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第一章 商都の孤児少女  2話 彼を慕いて

2話目です。

1話をお読みでない方はそちらからどうぞ。

「分かった。取り敢えず話は聞こう。見た目よりずっと知恵は回るみたいだから、バクルット家への紹介状代わりに僕の事を垂れ込まれたりしたら敵わない」

「そんな事はしません」


 たしかにその手も考えたけれど、はじめが悪いとずっとそれが付いてまわるような気がする。


「それで、君のスキルって何なのかな」

「人の声や音を伝える事が出来ます」

「ほう。お使いには便利なスキルだな。確かに奉公人には向いていそうだ」

「そうなんです。タリアンさんは日ごろ会えないメルノアさんの声を聞きたくありませんか?」

「そりゃぁ聞きたいに決まってるが、本当に君のスキルで声がそのまま伝わるのかい」


 ほかに同じスキルの話は聞いたことがないけど、そんなスキルがあってもおかしくないし、タリアンさんがうたがってるのはたぶんスキルのことじゃなくてあたし自身の力の方だろう。

なので、さっきのタリアンさんの言葉をそのまま聞かせてあげることにした。

街なかの通りのまん中だけど、人が多いぶん気にして聞いてる人なんていないはず。


「そりゃぁ聞きたいに決まってるが、本当に君のスキルで声がそのまま伝わるのかい」


 あんのじょう、タリアンさんが喰いついてくる。


「おぉぉ、それが僕の声かい。自分で話すのとはちょっと違うけど、確かに内容と口調はそのままだ」

「じぶんの声は空気をつたわらないから人に聞こえる声とはちがうんです」

「成程ね。どうやら信じても良さそうだね」

「ありがとうございます」

「それで、君はどうしたいんだい?」

「タリアンさんの使いでバクルット家でメルノアさんに会って、小間使いにしてもらえればうれしいんですけど」

「よし。それなら僕の家で打ち合わせようか。直ぐ近くなのはぁ、どうやら知ってるみたいだね。じゃあ付いて来たまえ」

「はい」


 頭のいい人は話も早くていい。

おうちに行くとタリアンさんはご両親と3人住まいだった。

2人とも手さきがキヨウなスキルでお父さんは【木工職人】お母さんは【針仕事】をしているんだって。

タリアンさんはどちらのスキルも受けつがず頭のはやさと物おぼえがおもな知力のスキルをえたのだけど、両親が同じスキルの持ちぬしなら彼もその血を引いていると思われるのがふつう。

なれそめは知らないけど、メルノアさんと恋に落ちても大商家に【手仕事スキル】の血が受け入れられないのはあたり前よね。

なのでとってもむつかしい資格で彼の天才スキルを知ってもらって、お付き合いの許しをえようとがんばっているんですって。


「次の資格検定まで半年余り。私達はそれまで公に会う事はできないので、書付の交換で胸のうちを伝え合っていたんだ。もし言葉を贈り合えるならどんなに嬉しいか。彼女も同じ気持ちに違いないから、僕の書付を持って言葉を伝えてくれれば君をきっと雇ってくれる」

「でもこのスキルはあたしが居ないと使えないので、お話しの内容が全部私に伝わってしまいます。それは大丈夫でしょうか」

「僕は全然構わない。でもメルノアは気にするかも知れないな。特に君が今みたいに変に大人びた風だとね。彼女の前ではもっと年相応の話し方と態度でいないと駄目だと思うよ」

「はい、わかりました。タリアンさん」


 できるだけ幼い話し方でとびきりの笑顔を返したつもりだけど、タリアンさんが私を見る目が冷たい。

あんな目付きをきっと『うさんくさいものを見る』って言うんだろう。


     *


 お昼をごちそうになって、昼すぎからバクルット家へ向かった。

もちろんタリアンさんの書付と伝言をあずかっている。

店の前の通りをゆっくりと行ったり来たりして見知った人が出てくるのを待つ。

1時間いじょうしてやっと、最初にメルノアさんのうわさ話をしていた奉公女メイドさんの足音が通りに聞こえた。

タリアンさんには伝言スキルみたいに言ったけど、あたしのスキルは音というか波といっていいのか、そのあたりをひっくるめてあつかえてしまう。

光も波の一つなんだけどこまかすぎるので、今はまだ音の方があつかいやすい。

だから知った人なら足音で見つけたり追いかけたりできるのよね。


 大がらなメイドさんに声をかけると気さくに話を聞いてくれたけど『お嬢さまに渡すから』とてのひらをさし出された。

あたしたちの心配が当たったけど、このことはタリアンさんと打ち合わせずみで、あたしは『読んでください』とタリアンさんの書付をその手にのせた。

書付にはあたしが直にメルノアさんに会わないと意味がないことが分かりやすく書いてあって、読んだ人への心づけもはさんである。

それを読んだメイドさんは『ちょっと待って』と少し考えたあと『勝手口は知ってる?』とたずねた。

あたしがうなずくと『じゃあ、あっちで待ってて』と書付と心づけをポケットにしまって店の中へ入っていった。

大通りでひとり待つのは不安だったから裏に回るのは大かんげい。

さっそく移動してしばらくするとさっきのメイドさんが勝手口をあけてくれた。

手まねきをされるので入ると中はすごく広い庭だった。

表は店だからこういうのは裏にしかつくれないのね。


 色んな花が咲きほこる庭を抜けて裏手とは思えない立派な入口からすぐ右手のろうかを抜けて立派な部屋に通された。

あとから考えるとふつうの打ち合わせ室だったけど、その時のあたしにすればすごく立派に見えたんだ。

『お嬢様を呼んで来るから』ともう一度てのひらを差し出されたので、今度はメルノアさんあての書付を渡した。


 10分くらい待ったかな。

突然『ダダダダダダダダ』と足音が響いて『バァァァン』と部屋のドアがひらいた。


「ねぇ! この書き付けに書いてあるのは本当なの?!」


 開口一番かいこういちばんあいさつもなしにこれは、【大店令嬢】としてどうなんでしょう。

でも気持ちは分かるので『はい』とうなずいた。

返事を聞いて少し落ちついたお嬢さまはうしろ手にドアを閉めてまん中のテーブルに近づいて腰をおろした。


「聞かせなさい」


 とうぜん立ったままのあたしにそう言うのは当たり前で少しも何も感じたりしない。

ここはそういう世界なの。

あたしがタリアンさんの言葉を再生すると、みるみるうちにお嬢さまの顔が目に見えて赤く色づいていく。

彼のひと言ひと言への仕ぐさはとてもカレンで、あたしに命じたのと同じ人とは思えないけれど、それが人というものだってあたしはよく知っている。


「私の言葉もそのまま伝える事ができるのよね」

「はい。間違いなく」

「それは聞き直して駄目だったら、話し直しも出来るの?」

「はい。お嬢さまのお時間さえあれば、いくらでも大丈夫です」

「そうなの?! それはいいわね。このあと時間は大丈夫?」

「はい。どれだけでも」

「それなら、今日は私の言葉を持ち帰って明日彼に届けるのよ」


     *


「ご苦労様。今の言葉を伝えなさい」

「はい」

「明後日、彼の返事を持ってここに来なさい。朝のうちはさっきのメイドを裏庭に居させるから」

「わかりました」

「その時に紹介状を渡すから、翌日にそれを持って店に来るのよ。私の小間使いとしての推薦にするから決定権は私にあるわ。役目や態度に問題がなければ採用するからしっかりね」

「はい。ありがとうございます」


 はじめて自分の声を聞いてタリアンさんと同じようにおどろいたメルノアさんだけど、そのあとは何度も聞きなおして気がすむまで話しなおして、終わったころには1時間近くたっていた。

このスキルはそんなに魔力を使わないのにクタクタになってしまったけど、いっしょけんめいがんばった。


     *


 ちゃんと役目をはたして紹介状を手にいれたあたしはバクルット家へ向かっている。

今日あたらしい生活がはじまるのか、ドキドキとワクワクが止まらない!

明日もよろしくお願いいたします。

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