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第ニ章 神都の見習少女  1話 笑ぅてられない

お読みいただきありがとうございます。

ここから第二章が始まります。

 商都ナムパヤから神都マズマトに向かうルートはいくつかあるけど、アワツを通れば次はトクトを目指すのが普通らしい。

各自治行政区の首都の周りにはいくつも町が集まって1つの大きな首都圏を形作っているけど、それ以外の町は互いに馬のはや足で1日がかり位の距離が在るのが普通で、それを繋ぐ街道の周りを探究者が魔獣討伐して安全を確保している。

なので街道を外れて別の町へ向かうと忽ち魔獣に襲われてしまうし、当然距離も遠いので魔獣の居る荒野で野宿なんて事に成りかねない。

もちろん魔獣を狩る自信があれば全て野宿で最短距離を駆け抜けるような離れ業も無理じゃないけど、寝ずの番が1人は要るから普通は複数でないと無理だ。

ただ地上に居るのは低層の魔獣だけだから、魔窟の深層に潜れるような探究者なら寝込みを襲われても平気なんだろう。

たぶん旦那様はそのレベルだからルートを気にする必要もない筈なんだけど、アタシやマチアは探究者ですら無いからそうはいかない。

鍛錬の為にあたしが魔獣を狩る時以外は街道を進む筈。

バクルットでは女の使用人は護身術程度の鍛錬しかしないのが普通だから、マチアは小型魔獣でも狩るのは難しいからね。

アワツの街を出たあたし達はトクトへの街道を進んでいる。


「ねぇ、エノラはなんで探究者になりたいの?」

「えぇっとね。あたしが知りたい事とメルノアお嬢様に頼まれた事があって、その為には世界を旅しないといけないかも知れないのね。探究者のライセンスがあれば何処にだって行けるからって、お嬢様に勧められたの」

「じゃあ、あの魔獣はやっぱり独りで狩ったのね」

「うん。でもあたしみたいな子供が独りって言うより、誰かがうしろにいるって言う方がいいと思って」

「そりゃそうだね。でも魔獣で金貨2枚かぁ、いいなぁ。私も探究者になれないかな」

「お前は無理だぞ、マチア。エノラはたまたま鍛錬との相性が良かったからな。お前が探究者になるにはもっと時間が掛かる」

「ですよね。使用人でも特別に強い人しか魔獣は倒せないし、独りであんな大きな魔獣を狩れる人なんて神都店で見た事がないもの。それもスキルなんですかね」

「鍛錬との相性はスキルとはまた別物だ。スキルなら必要が有れば勝手に発現するが、鍛錬はいくら相性が良くても教えてくれる者に出会わなければ意味がないからな」

「ふむぅ。そりゃあそうだねぇ」


 抜ける様な青空から眩しい日が照りつける。

点々と浮かぶ真っ白な雲は陽射しを遮るには小さすぎる。

もう暫くすれば前に見える森に入るから影も出来るだろうけど、そんなに暑くはないのであたしはどっちでも構わない。


「魔獣は狩らなくてもいいんでしょうか?」

「あぁ。あの程度の魔獣を狩ってもそれ以上は大して強くなれん。悪くすると変な癖が凝り固まる事だってあるからな。今夜からじっくり鍛錬でかたと所作を叩き直してやるよ。実戦は魔窟に入ってからでいい」

「はい!」


 昨日の特大魔獣騒ぎは天地流の動きが出る前に片が付いてしまったから、旦那様の鍛錬が楽しみでならない。

メルノア様が『一番』って言ったのはどれ程のものなのか身をもって味わいたい……なんて考えてたんだけどぉ。


     *


「あははぁ! エノラ、死にそうな顔してるよ」

「最初がカザムで仕上げがメルノアだって? やつらも叩き直さんと駄目かなぁ。お前さんの相性の良さに誤魔化されて基本の狂いに気付かなかったらしい。まぁ確かにごく僅かなもんだが、放っておくと直しが利かなくなるからな」

「利かないとどうなるの?」

「マチア、お前が聞いてもしようがないが。先々、上達度合いが鈍くなって成長が止まる。まぁ、それでもイクァドラットの探究者で一番くらいにはなれるだろうが」

「一番になれるのに駄目なの?」

「あぁ……。なぁ、エノラ! お前、メルノアから頼まれたことがあるだろう?」


 トクトの街に着いて宿を決めて宿の食堂で夕餉を済ませた後、裏の井戸端周りの空き地でで鍛錬が始まったのだけれど、そこであたしは『身をもって味わう』の意味を痛感することになってしまった。

基礎から作り直しの鍛錬はあたしの貧相な体には負荷が大きくて息も絶え絶え、今は黙って頷くのが精一杯。


「どんな言い方をしたかは分からんが『自分のルーツを見つけるついでに天地流のルーツも見つけて来い』みたいな話をしたんじゃないか?」


 赤い頬が分からない程顔全体が真っ赤になってる気がする。

とにかく頷きを繰り返すしか今は無理。


「そうだろう。あいつの考えは大体解るんだ。思考回路が似たり寄ったりだからな。俺達バクルットに伝わってるのはどんなもんだ? 分かるか、マチア?」

「天地流って武術だよね」

「あぁ、そうだ。そうなんだが、俺等のは所詮商家の拳法だと俺達は思ってる。それできっと何処かに本家本元の天地流が残ってるに違いないと考えてる訳だ。牙を抜かれた商家のじゃない、武闘派バリバリのヤツがな!」

「でも、そんな雲を掴む様な話、まともなもんは引き受けたりしないよね」

「その通りだ。実際のところ、俺やメルノアにしてもこんな与太話で動けやしない。俺にしたって、こうして魔窟三昧を決め込んではいてもバクルットの万が一を考えればイクァドラットを出るなんて選択だけは有り得ないからな。だが、エノラがもしかすると国を出るかも知れない。もし、それが本当になるなら話は違うんだ。バクルットの血筋じゃない事を考えるとエノラと天地流の鍛錬は異常なくらい相性がいい。おそらくメルノアの【解析】が可能性を弾き出したんだろうが、俺のサブ【推定】でも見当はつく。エノラが自身のルーツを見つけ出すとしたら、天地流に関わる可能性が非常に高いんだ。だから、エノラが自分探しに出るなら、ついでを頼むのはあながち間違いじゃない。ただその為にエノラはバクラットの天地流を間違いなく習得しておかないとな」

「ややこしいなぁ。要はぁ、エノラの探し物のついでなら誰も損はしないって事よね。なら、それでいいじゃない。それよりさぁ、私が何をするかは決まったのかしら」

「それはもう少し待ってくれ。俺とサリヴィナも魔窟から戻ったばかりだったから神都店の細かな事情がよく分からんのだ。店に戻ったら、使用人頭と話してみるからな」

「ふぅぅん、まぁいいけどさぁ。暇だから早くしてくれるとありがたいわ」


     *


 鍛錬が終わってしばらくぐったりとへたり込み、ようやく人心地がついた頃に旦那様から話があった。

神都店であたしの素性は先々代の私生児が捨てた子だった事になるらしい。

先々代が亡くなる直前に情を交わした女性の息子があたしの父親だったって作り話。

馬鹿々々しいけど、これにもそれなりの事情がある。


「メルノアの【鑑定】がどの程度の力なのか知っているのは祖母と俺と母親それにカザムとレベッサ、この5人だけだ。エノラもおおよその見当は付いてるだろうから分かると思うが、あの力は今のバクルットの商いの根幹な訳よ。だからあれはバクルットにとって【秘中の秘】でな、身内の弟や姪甥にさえ肝心なところは教えていない。ここまではいいか?」


 いいけど『マチアに聴かせて大丈夫なの』と思いながら肯いた。


「例の孤児院改革の件で、エノラとのきっかけをメルノアの【力】にするのは仕方なかったが、これから俺がエノラを支援するとなると何か別の理由が無いとその【力】で何を知ったかを【究明】や【推定】する材料に成りかねんのだ。なのでな『相続権の無い血縁者だった』事を俺が突き止めたことにする。何もかもそれが始まりだったが『醜聞に繋がる恐れがあるのでカザムとレベッサが別の理由をでっち上げた』と言う訳だ」

「相続権が無いと聞いて安心しました。それなら厄介事にはなりませんよね」

「あぁ、そうだ。それとマチアを気にしてるようだから説明しておく。こいつはサリヴィナの母方の姪でな。行儀見習いという名目でサリヴィナが押し付けられたんだ。メインスキルが【幻想】でサリヴィナの【幻影】ほど精緻じゃないが、その代わり音も扱える」


『あぁ、使用人にしては態度が大きいし、話を聴かせてるのも身内だからね。あれ? 幻影と幻聴が使えるって……』とマチアを見やると。


「えへっ、気付いた? あの時の天幕と銅鑼の音はあたしの【幻想】だよ。魔獣は実際に見て無いから創れなかったけどね。これからは相続権の無い身内同士みたいだから、よろしくね!」


 屈託のない笑顔で出されたを握り返しながら『ほんま何があるか分からんし笑ぅてられん・・・・・・わぁ』と内心、どこかで聴いたようななまりでぼやいてしまった。

久し振りのエノラ達はいかがでしたか?

明日も引き続きお読みいただければ幸いです!

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