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第一章 商都の孤児少女  18話 みこみはないの

お嬢様の正体?

 『まぁ』は付いたけど『よくできました』をもらえたんだから、ぜんぶダメってことはないのよね。

『今から変ればいい』ってことなんだと思う。

でも、それがやっかい。


 あたしの話に点をつけてお嬢さまがさっさと寝室へ消えたので、あたしも【控えの間】に入ってベッドにもぐりこんで考え中。


 『頭でっかち』は自分でもそうだと思うしよく分かるんだけど、あたしにとっては何よりこれがむつかしい。

たぶん剣のキョリになった時『変に考えずに自分も思いきり動く中でならもっと別の事まで掴めたんじゃないか』ってことかなとの思うけど、これも考えすぎなのかも知れない。

それに、カザムさんのサイコウがカンチガイってどう言うことだろう?

あんなにキレイな武技を使える人はほかにいないのに、それこそお嬢さまの思いちがいなんんじゃないのかしら。

さいごのはあたしもちょっとフシギだったのよね。

いくら『強くしろ』って言われたからって、ムリに狩りに連れてくことはないでしょ。

連れて行くだけじゃなくてみんなと同じように魔獣とたたかわせるなんて、いくらあたしの命がどうでもよくてもジョウシキはずれ。

成人までまだ何年もあるこどもなのよね、あたしって。

そのこどもが魔獣をたおしたらふつうならもっとビックリするよね、でもみんなよろこんではくれたけどダレもビックリしてはいなかった。

なんだかもう『とっくに見たことがあるよ』って感じでながされちゃったのよね。


 どれもこれもあたしには大事でいっしょけんめい考えるつもりだったけど、やっぱりすごくつかれてたみたいでいつもより早くあっという間に寝てしまった。


     *


 なんだか近ごろすごく早く日が過ぎてくみたい。

むいかに2度の魔獣狩りのメンバーに入ることになって、同じようにお嬢さまの外出にもついて行くから離れの用は3日分を1日で片づけないといけない。

用の中にはタリアンさんとの言葉の受けわたしもあるから本当ほんとにタイヘン。

バクルットが魔獣狩りを続けることになったのは、魔獣の皮や骨を試しに売ったらお客さまから『これからも売ってほしい』という声が多かったから。

魔窟の外の魔獣はダレが狩ってもいいのだけど、猛獣を狩るのと同じでそれなりの強さがないと返りうちにあってしまう。

魔獣や猛獣を狩れる人はたいてい探究者になるから普通の人--使用人が武技をならうバクルットはトクベツ--はあぶなくて魔獣狩りなんてできない。

だから探究者が狩る魔獣のものしか街には出まわらないんだけど、探究者は魔窟にもぐって魔核をとるのがほんとうのしごとで地上の討伐はサービスみたいなものだからムダな狩りはしない。

探究者ギルドは地上の魔獣でもうける気はないので高くはないけど、ギルドが売りに出すのはそんなに多くないの。

バクルットもギルドと同じ値で売るからもうかりはしないけど『日頃の御愛顧に応えて』とお嬢さまのひと声で決まったんだわ。


 もちろんタンレンもいいかげんにはできなくて、魔獣狩りの日だけは夜ひとりでシマイタンレンをするだけになったけど他の日は朝夕ちゃんとしてる。

これまでと少し変ったのは朝に成人まえの使用人が日がわりでやってきてあたしがかたをおしえることになった。

みんな年上で武技をはじめたのもあたしより前の人ばかりだけど、魔獣狩りに出る人たちにくらべるとなおすところが多すぎてこまるくらいなのよね。


 魔獣狩りは、カザムさんはさいしょだけであとはテネスさんの役目になった。

いつも行くのはテネスさんとあたしだけ、あと4人は使用人さんが入れかわる。

ダフネは3日に一度のお出かけが楽しいみたいで毎回イキイキと駆けてくれる。

いつも馬と馬車をのこすのは同じあたりだけど、だんだんと探究者の討伐範囲からはなれるようになってキバヤマイヌやオオヅメネコなんかの中型魔獣があらわれだした。

魔獣が少し大きくなってもすることはそう変らない。

あたしは魔力が少し多くなったので動作モーションが使えるようになって、弓の張りをつよくしたり、剣を長いものにかえた。

動作モーション浮動ムーブの上位魔法で道具なんかを使ったり、使う力を足したりできる。

移送トランスファ浮動ムーブの上位魔法だけどこれはずっと重いものを運べる魔法。

同じ魔法からでも日ごろのおこないで使える上位魔法がちがうこともよくあるの。

そのうちどっちも使えるようになるのがふつうだけどね。

矢の力が上がって長い剣も使えるので狩りのエモノはテネスさんとそう変らなくなった。

テネスさんは狩りをひきいるのが役目だから自分の狩りのことは二の次だって分かってるけど、ほかの使用人さんのダレにも負けないのはスゴイと思う。

なのにほめてくれる人もいないから、自分で言っておくわ。


 こんな感じでそれなりの出来になってるとは思うけれど、メルノアさまがつけたマイナス点をなしにできてるとはこれっぽちも思えないのよねぇ。

頭でっかちは生まれついてのものでそうそう変る……っていうか変れるものか自分ではよく分からないし、カザムさんの武技についてはあいかわらず一番にしか見えない。

ただ、あたしのしてることにダレも驚かないわけだけは、何となく思いあたるような気がしてきた。

そう、たぶんあたしよりスゴイのが前にいたんだ。

どれもこれもダレかがやったことの【二番煎じ】だったらビックリなんてするわけがないもの。

で、それがダレかなんて考えるまでもない。


     *


 魔獣狩りから戻った夜、お嬢さまが寝室に消える前に訊いた。


「お嬢様はダフネに乗って魔獣狩りに行かれてたんですね?」

「やっと気付いたのね。思ったより時間が掛かったじゃない」

「まさかと思う気持ちが強くて」

「まぁ、今の様子を見ればそう思うのも仕方ないかな」

「あたしより小さな頃からですよね」

「えぇ、2年は早かったわね」

「凄い!」

「でもないわよ。私はお父様に連れ回されただけだから」

「えぇぇ。旦那様がお嬢様を連れて!」

「何を驚いているの。貴女が鍛錬している【天地流】はバクルット家に伝わってるのよ。本家本流が一番強いに決まってるじゃない」

「それじゃ、カザムさんの最高が勘違いって言うのも」

「そうよ。私が知る限り、最高はお父様で2番目が私。叔父様が3番で、そのあとにカザム。ジュラネルとジェネミィはその次ね」

「カザムさんがお嬢様に頭が上がらないのは商いの事だけじゃなくて……」

「えぇ。私の方が強いからに決まっているでしょう」


 とても信じられない!

あたしの表情が読めたのか、メルノア様は立ち上がって居間の出口に向かう。


「ついてらっしゃい」

「はい!」


 寝間着のまま裏庭に出て広い芝の上でお嬢様は何の力みも無く立っている。


「魔法でも武技でもいいから、カザムに挑む積りで全力で来なさい」

「天地流じゃなくて、今は武技なんですね」

「馬鹿ね、そう言わないと解らないでしょ。魔法も武技も含めて天地流なのだから」

「あっ、鍛錬を始めてから急に魔力が伸びだしたのは……」

「そうよ。解ったなら、掛かってらっしゃい」

「はい!!」


 カザムさんより強いのが勘違いだとしても『全力で来い』と言われたのだから手は抜けない。

雷攻サンダーを放ちながら、彼我の3メートルを一気に駆けて脚を払いにいく。

この距離の魔法は外れる筈がない、それに障壁シールドを張った様子もないのに雷攻サンダーはお嬢様の横を抜けてしまう。

そして、あたしが低い体勢で払った所にお嬢様の下肢は無くひょいっと掴まれた足首を軽々と持ち上げられて、あたしは逆さ吊りにされる。

しかもいつの間にかお嬢様の両腕で両脚を極められてしまい、全く身動きが取れない。


「どう?」

「参りました!」

「ふむ。貴女の体重なら魔力なしでも持ち上げられたわね」


 変なところに悦ぶお嬢様の凄さは実感できたけれど、あたしはもうダメダメ……。

狩りとかで少しはできる気になっていたけど、今度はマイナス30点どころか『まるで見込み無し』って採点なんじゃないかしら!

明日もよろしくお願いします。

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