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第二章 神都の見習少女  4話 哀し身に、かの山

今日もよろしくお願いします!

 サエトからヒュガに向かう途中で見ず知らずの3人娘に降りかかった災難を片付ける仕上げに、探究者目当てに街道から外れて討伐域を駆けた。

その日次の休息所に止まる予定の探究者はその先の休息所から街道の北側を魔獣討伐しながら移動中の筈なのだが、その前にこちら側の担当者が見つかれば様子を訊くつもりだった。

くだんの休息所の北側に達しても誰にも会わなかったので、目当ての探究者ももっと街道から離れているだろうと見当をつけてもう少し北側を探しながら移動を続けた。

2人のスキルを見せてもらった時にあたしも自分のスキル--まだ未熟なままなんだけど--の事を話してあるので、出来るだけ広い範囲の音を拾いながら走る。


「あっちょっと待って! どぉぉぅ」


 気になる音を見付けたのでダフネを止めて集中する。

旦那様とマチアも少し先で待ってくれている。

ふむふむ、やっぱり馬の蹄の音だ。

『こっちです!』と声を掛けてもう少し北側に進路をずらして駈足かけあしでダフネを走らす。

手綱を持たなくてもシルファはちゃんとついて来る。

3分ほど駆けると原野に騎乗の姿が見えた。

障害物が無い所で見つけ易かった。

林の中とかだともう少しスキルに頼らないと駄目だったと思う。


「おぉ居たな。未熟でもけっこう便利なスキルじゃないか。よし……。おおぉぉい! 分かるかぁ! 報告があるんだぁぁ!」


 旦那様の声が届いたのだろう、探究者が馬を止めてこっちを向いた。

3人でそっちへ向いて駆けていく。

そうそう、言葉遣いに気を付けないと。

商売に関係がない、特に探究者絡みの時は『旦那様』じゃなくて『ギルァムさん』って呼ぶんだった。

探究者を探し始める前にあたしもマチアも念押しをされたからね。


「久し振りだな、カーク」

「ギルァムさんじゃないか。どうしたんだい」


 まだ十代かな、若い探究者の対応はそれなりの敬意を感じさせる。

地上で魔獣討伐をするのは中層までは到達したけど深層には届かない探究者達が中心で、単独の者もパーティを組んでいる者達もその単位で任務に就く。

これはその地域のギルドに所属する探究者が深層に到達するまでの義務なんだけど当然それに見合った報酬も出るし、それなりのステータスでもあるから嫌がる者はいない。

探究者ライセンスを持っていてもこの任務に就けないのはヒヨッコで、任務に就いて初めて一人前、任務を抜けたのがベテランの上級者ってこと。

上級者の数は限られるからギルドの関係者なら大概誰でも知ってるそうよ。

ご主人様はカークさんに事情を説明して胸像のミニチュアを渡した。


「へぇぇ、これが有名なギルァムさんの手配像ですか! 凄いなぁ、戦闘向けのスキルじゃないのに上級者なんですよね! ……けど、そんな可愛いたちを連れてこんなとこに来て大丈夫なんですか」

「あぁ、どっちも俺の身内だからな。特にこっちのは年が足らんだけで、今でも大型魔獣を単独で狩れるから心配は要らんよ。それでな、もう一人に小型を狩らせたいんだが、どうだ? もう少し北に進めば出るかい?」

「えぇ。ここが討伐域の端なんで二三分にさんぷん駆ければ出る筈です」

「そうか、分かった。それじゃあ、娘さん達と悪たれどもの事は頼んだぞ」

「任せて下さい。じゃあ、お元気で!」

「あぁ、またな!」

「「さよなら!」」


 旦那様がひらりと馬に乗ったのであたしたちは下馬する事もなくその後に続く。

結局あたしとマチアは最初に会釈と最後に別れの挨拶をしただけだ。

それから少し北に移動すると本当に小型魔獣が襲ってきた。

ツノイタチの一群で10頭足らず、あたしがかなり手前で発見したから3頭を残して旦那様と2人で弓で射止めてしまう。

前に出て長剣で1頭ずつ仕留め、1頭だけをマチアに譲った。

長剣を抜いて身構えるマチアに襲い掛かるツノイタチ。

一撃とは行かなかったけど初太刀で突進の勢いを止めて寄せ付けることなく数撃で仕留められたから、まずは合格だね。


「やったわ! やった! 魔獣を狩ったわ!」


 喜ぶマチアを見て、あたしも初めての時を思い出した。

あたしは長剣じゃなくて弓と魔法だったけど、なんにしても最初は嬉しいわよね。

マチアはもっと続けたいだろうけど、先を急ぐ。

3人娘の件でかなり時間を食ったから急がないとヒュガに着くのが遅くなる。

9頭のツノイタチを回収して振り分け荷にまとめてシルファに積むと、出発だ。


     *


 それから先は至って順調で、次の日にはマカゴの町に入った。

今回のルートでは神都マズマトの手前、最後の宿泊地になる。

とうとう明日はマズマトかと思ったら……。


「いや、明日は霊山に向かう。昇龍神社に参ってエノラの前途を祈願しておく方がいいだろう。マチアも霊山にはまだ登ってないだろう」

「うん、行きたかったけど誰も連れて行ってくれなかったからね」

「よし、真っ直ぐ霊山に向かおう。ここは少し北寄りだから実は霊山の方が近いんだ」

「やった、 御辰おたつさんの総本山だよ。楽しみだね、エノラ」

「そうだね」

『お山に行ったら、捨て子の哀しい身の上に戻らないようにちゃんとお祈りしないと!』言葉にはしないけどあたしは真剣だ。


 霊山は【中平野】の中央部、と云う事はイクァドラットの中心に聳える単峰だ。

【中平野】からの標高差は2000メートル程だけど、イクァドラット自体が約3000メートルの高さにあるので海抜は5000メートルにもなる。

イクァドラットの3平野を区切る山地はどれも500メートルに足りないなだらかな山ばかりで山らしいのは霊山だけだからその威容が余計に際立つのね。

イクァドラットのどの町にでもある【御辰おたつさん】の総本山【昇龍神社】が8合目付近に在る、この国全体の信仰の中心地。

祀るられているのはその名の通り龍神様で数百年前には本当に【清龍様】がこの世に居たと伝わってる。

この世の人々が全滅する危機を救う時その中心になったのが清瀧様で、世界を救った後に消えた清瀧様を祀って出来た信仰だと言われてるの。

霊山には正式な呼び名があるらしいけどイクァドラット中どこでも『霊山』で通用するのでその名が出るのは学問の場だけみたいで、 御辰おたつさんに馴染みが深ければ『お山』だけでも分かり合える。

それと神都マズマトは霊山の南にあって、マズマトから見える霊山の南側に清瀧様が祀られてる。

そしてその裏側、霊山の北側の麓にはこの国最大の【霊山魔窟】が在る。


 ここまでは誰でも知ってる有名な話で、あたしが初めて聞いたのは【霊山魔窟】が未踏破だって事。

これには驚いたわ。

だってこの魔窟は【昇龍神社】が開かれる前からここに在って、数百年間探究が続けられているんだもの。

それでよく訊いてみると、最深層への到達者はちゃんといるんだけど魔窟が広すぎて枝分れした先がどうなってるか全部確かめられていないって事らしい。

もしかしたら複合魔窟でまた別に最深層がいくつか在るかも知れないって、探究が続けられてるのよ。

そして本当の目的は別にあるとしても、旦那様だってその中の1人には違いないの。

まぁ今日は霊山参りが目的だから魔窟に潜らないし、だいいち潜れない。

魔窟に潜るには探究者のライセンスか、自治行政府発行の許可証が必要だし、それ以前にあたしはともかくエノラを連れて入窟するのは危険すぎるんだもの。


     *


 その筈だったのに何故か旦那様の後について霊山魔窟の低層を進んでいる!

『これは駄目なんじゃない?!』

もし無事に地上に戻れたとしても、きっついお叱りとかすっごいペナルティがおっきな口を開けて待ってるとしか思えないんですけど。

お読みいただきありがとうございました♪

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