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第一章 商都の孤児少女  14話 たたっておれについてこい

お待たせいたしました。

ようやく魔獣と魔法の登場です。

と言っても、ほんの序の口でございますが。

 あたし個人のうわさ話も思ったほど長くはつづかなかった。

やっぱりみんな【バクルット家令嬢】のナゾをとき明かしたいからその周りをさぐるだけで、孤児上がりの小娘がどうのこうのなんて知りたい人はほとんどいないんだね。

ただうわさがおさまった後も、みんなに目を向けていたころのままメルノアさまの外出に辻馬車は使われなくなった。

かならず屋根付き一頭立てクーペがよういされ、お嬢さまとあたしが2人用シートにかけて、お供の1人が御者をつとめてもう1人はうしろをかけて来る。

馬車と言ってもずっとは全力で走らせないので人が早足で歩くより少し早いくらいだから、武技できたえているバクルットの使用人なら平気でついて来れるの。


 ナムパヤの市街を出る時は例のキャリッジかもっと大きな四頭立てコーチを出して、3人か4人のお供がつく。

これはウワサのせいではなくて少し前に追いはぎにおそわれたから。

あの時はロクな魔法も使えない食いつめた流れ者たちだったからカンタンにやっつけたけれど、あたしがたまたま--ホントはスキルでちゃんと--見つけなければ身をかくして近づいたヤツにダレかが傷つけられたかも知れない。

もしもそれがお嬢さまだったらとんでもないと、あれからは自前の馬車でお供もふやすことになったのよね。


「メルノアさま。今日は視察の時間がとれず申し訳ありません」

「いいのよ。日帰りで精一杯の距離なのだから無理すれば皆も大変だもの。でもあんなに会議が長引くとは思わなかったわね」

「はい。議長のトルボア様があれほど結論を引き延ばしたのは、お嬢様への嫌がらせに違いありません」


 四頭立てコーチで南の大きな街ザカイまで行ったかえり道。

商家のあいだの取り決めについて話しあう会に出るためカザムさんもいっしょで御者席もいれて6つの席がいっぱいだ。


「ふん、確かにね。祖父の代に隆盛を誇っていたザカイにナムパヤが文字通りの商都として再び追いついたのが父の代で、売上利益どちらも逆転したのが3年前。それ以来差が開く一方なのだから心穏やかではないでしょうね」

「誠に! 商都通商連合会の開催地と議長の座を奪われまいと必死なのが何とも滑稽でしたが、あれは取り上げなくて良いのですか」

「えぇ。もう少しうちが力を付けてからね。別に他家を弱らせたい訳でも市場を独占したい訳でも無い。只これまでの不合理な商習慣や既得権に固執して離れられない人達には退場してもらいたいだけ。トルボア家と1対1なら何の問題もないけれど、悪習に染まった輩は意外に多いから結託されれば万一もあるわ。もう暫く慎重に事を進めましょう」

「そうですね。確かに商権の規模は圧倒的ですが票数はまだ拮抗しています。数年待たずにあちら側の数家は淘汰されるでしょうから票決も確実に押さえられるようになるでしょう」

「それも大事だけどね。こちら側の商家全てが私達の理念を本当に納得しているのかが重要よ。多数派になるためにそこを履き違えたのでは何の意味もないわ」

「はっ! まずは足元の見直しから。それならば親睦会の開催を早めましょうか」

「いぃえ。慌てればあちらを刺激する事になるし、私達のやり方を確実に根付かせるには個別に話すのも大事よ。地道に着実に。お父様のおかげでバクルットはとても若い。時間だけは確実に私達の味方なんだから焦りは禁物よ」

「はははっ。焦りはしませんが、つい気持ちがはやってしまいます」

「ふふっ、実は私も。お互い気を付けましょうね」

「はい」


 なんだかとてもなごやかな感じでひと区切りついたみたいだけど、聞く人によってはとんでもない話よねぇ、きっと。

まぁお嬢さまたちといればこんなのはいつもの事でオドロキもしないけど、そう言えばもうお世話になっていく月もたつのに旦那様と会ったことがない。

バクルット家ではみんなそれが当たり前の顔をしてるので聞いていいことなのかも分からないんだけど、旦那様はいったいどこにいるんだろう。

なんて考えているうちに日がかたむいてあたりが少しずつ暗くなってきた。

まだザカイからナムパヤの半分も来ていないのにダイジョウブなのかな。


     *


 大きな2つの街をつなぐからりっぱな広い道だけど、中間あたりは人里はなれて林や池にかこまれたさびしいところがつづく。

追いはぎや人さらいが出るとしたらこのあたりなので少し馬車の足をはやめて、お供たちやカザムさんも気をはっている。

大きな池の横をぬけてまた林の中に入ったところでガタガタガタンと馬車がとまった。


「ツノヤマイヌの群れです!」

「なんだって!」


 目ざとく魔獣を見つけた御者の声にカザムさんが思わず叫んだ。

ナムパヤのまわりは探究者の人たちがもれなく魔獣を狩りにまわっているので魔獣が入りこむ事はないし、ザカイも同じだ。

とうぜん2つの街をつなぐ道も同じあつかいのはずなんだけど、なぜか魔獣があらわれたのでみんなおどろいているのよ。


「何頭いるんだ?」

「10頭は超えてそうですね」

「狩るしか無いな」

「「「はい」」」


 大昔には魔獣は魔窟の中にしかいなかったらしいけど、何百年か前に世の中のしくみがかわって魔窟の外にも魔獣があらわれるようになった。

魔窟の中では魔獣を倒すと魔核だけを残して消えてしまうけど魔窟の外だと魔核は無くて死骸がのこる。

肉は人をおそう猛獣より美味しいし、骨や皮もかなり高く買ってもらえるらしい。

地上にあらわれるのは【低層の魔獣】だけなので強さは地上の猛獣--トラやクマなど--とそう変らないんだけど、魔獣と普通のケモノとには大きなちがいがある。

『獣は人を見て逃げだすことがあるが、魔獣は確実に向かってくる』

『人に懐く獣もいるが、魔獣は絶対に馴れない』

『獣は地表で繁殖するが、魔獣は魔窟から出てくるだけで繁殖することはない』

『魔獣が襲うのは人だけで、争わない限り獣や家畜が襲われる事はない』

探究者が姿を見せるだけで向かってくるので狩りもらすことがない筈なんだけど、今はそんなことを言ってもしようがない。

ツノヤマイヌは足がはやいので馬車につないだ馬で逃げきることはできないから、カザムさんが言ったとおり『狩ってしまう』しかあたしたちみんなが生きのこることはできないんだ。

今だからこんな風に言えるけど追いはぎの時とちがって、あたしはふるえ上がってた。

魔獣にスキルの音や光がきくなんてぜんぜん思えないもの。


 御者役のお供さんが見つけるより早く、ツノヤマイヌはこっちに気づいていて馬車がとまるとすぐいっせいにこっちへ走りだした。

カザムさんはじめお嬢さまとあたしの他はみんな弓を構えている。

10頭いじょうに馬車をかこまれたくないので、すこしでも倒してしまいたいところ。

ツノヤマイヌがここまでの半分を走る間に何本か矢がめいちゅうし残りは8頭になった。

みんなは弓を下ろしたけどまだ剣は抜かない。

もう少し近づけば魔法の間合いだ。


 たぶん魔法がとくいな探究者ならもっと遠くても魔法が効くんだろうけど、この中ではいちばん強いカザムさんでも『10メートルを超えると魔法は気休めにしかならない』って言ってた。


「バーンジャベリン」

「サンダーボルト!」

「フリーズアップ」

「バーン!」


 カザムさんが炎のヤリを飛ばしたあと3人がさらに近づいた魔獣に魔法を放ち、全員が剣を抜いて守りにつく。

お供さん2人の魔法が同じ魔獣に当たったので3頭減って、のこり5頭が馬車までもう少し。

馬車の後ろがわはしっかりとしたつくりで小さな窓が開いているだけだからお嬢さまを守るためにはすぐにこわれそうな前がわをふせがないとダメだ。

馬は魔獣に襲われないから御者の人が御者台に立って、のこり2人が馬車の左右におり立った。

ツノヤマイヌの攻撃でいちばん恐いのはやっぱり前に伸びたツノらしい。

カザムさんが馬の背を大きくとびこえ、ツノヤマイヌの前に立ちふさがって言いはなった!


「さぁ! 俺をたたって突いて来るがいい!!」

明日もよろしくお願いいたします!

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