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第一章 商都の孤児少女  24話 大法螺も大事の馬鹿へ

これにて第一章完結でございます。

第二章『神都編』の前にしばらく挿話が続きます。

物語が途切れますが何卒ご容赦くださいませ。


 竜如大蛇ドラコニックボアがあたしに、剣歯古虎サーベルタイガーは真ん中の男の人を狙って飛びかかる。

男の人が急遽魔法を障壁シールドに切り替えたのを見て、あたしは雷攻矢サンダーアローを放ちながら左へ跳んだ。

自分の魔法の効果を見ているゆとりは無いけど、彼の障壁シールドがもってくれれば次の攻撃ができる。

彼の背後に転げ込んだあたしが見上げると障壁シールド越しに剣歯古虎サーベルタイガーがスローモーションのように近づいて来るのが見えた。

跳び上がった頂点から放物線を描いて今にも障壁シールドに叩き付けられようとする鉤爪の大きな掌。

あれで障壁シールドが破られれば全てが終わる。

あたしは思わずつぶりそうになる目を必死にこらえて見開いていた。


 鋭い鉤爪がまさに障壁シールドに突き刺さろうかというその瞬間、有り得ない事が起こった。

剣歯古虎サーベルタイガーの姿が掻き消える。

右手に目をやると竜如大蛇ドラコニックボアの姿も見えない。

『何が起きたの?』かも解らずにキョロキョロと周りを見回してしまう。

冥界ヘイディスエク送致スパルションって言う敵を異界に飛ばしてしまう物凄い魔法のことが思い浮かんだけど、この人達はそんな高位の魔法使いなの?

挙動不審なキョロキョロが治まり呆然と立ち尽くすだけになってしまったあたしの頭が優しく包まれる。


「合格だ。エノラ」


 高い背をかがめてあたしと目線の高さを合わせた男の人が優しい目をして頭を撫でてる。

『あれ、なんで名前知ってるんだろ? 合格って何?』

特大魔獣に出くわした時は不思議に思う余裕なんてまるでなかったけど今は頭の中が『?????』でいっぱい。


「はじめまして、私はサリヴィナよ。彼の名がギルァムって言ったら分かるかしら」

『サリヴィナとギルァム? どっかで聞いた名前。誰だったっけ?』

覚えなきゃなんない名前が増えたのってバクルットで雇ってもらってからよね。

『えぇっと。聞いた覚えはあるんだけど……出て来ないのよ!』と首を傾げてしまう。


「あらあら。ねぇギルァム、これはちょっと問題じゃない?」

「そうだな。俺等の名を知らんのはちょっとじゃなくて大問題だなぁ」


『えっえっえぇ、ちょっと待って! 覚えてない訳じゃなくてちょっと引っかかって出ないだけだから』なんて気ばかり焦って『ギルァム、サリヴィナ、ギルァム、サリヴィナ。バクルットに関係のあるギルァム、サリヴィナ。ギルァム、サリヴィナ。バクルットに、ギルァム、サリヴィナ』って頭の中で呪文みたいに繰り返して『ギルァム、サリヴィナ、バクルット、ギルァム、サリヴィナ、バクルット……あれっ?? なんだか聞き覚えが』

そう、聞き覚えがあるとか無いとかの問題じゃないわ。

『ギルァム・バクルットとサリヴィナ・バクルットって!』


「旦那様! 奥様!」

「あら、よかった。ギルァム、やっと思い出してもらえたみたいよ」

「そうだな。何とか合格を取り消さずに済みそうだ」


 まったくもぅ驚くとかどうとか、それどころじゃない。

心臓が止まるかもって、本当に思うんだわ。

そう言えばメルノア様に少しずつ御二人の面影が見えるようだけど、そんなの瓜二つでも無きゃ判るはずない。

そこから宿に入って夕餉の間の話は長くなる。


 メルノアお嬢様から小間使いを送るから半年で探究者にしてくれと手紙が届いたのが半月前。

御二人で話しあった結果、お嬢様の事は信頼しているけれど、わざわざ年齢を偽ってまで仮ライセンスを取る意味があるのかは本人を見ないことには何とも言えない。

長い道程みちのりを辿り着いたあげくに『NO』を突き付けるのも可哀想だから、最初の街でテストをすることになったらしい。

あの巨大魔獣は奥様のスキルで造った【幻影】で、立体ソリッド映像イメージ創造クリエイトって言う高位魔法が基になってて、見たことがあって良く覚えている物なら本物と見間違うほどの幻を出せるらしい。

奥様もパーティでなら中層までは潜れる探究者なので、中層半ばまでの魔獣ならどれでも出せるらしい。

ただ、立体ソリッド映像イメージ創造クリエイトって高位魔法を使える訳じゃなくてスキルだから出来てしまうだけなのよね。

逆にその魔法が使えるからって、あんな精緻な再現ができる訳じゃない。

造形か素描の高い能力が無ければ不可能なのは考えるまでもないんだけど、それが簡単にできる様になるのがスキルなのよね。


 合格を貰えたのは色々理由があって、その内いくつかをあげるね。

まず無理をせずに空地から逃げ出す選択をしたこと。

本物なら逃げれたかどうかは別にして、闘って勝てないのが分かってるなら可能性の高い方を選んで正解だったらしい。

次に、空地から出た後に直撃を避けれる所に待機して逃げ出さなかったこと。

最短で救援を呼べるならそれが正解だけど、呼べる当てが無いなら分かる人が通りかかるのを待つのも間違いじゃないし、少なくとも何もせずに逃げ出すなんて最低なことはしなかったからね。

マチアを心配して探したのも加点だった。

それと3人での闘いで、旦那様が魔法を切り替えたのに気付いて障壁シールドに入ったのもポイントが高かったらしいわ。

マチアはバクルット神都店の者で、実家がここだから里帰りついでに手伝いに連れて来たそう。

バクルットに勤めるくらいだからそれなりの伝手があったんだと思うんだけど、それにしては蓮っ葉な下町っ娘が板に付いてたのは、あたしみたいに特別な事情があるのかな。


 無事合格をいただいたあたしは、旦那様とマチアと3人で神都に向かうことになる。

奥様だけはナムパヤの屋敷に戻る。

『長い間メルノアを放っていたから丁度いい』そうで、旦那様曰く『半年間俺はエノラに手を取られるからな、サリヴィナは誰かの面倒をみてないとストレスでやられるんで当分本家でメルノアの世話を焼く』んだって。


     *


 翌朝早くあたし達3人はサリヴィナ奥様に見送られてアワツの街を発った。

奥様はナムパヤからの迎えを待つらしい。

『この辺りなら1人で何の問題もないのだけど、使用人の顔を立てるのも大事なのよ』と笑顔で教えてくれる。

旦那様ほどじゃなくても探究者として充分やっていけるだけの強さと技術はあるから大型魔獣なら1人で狩れるし、例の【幻影】があれば追剥ぎや暴漢なんて目じゃないものね。

本当ほんとのところ、あたしは男の人があまり得意じゃないので教えて貰えるなら旦那様じゃなくて奥様やお嬢様の方が良いんだけど、折角お嬢様が段取りしてくれたのはきっと旦那様に付いて行くのが一番良いからに違いない。


 旦那様はシルファより一回り大きな凄く立派で真っ黒な牡馬、マチアは少し小柄な牝馬に乗っている。

背丈はあたし位だけどだいぶ肉付きが良いからダフネだと長い旅はきっと荷が重いわね。

アワツを離れてまた原野に差しかかる。

本当にイクァドラットは広い。

見上げると点々と白い雲が浮かぶ真っ青な青空、見渡せば草原と森が果てしなく続く。

次の街はあの彼方の森の向こう側だろうか。


     *


「ねぇ、マチア」

「なぁに」

「試験だとしたって人を騙すなんて酷いと思わない?」


 長閑のどかな旅に少し気が緩んでマチアの馬にダフネを寄せて小声で囁く。


「あんたってクソ真面目なのか融通が利かないと言うか、孤児育ちなのが信じられないわ。ねぇ、旦那様ぁ! エノラが【幻影】で騙されたのが酷いって言ってますよぅ!」

「ちょ、ちょっと、マチア!」


 最初から聞こえてたのかも知れない。

旦那様が黒馬を近づけて声をかける。


「あぁ、ウソを吐いたり人を騙すのは良くないがな。人の本質はそんな状況でこそ見えてくる場合がある。危険なことを避けて見極めるために騙すのも1つの手だと言う事だ。大法螺も大事な時があるってな。だが、騙したのは悪かったな。謝るよ」

「いいぇ、そんな」


 馬上で頭を下げる旦那様に恐縮するしかない。

そんな事は分かってたのについつい口に出してしまうあたしはなんて馬鹿なんだろう。

でもこんな小娘に頭を下げることが出来る大店のご主人って他に居るんだろうか。

さすがメルノア様のお父様よね。

第一挿話の舞台は地球になります。

現世とほとんど同じ設定ですがあくまでもこの物語の世界ですので

史実や科学的な表記に違いがある場合は似て異なる世界として

ご理解いただければ幸いです。

明日からも何卒よろしくお願いいたします!

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