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第一章 商都の孤児少女  17話 さかしくてなりきれない

魔獣狩りが始まります。

 馬たちからはなれて15分ほど歩いたところでカザムさんが足をとめた。


「もう完全に討伐範囲を出たからね。いつ魔獣が出ても可怪しくないから慎重に進もう」

「「「「はい!」」」」


 日ごろから探究者さえ歩かないこのあたりは、とっくに道なんてなくて林と草地にあれ地が入りみだれて取りとめないけしきが広がっている。

朝には明るかった空にひくく雲が立ちこめてきたけど『昼まで雨はふらないだろう』とテネスさんは言っている。

カザムさんが進む向きを変えたのはこれいじょう討伐範囲から遠ざかるつもりがないからで、大型魔獣と出くわしてあたしや若い使用人をキケンな目にあわせないためだろう。

あたしはずっとスキルであたりの音をさぐっているけど、これはみんなにはナイショだ。

タンレンをつけてくれる人たちに『耳がいい』のは話してあるけど、スキルだとは言っていないからね。

スキルにはずっと足音やしげみをすりぬける音がひびいているけど、どれもあたしたちに気づくと遠ざかったり止まってしまったりで、向かってくるはずの魔獣じゃなくふつうの獣ばかりだった。


 歩く向きを変えて5分くらいしたとき、それはあらわれた。

スキルにこちらへ向かってくる音がひびく。

だれも気づかなければ声をあげるつもりだったけど、すぐにテネスさんが右手を上げた。


「左前方向から魔獣の気配だ!」

「了解! 私にも見えている」


 スキルがひびいたあたりを見ると茂みのゆれがこちらへ近づいてくる。

なるほどね、スキルがなくてもちゃんと分かる人はいるんだ。

あたしを挟んでカザムさんとテネスさんが魔獣の方へ向き、その両がわに若い使用人の2人が立つ。

弓も持っているけど茂みを抜けたらもう弓のきょりじゃない。

全員が長剣をかまえる。

剣でおたがいをきずつけないだけ離れるのは当たり前。

ダレにでも聞こえるガサゴソした音とともに茂みから真っ白なかたまりがいくつも飛び出してきた。


「ファイアバレット」

「フリーズクラッシュ」

「サンダーアロー」


 5人が口々に唱えてはなれた所に届く魔法をはなった。

あたしもサンダーアローで雷攻サンダーをとばす。

スキルでまっしょうめんから出てくるキバウサギが分かっていた。

そいつは少しおくれて飛びでたからみんなの魔法はほかの早く出てきたのに当たって、そいつに魔法をとばしたのはあたしだけ。

出てくるところが分かってるから外しようがない。

魔法で打ちもれた魔獣はみんなが剣でやっつけたけど、手も剣も短いあたしのコウゲキは届かなかった。

でもはじめて魔獣をたおした!


「やったな、エノラ!」

「凄いな! 初めての狩りの初撃で仕留めるなんてね」

「はい! ありがとうございます!」


 キバウサギぜんぶをたおししきって落ちつくとテネスさんとカザムさんが声をかけてくれた。

打ちあわせどおり、1人1頭いじょうの魔獣をしとめたら馬車にもどる。

エモノを馬車にのせるのと馬番をかわるのだけど、もどるとちゅうでトゲオオネズミに出くわした。

あれ地でかくれる物がなくてまる見えなので、こちらへ向かってくる数匹を弓でいた。

4人の矢はヒュンっと風をきって飛び3頭の魔獣をたおした。

1頭には2本の矢がささっている。

あたしの矢は少し山なりに飛んでそれでも別の1頭に突きささった。

残った2頭はなかまが倒されたのも気にせずこっちへ向かって来るのを、若手の2人が左右から飛び出て長剣でしとめた。

じつはあたしの弓は小さくて弱いので魔獣をたおすには力ぶそくなの。

まじめにタンレンしてるから的には当たるんだけど、ふつうのケモノならともかく魔獣をたおすほどのイリョクがない。

『弓は大きくなるまで使えないかぁ』としょんぼりしていたら、矢に撃雷ブリッツをのせることをカザムさんが教えてくれた。

撃雷ブリッツも雷系のキホン魔法で雷攻サンダーみたいに魔獣をたおすだけのイリョクはないけど、突きささった矢から魔獣の中へちょくせつ魔力がとおればしとめることができる。

矢をはなつのに魔力をのせるタイミングがむつかしくてたいへんだったけど、いっしょけんめいタンレンしたかいがあったわ。


 そのあと昼まで狩りをつづけて、いつの間にか小さなワゴンはいっぱいになった。

カザムさんとテネスさんがたおした魔獣はひとり20頭をこえたし、若い3人は馬番で抜けているのに10頭いじょう狩ってる。

あたしは6頭でみんなより少ないけどお嬢さまのノルマの倍、はじめてにしては大セイカで鼻たかだかと言いたいところだけど本当ほんとはそんなことはどうでもいい、あたしの何よりいちばんのシュウカクはやっぱり武技・・なのよね。

弓や魔法のあと、剣で一度も魔獣をたおせなかったのは手や剣のながさのせいもあるんだけど、じつはみんなの動きや剣さばきを見ていたから。

どうやら魔獣狩りにいちばんなれているのがテネスさんで魔獣のトクチョウやクセをよんでウマくカザムさんと同じくらいの魔獣をたおしていたけど、やっぱり武技はカザムさんがサイコウなのよね。

じっさいのたたかいでのカザムさんの動きを見ているとタンレンの意味がすごく良くわかる。


 ザカイからの帰りにツノヤマイヌのむれにおそわれた時に見たカザムさんの動きであたしにとってタンレンはぜんぜんちがう物にかわったけど、今日はそれをなんどもすぐ横で見ることができたし、テネスさんの動きとの差や若い3人とのちがいを見くらべることもできた。

カザムさんの動きで分かったつもりのタンレンの意味もカザムさんとの差がありすぎて、いざ自分がどうするかはなやましい。

でもあたしとカザムさんとのあいだにいるテネスさんや若手さんたちの動きを見ていると『あぁ、ああするとダメなんだ。これだとムダが多いんだ』とカザムさんとのちがいが分かって、あの人たちがハマってる【イキドマリ】が見えてくる。

『そうか! こうして比べて見れば、やることだけじゃなくてしちゃダメなことも分かるのね』と落とし穴をよけてカザムさんのところまでたどり着く道が見えた気がする。

生まれてはじめて魔獣をしとめたたかぶりとタンレンの先行きへ差した光にちょっと浮かれていたあたしは、ほかの馬たちとおとなしく待っていたダフネに思わず抱きついた。

しがみつかれた首のつけ根からたてがみをふるわせたダフネの軽いいななきまでもが祝ってくれてるみたいに聞こえたのは、あたしの思いこみなんだろうけどね。


 ケガ人もなくノルマいじょうのエモノを狩れて、みんなの顔も明るい。

特にカザムさんはあたしがぶじにノルマをはたしたことでホッとしているにちがいない。

馬車にあわせてずっと常足なみあしだから若手さんたちの話もはずんで、ずいぶんにぎやかな帰り道になった。


     *


「70点。まぁ良く出来ましたってとこね」


 ワゴンいっぱいに積まれた魔獣がとどいてしごと終わりの店はもり上がり、さっそく夜のゴハンにそえる魔獣がさばかれて、お嬢さまもめずらしく母屋でみんなといっしょに過ごされた。

お腹もふくれてみんなが落ちついたのを見はからって離れにもどったあと、あたしは今日のことをお嬢さまにホウコクした。

いつもより少したかぶったあたしの話ぶりをながめる目はやさしかったけど、その口から出た『70点』ってなんだかビミョウな気がする。


「頭が良いのは悪くないけれど頭でっかちなのがマイナス10点。カザムを目標にするのはいいけれどあれを最高と勘違いしてるのでマイナス10点。貴女がその年で狩りに連れて行ってもらえた理由や魔獣を倒したことが余り驚かれない理由に気付かないのでマイナス10点。『こざかしい』って言うと可哀想だから『さかしい』にしておいてあげるけれど、そのままではまだまだ何者にもなれないわね」


 そうか、お嬢さまはあたしが小間使いとは別の何かをさがしてることに気づいてる。

マイナス30点は狩りのことじゃなくてそれに足りないことなのよね、きっと。

明日もまたお付き合いいただければ幸いです♪

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