々考えてみる』のだそう。

お嬢さまのスキルの1つが『物の良し悪しと価値が分かる』なのは間違さそうだけれど、はじめに思ったよりずっと分かる事が多いみたいね。


 そのあとカサエの町ではじめてのところへ行ってあちこち回ってみたけど『箸にも棒にも掛からないわね』とナムパヤにもどる事になった。

『これが普通だからね』とお嬢さまはへいきな顔だ。

かえり道はやっぱりちがうところを通る。


「お嬢様、少し本道から外れ過ぎたようです。戻りましょうか」

「そうね。これだけ本道側の分かれ道が無いとは思わなかったわ。戻りなさい」

「はい」


 いつの間にかあたりは岩はだや木立ちばかりで人の気配がしなくなった。

どうやら知らない道をすすむあいだに人里からずいぶん遠さかってしまったみたい。

イクァドラットも町なかであぶない目にあう事は少ないけど、人の目がないところでは追いはぎなんかにおそわれる事もあるらしいわ。

念のために手前の分かれ道まで引きかえそうと道の広いところで馬車をまわしていると、むこうの大岩のかげからバラバラあらわれた男たちがかけよって馬車に追いすがった。

待ちぶせしていたのを目の前で引きかえされそうに成ったのであわてて出てきたんでしょうね。


 馬車にすっかり追いついた男たちは6人もいる。

こっちのお供さんは男たちよりがっしりしてるけど2人だけだし、あたしはまだ小さくてメルノアさまだって成人まえの女子だからふつうに勝ち目はなさそう。

ちゃんとした剣を持った者はいないから兵士くずれとかじゃないみたい。

ひどくうす汚れた男たちはナイフやこん棒をかまえて、目をギラギラさせてる。

前作長編【テンプレ転生顛末記】完結しております。

ご興味のある方はそちらもお読みいただければ幸いです。

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