第一章 商都の孤児少女 15話 あやしくてわりきれない
初投稿から半月、話はまだまだこれからです。
魔獣におそわれている最中にわきまえがないのかも知れないけど、カザムさんがあんな風にわめくなんて思わなくておどろいた。
でもそのおかげで2頭の魔獣がカザムさんに引きつけられて、うしろのお供さん3人の相手は1頭ずつになった。
魔獣は人が集まっている所に引き付けられるんだけど近くでさわぎ立てられるとそっちへも気が向くそうで、とくに『祟る』って言葉がなぜか効き目があるって言われてるらしいの。
『そういう言葉はいくつかあってね。前衛後衛の分担が決まっている探究者チームでは前衛がそんな言葉を怒鳴って魔獣を引き付けるそうだよ』とタンレンのあいまにカザムさんから聞いたことがあるわ。
はじめの魔獣におびえてたあたしも、みんなのたたかい振りを見てすっかり落ちついてた。
カザムさんは2頭を馬車から引きはなすためにすこし前の方でたたかっていたので、馬ごしにその動きが見える。
あたしはカザムさんの武技に見とれて思わず座席の上に立ち上がってその動きを目で追いつづけていた。
はじめの10頭いじょうに囲まれていたらもっと大変だったんだと思うけど日ごろから武技のタンレンをおこたっていないだけあって、5頭のツノヤマイヌはカザムさんたちのテキじゃなかった。
お嬢さまのことを考えて間違えてもうしろへ抜けさせないケンジツなたたかい方だったから少し時間はかかったけど、気づけば魔獣を見つけてからまだ10分もたっていない。
それから倒した魔獣を馬車のうしろのせまい荷台にのせる方が時間がかかったくらい。
倒した魔獣は肉も皮も骨も使えるのでよっぽどのことがなければ捨ておかない。
もう一つ獣とのちがいがあって『魔獣は血抜きの必要が無い』らしい。
『魔核は魔獣の血が固まったもので、魔窟の中では体が消えて血だけが魔核として残るが、魔窟の外では逆に体だけが残って血は魔窟に戻る』って考えがあるそうよ。
「明日からは当分魔獣肉の食べ放題ね」
動きだした馬車の中でメルノアさまがはしゃいだ声を上げた。
「はい! これだけあればご近所に配っても3日は持つかと」
こたえるカザムさんの声も明るい。
生まれてはじめての魔獣肉なのであたしも楽しみだけど、魔獣におそわれたことはどうでもいいのかと思ったらしばらくして2人の耳うちがはじまった。
出発前にあたしとガザムさんの席がかわったのはなぜかと思ったらこのためなのね。
『怪しいとは思われませんか』
『そうね。こんな所に打ち漏らしじゃなくて群れが現れるなんて普通は考えられないわ』
『おそらくザカイの探究者ギルドにトルボアの手が』
『えぇ。担当区域の切り換わり付近を何日か討伐ルートから外したんでしょうね』
『証拠を集めて追求しますか』
『良いわよ。魔獣の侵入を許したのは確かでも私達が襲われたのは偶然なんだから』
『それでは到底気が済まないのですが』
『商人の戦場はこんな所じゃないって思い知らせればいいのよ』
『そうですね。商いの場でぎゃふんと言わせてやります』
はじめはスキルでしか聞きとれなかったのに終わりのほうはふつうに聞こえかけてたけど、それはいいのかしら。
*
武技のタンレンはずっと続いている。
お嬢さまが言い出したことなので本人か旦那さまから取りやめがなければ、あたしもまわりの人たちも続けるしかない。
こう言うと何だか仕方なくやっているように聞こえるけど、今のところあたしはすごく楽しい。
はじめのうちは子供あいてだってイロハのイをなぞるようにしか教えてくれなかったのが、あたしののみこみが早いのを知ると面白がってかいろいろと教わるようになって今ではすっかり上がったウデマエにカザムさんも目を見はっている。
じつは魔獣を狩ったときのカザムさんの動きが目にやきついて離れないの。
あれを見て、ならってたタンレンの動き一つ一つが何のためにあるのかが分かった気がした。
『あぁ、この動きとこれをつなげればあの時のカザムさんのあの動きになるんだ』って思うと何か教えてもらうたびにワクワクしてしまう。
……なんて言っても『小さな娘にしては』のことだからジマンにもならないんだけどね、あたしがこの武技に向いてるのはまちがいなくて今はただただ楽しくて朝夕のタンレンが待ちどおしい。
つかれててそうじゃない時だってあるけど、そんなのはダレだってそうでしょ。
とにかく『好きこそものの』って感じで、たぶんお祭りの時のドラ息子たちみんなを相手にしても今ならスキルを使わずに勝てる気がする。
もちろん武技が身につくにつれて上がった魔力も使ってのことで、体力だけで勝てるわけない。
孤児院にいるころもほかの子たちよりは魔力が高かったけど加熱や冷却に撃雷や打撃なんて家事のたしになるぐらいの魔法しか使えなかったのに、炎熱に氷結や雷攻とか強打みたいな猛獣や魔獣にもきくような魔法がつかえるようになった。
『もしその上の灼熱や襲雷なんかが使えれば、魔窟の魔獣とも闘えるようになる』ってカザムさんが言ってたけど、カザムさんでもそんな大魔法は何度もうてなくて強い【探究者】とは比べものにならないんだって。
同じ魔法が使えてもその人の魔力の高さで強さが違うのはみんな知ってることで、あたしの炎熱や氷結なんかはまだ大したことはない。
それでも『絶対人に放ってはいけないよ』と何度も言い聞かされた。
もちろんドラ息子たちに会ってもそんな強い魔法を使う気はもともと無くて、前からある撃雷や打撃の力が上がってうまく使えるようになったから負ける気がしないだけ。
それに治癒が使えるようになって少しのケガなら、してもさせても治せるようになった。
これでカザムさんたちがいなくてもタンレンの組手をしてもいいことになったのはとてもベンリなのよね。
孤児院にいたころ、まわりと比べて自分は頭がいいつもりだった。
だから商家に入ってしっかりがんばればほかの使用人には負けないと思っていたけど、メルノアお嬢様を見ていると商いに要るのはあたしの頭じゃない気がする。
カザムさんみたいに店を仕切ったり人を動かすのもむつかしそう。
どれだってできないとは思わないけれど、それに合ったスキルを持つ人にはかなわない。
そう、ここはスキルと魔法がある世界だからそれを全部ひっくるめてはじめて人の力が決まるし、その中でもしごとの向き不向きにはスキルが大事なのよ。
あたしのスキルはすいぶんと珍しいもので、ほかには聞いたことがない。
いったいこれがいきるのはどんな仕事なんだろう。
だいたい音とかそんな物をあやつるのが役立つようなつとめがあるのかな。
今はまったく分からない。
もう二月ちょっとで【資格検定】、受けさえすればタリアンさんはかならず合格する。
そうしたらお嬢さまとタリアンさんの仲をはばむものはなくなるから、声を届けるあたしの役目はおわり。
役目がおわってもお嬢さまの小間使いでいられるかどうかは分からないけれど、今のようすだとすぐに追いだされることもなさそう。
今はまだダレかの声を届けたり追いはぎから身をまもるくらいしか思いうかばないあやしいスキルだけど、小さい時のスキルは育つものだしスキルが1つだけとも限らない。
手先がキヨウな【職人スキル】みたいにカンタンには分からないだけ、わりきれない楽しみがまってると思ってキタイしておこう。
もし小間使いをおはらい箱になっても、何かお嬢さまのためになる役目があるといいんだけど。
これからもよろしくお願いいたします♪




