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第一章 商都の孤児少女  16話 かわいくてだきしめたい

12月に入りました。

ことしもあと一ヶ月です。

早いものですね。

「孤児院の運営は順調なようね。町が違う私が顔を出すのも何だから取引先の店主に定期的な確認を頼んであるんだけど、子供達もすっかり栄養が行き届いて見違えるようだと聞いたわ。貴女がいつまで経っても痩せっぽちなのはどうやら食事と関係ないみたいね」

「はい。たくさん食べれるようになったのに太らないので、もともと太りにくい体なんだと思います」


『お嬢さまのお世話で気ぐろうがたえないせいですわ』なんて軽口はぜったいにたたけない。

万が一にも小間使いをクビになるわけにはいかないから、この手の話はちゃんとイヤミに聞こえないように答える。

メルノアさまは気にしなくても誰が聞いてるかわからないもの。


「でしょうね。まぁ肌艶は明らかに良くなったから痩せてるのは体質に違いないわ。まぁもう少し経てば体質も変わるかも知れないけど」

「タイシツですか? 太りたくはないですけど、変わって赤いほほがなおるならうれしいです」

「あはは。治らなくても、お化粧する年になれば大丈夫よ。綺麗に隠せる白粉おしろいをあげるわ。顔立ちは良いから化粧映えするわよ、きっと」

「…………」


 日ごろ気にしてることを当たりさわりなく答えるのはむつかしい。

思わず口ごもってしまったけど変な答えよりはいいよね。


「そうそう。この前の魔獣肉がご近所に好評でね。配れなかった方達に贈りたいのと、店に置いた皮と骨が完売してしまったから補充したいのよ。ギルドから買うと原価が撥ね上がるから定期的に狩りをするようにカザムに言い付けてね、私を連れて行くように言ったのだけど『勘弁してください』と泣きつかれたわ。まぁ私の件とは別に、エノラの鍛錬が順調なので参加させてはどうかと提案されたのだけど。どうする?」

「はい! はい! します! やります! 参加します! 行かせてください!}


 思わず何も考えずにさけんでしまった。

おなかいっぱい食べさせてもらえて休まずタンレンして、少し背はのびてもいつまでもやせっぽちのあたしだけど、ちゃんと見ててくれる人がいるのはなんて幸せなんだろう。

お嬢さまとちがって『死んじゃってもかまわない』から連れていってもらえるんだしガリガリでちっぽけなが魔獣とたたわせてもらえるはずもないんだけど、ホンキのカザムさんのあの・・動きをもう一度見れるなら、それはもうあたしにとって何にもかえられない時になるわね。

何より、商家のバクルットで商いのほかにあたしがお嬢さまのためにできること、その答えが見つかるかも知れない。

『かも知れない』なんて言葉は『できない』にだって付くんだから先のことなんて分からないけど、ダメならまた他をさがせばいいんだ。


「元気いっぱいね。それじゃ、カザムに言っておくわ。エノラの獲物は最低3頭だって」


 頭をかかえるカザムさんのすがたが目にうかぶけれど、あたしは『魔獣をかる男の人たちの用をすませて帰ってくるだけだと思っていたのに、ほんとに狩りにさんかしてとどめまでさすのね』なんて、ちょっとドキドキしながら狩りの日をまった。


     *


 てっきり馬車で行くんだと思ってたら馬車庫の建屋の前で人数分の馬があたしたちを待っていた。


「何をぼうっとしてるんだ。バギーやキャリオルならともかく普通の馬車で行って間に合う距離じゃないんだからな。全員馬で行くんだ。お前にもちゃんと元気なポニーを用意してあるからな」

「カザムさん! あたし馬なんてのったことありません!」


 夜があけたばかりの街なかにあたしの声がひびいた。

今日のメンバーはいつもあたしにタンレンをつけてくれる人たちばかりだけど、みんなニヤニヤしてダレも助けてくれそうにない。


「ほうら、つべこべ言わずに乗ってみな!」


 いちばん大柄なテネスさんがあたしのうしろにまわって腰の上を両手でつかんで高々と持ち上げる。

もう一人がひいてきたポニーの上にひょいっとおろされてあたしはあわてた。

ポニーって言ったってあたしにすれば高くて……『あれっ?怖くない』ってなんだか、この子のクラの上がすっごくなじむ気がする。


「だろぅ。いつものタンレンにはな、乗馬に要る動きが全部含まれてるんだ。あれだけできてりゃ、何にも怖いことなぞあるわきゃないぞ」


 テネスさんがいつものとびきり人のいい笑顔を近づけるから、あたしの目の前はその大きな顔でいっぱいになった。


「そのダフネはね、お嬢さまが小さな子供の頃乗馬を覚えられた時からの愛馬だったんだよ。一緒に大きくなられたのだがポニーはこれ以上大きくならないんでね、今はたまに会いに来られるだけになってしまった。お前ならまだ1年以上は乗れる筈だから存分に走らせてやって欲しいそうだ」

「そんなだいじな子を」

「飼われてる馬は人を乗せて走ってこそだからね。遠慮は要らない。乗る者が重くなければ並みの馬より良く走るし、きっちりと躾けられているから武技の乗馬術だけでちゃんと乗りこなせる。狩場に着くまでは乗っているだけで前の馬に付いて来るから、その間に要領を覚えればいい。それじゃあ、時間がないから皆行こうか」

「「「「はい!」」」」


 先頭のテネスさんにカザムさんがつづくと、ダフネはカザムさんの馬のあとに付いてかけだした。

大きな馬車だと人の早足くらいしか出せなくて魔獣がいる所まで行くとお昼をすぎてしまって時間がたりないけど、馬にのればその半分ちょっとで着けるからお昼まで狩りをすることができる。

2頭立ての小さなワゴンが1台さいごを走るのは狩りのエモノをのせるためで、今はカラだから無理なく付いてくる。

お昼には魔獣がいない所までもどってゴハンを食べて、そのあと馬車のはやさに合わせて夕方までかけてゆっくりと帰る。

馬だってずっと走らせることはできないから駈足かけあし常足なみあしをくりかえすのね。

常足なみあしの間にはいろいろ話もできるので、ダフネのうしろに2頭ならべた若い使用人さんたちが今日のよていをおしえてくれた。


     *


「さて、探究者の討伐範囲はこの辺りまでだ。ここから先は魔獣が出るが、近場に出るのはキバウサギかトゲオオネズミらしい。獲物が小さいのでここからは徒歩だ。馬と馬車は置いて行くから3人交代で番をしてくれ」

「「「はい」」」


 街や畑地のまわりはいつも探究者がまわっているので魔獣は出ない。

今日はそのすぐ外がわの小さな魔獣が出るところで狩りをするみたい。

3人こうたいの馬の番は、あたしと話していた2人と馬車に乗ってきた1人の若い使用人さんたちだ。

カザムさんとテネスさんがはずれているのは2人が狩りから目をはなさないためで、あたしはまだ番をまかせられないからだろう。


 さいしょは御者役だった使用人さんが馬の番にのこって、5人で狩りに向かうことになった。

来しなのあいだにすっかり馴れてしまったダフネが栗毛くりげの首をすりつけてくる。

なんだかいとしくてかわいくて、思わずその首をだきしめて『行ってくるからね。大人しくまってるんだよ』とささやいた。

魔獣は人しかおそわないけど、人が乗っている馬はまきぞえになることも多いらしい。

なので馬にのるほうが有利でなければ狩りに馬を使うことはないそうなの。

もっとダフネといっしょにいたいけど、今は狩りのほうがだいじなのよね。


「魔獣は人を見ると襲って来るので追う必要はない。大型魔獣が出る恐れもあるから私やテネスから離れないように。今日の獲物は小さいからノルマは10頭以上、エノラはお嬢さまの言い付け通り3頭以上が目標だな」


 ほかの人が狩ったエモノのとどめをさすとかじゃなくて、数は少なくてもあたしもじぶんで魔獣をたおすことがもとめられてるんだ。

明日もよろしくお願いします!

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