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第一章 商都の孤児少女  19話 ひとりじゃあいろ

今日もよろしくお願いします!

「あら、落ち込ませてしまったかしら。だって私は物心付くなりお父様から直接手解きを受けたのよ。その数年を差し引いて考えれば落ち込む必要はないと思うけれど」

「でも、あたしの年にはずっと強かったんですよね」

「えぇ、その1年前には1人で大型魔獣を倒してたわ。でも言ったように、それは教えてくれる相手と始めた時期が違うから比較しても仕方ないのよ」

 

 そう言われてもね、お嬢様の凄さを再認識させられた上に大した事もない自分をどれだけ過大評価してたかを痛感したんだから落ち込むのも当たり前。


「だって、まるでお山の大将みたいにいい気になって、馬鹿みたいで恥ずかしいじゃないですか」

「ほら、また頭でっかちが顔を出す。まぁ妙に似合わない話し方をしなくなっただけましだけど」


 周りを気にしてたあたしは孤児院の時から知ってる言葉でもあまり難しいのは使わないようにしてて、特にここに来てからはできるだけ子供らしく話すようにしてた。

でも、もう『こましゃくれた頭でっかち』はみんなが知る処なので言葉遣いも改めることにした。

そうか、そんな事で余計な気を使ってたのも『頭でっかち』に入るんだ。

お嬢様が初めのうちからそれに気が付いていたのなら『妙に似合わない』ことばかりしてたあたしは確かに頭でっかちで滑稽で……あぁ、本当ほんと穴があったら入りたい。

でも、どうしてメルノアさまはこんなにあたしのことが判るんだろ?

それも訊きたいけど、その前に確認したいことが。


「あたしの有頂天は別にしても、天地流の鍛錬が身に付くのに随分個人差があるみたいですけど、これってもしかするとスキルなんでしょうか」

「スキルじゃないわね。どっちかっていう遺伝とか才能? でも何故私がそれに答えられると思ったのかしら」


 2つの月明かりで結構明るい裏庭にお嬢さまのちょっと悪戯っぽい表情が浮かんでる。

『試されてるのかな』と思ったりしながら、頭でっかちは思ったことしか答えられない。


「それがスキルなんですよね。最初は物だけかと思ったんですけど」

「正解! 私の基本スキルは【鑑定】。何がどのように解るかまでは言わないけど、お父様と同じスキルで私の方が少し解ることが多いのよ。それとサブスキルに【解析】が有るのを知って自分より経営に向いてるって、私にこの家を任せて出て行ったわ」

「鑑定に解析……、目の前のもの何でも丸裸にされそうです」

「だから人に言っちゃ駄目よ」

「はい。それは誓って。でも、スキルって1つじゃないのは知ってるんですけど、幾つ有るものなんですか?」

「それは人によるわ。1つだけの人も結構多いし、3つ以上だって珍しくはない。でも全く関係の無いスキルが色々有るより、さっきも言った才能とか遺伝みたいなものとスキルが上手く補完できる方がいい結果に繋がりやすいみたい」

「旦那様はどこに行かれたんですか? 他のスキルに関係してるんでしょうか」


 お嬢様はその問いに『ふんっ』と鼻を鳴らしたけど、答えてくれた。


「まだイクァドラットには居るわ。【練成】が2つ目のスキルでね。色んな素材から新たな素材を作れるんだけど、魔核を使った練成に凝って私に店を任せた途端に魔窟行脚の旅に出たのよ」

「はぁぁ。奥様も大変ですね」

「あの人はお父様にぞっこんだからいいのよ。【啓発】と【幻影】以外は家事に便利なスキルだけだし、お父様の世話を焼くのが生き甲斐なんだから。それよりも心配なのはお婆様。うちの家系に分析系のスキルを持ち込んだ人だけど、基本スキルが【推察】でねぇ。ギャンブルが得意で、私が10歳の時にお爺様が亡くなってその翌年にお父様の魔窟行脚を真似て賭博行脚に出ちゃって、それ以来音信不通なのよね。たぶんもうイクァドラットには居ない気がするわ」


 なんて滅茶苦茶な、いぃえぇ、凄い家系なんでしょ。

まぁそれはいいとして、話を聞いてる限りお嬢さまの【鑑定】で人のスキルが分かるのは確実みたい。

あたしのスキルの事を訊きたいけど、直接聴くのはなんだかなぁ。


「あの、それじゃ。タリアンさんのスキルも分かってんですか」

「彼はね【解析】と【理論構築】がダブルメインで【折衝】がサブ。折衝がメインなら政治家のトップなんでしょうけど行く末は行政のトップよね、きっと」


 やっぱりスキルを確認した上で付き合う事を決めたのよね。


「あたしのスキルも分かったりします?」

「あら、やっと核心に触れる気になった?」

「はぁ、すみません」

「貴女のメインは【天鳴】。名前は分かるんだけど何ができるかは良く分からないのよね。私とタリアンとの伝言にもこれを使ってるみたいだけど、ひょっとしたら貴女もまだこのスキルの本質に気付いてないんじゃない? サブもいくつかあるのにそれには気付きもしていないでしょ。本人が把握していないスキルってとても判り辛いのよ」


 へえぇ、そうなんだ。

ずいぶん早くからスキルが使えたから分かってた積りだったけど、お嬢さま曰く『本質』は別にあるのね。


「1つだけ見えかけてるのが……【誘導】? お母様の【啓発】やカザムの【統率】とも違うちょっと策謀っぽいスキルだけど、たぶん鍛錬で若手の指導をしたから教導の部分だけが先に発現しかけているのね。他人ひとに教えるのもためになると思ってさせたのが良かったみたい。貴女、鍛錬と相性がかなりいいみたいだから、天地流との関りでスキルが発現する可能性もあるんじゃないかしら」

「はぁ、鍛錬は好きだからそれならありがたいです。他にはどんなスキルがあるんですか?」

「カザムのサブは【査定】で、レベッサは【庶務】と【管轄】、ジェレミィが【鑑定】と【算定】でジュラネルは【交渉】に【究明】。ジェレミィの鑑定は物が対象で人にはほとんど利かない。同じ名のスキルでも人によって出来る事は違うし、同系統でも色んなスキルがあるわ。例えばテネスの【先導】は身をもって少数を導くには最適だけど大きな組織だとカザムの【統率】が必要だし、レベッサの【管轄】は決まった内容を管理するだけならかなり大きな組織でも大丈夫とかね」


 成程、ジェレミィ様は会ったことが無いけど【鑑定】の力もメルノア様より弱いし【算定】は明らかに【解析】の下位スキルみたいだから、言い方は悪いけどメルノアさまの劣化版みたいな能力の人なのかな。

スキルの無い人と較べれば断然有利な力を持っていても、同性の身内でしかも年下により優れた人が居るって『どんな気分なんだろう、あたしだったら嫌だな』と脱線しかけてしまう。


「ほら、何考えているの! 自分の事はもういいのかしら?」

「あっ、はい! あのぅ、タリアンさんの検定までもう一月ひとつき足らずですけど、そのあとあたしはどうしたらいいんでしょうか」

「そうね。私の小間使いのままでも構わないけど、貴女はどうなの」

「魔獣狩りは小間使いの仕事なんでしょうか?」

「そうね、小間使いに魔獣狩りをさせるあるじなんて私くらいかも。ねぇ話は変わるけれど、何故私が貴女を雇ったか分かる?」

「それは、タリアンさんとの連絡の為では?」

「確かにそれもあるけど、さっきも言った様に貴女の事が鑑定で判り難くて興味を持ったからなのよ。だから貴女のステータスがどんな風に固まるのかが楽しみで、鍛錬も魔獣狩りもそれに役立つかと思ったからさせてるのよね」


 あぁぁ成程そういう事なのね、やっと分かったわ。

だとしたらタリアンさんとの連絡役が終わってもお払い箱になる訳じゃなさそう。


「それでね。貴女のステータスで一番興味深いのは……、何だと思う?」

「???」

「分からないわよね。それは、貴女の名前よ」

「名前? エノラ・ ウズミヌですけど」

「そう、でもその苗字はウズマ神からの戴き物で本名じゃないでしょ。実際、鑑定では貴女の苗字もまだ確定していないのよ」

「そうなんですか! じゃあ、あたしの本名が分かる可能性もあるって」

「そう。だから貴女は苗字とかスキルを追求したらどうかと思うの」

「はぁ? それってあたしには雲を掴む様な話なんですけど」

「たしかに貴女1人だと何の道筋も見えないかも知れないわね」


はい! 今、目の前にあるのは通れそうもない隘路あいろだけなんです!

明日もお付き合いいただければありがたいです♪

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