第五章 大空の探究少女 4話 夜間飛行.
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地上の魔獣が倒せて嬉しかったのは狩りを始めた頃の話で、延々魔獣狩りを続ける事は能力的にはできるけど正直な話飽きるのよね。
それに持てる魔獣の嵩に限りがあるのでそれ以上は間引き以外の意味が無い。
魔窟なら持ちきれない程の魔核なんてそうそう経験できるもんじゃないけれど、地上での持ちきれない魔獣なら何度も経験してるもの。
夕餉に早めの時間と言ったって流石に終業時間前にバーベキューを始めるのは気が引けるから夕方までは時間を潰さないと駄目なのよ。
だから、今日は獲物の質で勝負する事にした。
獲物は当然大型魔獣で、どれだけ傷が無いキレイな皮を剥ぐかと貴重部位の確保ね。
大型魔獣は何種類も地上に出て来るけど、それぞれの種類で高価な部位が違うのよ。
ある魔獣は大きな牙がそうだし、ある物は長い爪、目の玉が一番高いのだって居る。
皮だけじゃなくてそう言った部位も無傷で手に入れればかなりの収入になる。
最近やっとフィリアスがお勉強期間を卒業して地上でなら誰が見ても一端の狩りが出来るようになったから、近頃は売却時の査定で評価の高い1頭を仕留めた者が夕餉のメニューを決めるとか、そんな風なちょっとした遊び心でマンネリ解消を図ってたりね。
あたし達もかなり目が肥えてその手の目利きも確かになってるから、売却に持ち込まなくても評価は出来る。
同じ大型魔獣と言っても人の勝手な需要の差で種類ごとに評価金額には差があるから金額評価だと狩った魔獣の種類でかなり有利不利に違いが出るし、魔獣の急所の位置で皮をキレイに剥げるかの難易度も変って来る。
その辺りを加味して相対評価にするのか売却金額だけの絶対評価にするかで狩りの仕方も全然違って来るので、まぁ色々とそう言った要素を盛り込んで何とか夕方まで時間を潰した。
そうしてあたし達は飛空艇の組み立て工場へ戻った。
まだ日は高いけど、もうすぐ終業時間だ。
街中じゃないから食堂と厨房設備があって、以前は調理係も常駐してたらしいけど、天下り役員がしたリストラで従業員数が減ったから運営経費も割高になって調理係も削減対象で居なくなったんだって。
今はほとんどが弁当持参で一部の人達が回り持ちの自炊をしてるらしいわ。
中間管理職さんに訊くと以前は屋外で福利厚生の催しもしていたとの事だったので、厨房の備品を探すとバーベキューコンロや焼き網に使い残しの炭まで見つかった。
以前は幾つも並べて盛大な催しだったみたいだけど、今の人数だと3セットもあれば間に合うし炭も残り物で充分。
周辺に幾つも作地があるので狩りの帰りに野菜も分けてもらってある。
勝手にどんどん作業を進めて終業時間には準備万端整えてしまった。
*
終業を知らせるベルが鳴る。
魔力で一気に熾した炭火の上の焼き網に食材を並べる。
野外調理は探究者のお手の物だし、何と言っても魔獣肉は焼くだけで味も香りも抜群なのよね。
中間管理職さんから連絡は行き届いていたようで、魔獣肉が立てる香ばしい煙に誘われるように三々五々従業員が集まって来る。
聞いていた人数がほぼ揃ったところで、ティリオが声を上げた。
「えぇぇ、皆さん。我々の飛空艇に追加の補強作業をしていただいた間に、魔獣を狩ってきました。近くの耕地で野菜も買ってきましたので、食材はふんだんにあります。厨房には酒の類もありましたから、そちらは皆さんの判断でご利用ください。そろそろ肉も良い加減に焼けてきましたので焦げない内に食べましょう。それではぁ……いただきます!」
やっぱりこういう仕切りは大人がしないと、みんな安心して食べれないよね。
最初の肉は全部ステーキカット。
多分誰も大型魔獣の肉は食べた事が無いと思う、普通出回る事がないからね。
魔獣の肉は小さくても美味しいんだけど、折角の大型魔獣なんだから食べた事の無いサイズのお肉を堪能してもらいたいもの。
そこいらから舌鼓と満足の唸りが聞こえてくる。
あたしはクズ肉しか食べれなかった孤児院時代と魔獣を狩って食べる両極端な食生活が物心ついてからのほとんどを占めてるから、この世界の一般的なお肉の味は余り分からないんだけど、記憶にあるA5ランクステーキの類と比べても魔獣肉は遜色ないから、その差は大きいんじゃないかな。
それに魔獣肉が凄いのは、生でも醒めても焦げても美味しい事。
そうそう、魔獣に寄生虫はいないから生肉を食べても全然平気なんだけど、こっちの人は余り生食をしないからその美味しさを知らないのよ。
アルマージのメンバーはあたしが食べてるのを見ておっかなびっくり口にしてから魔獣肉の刺身の虜になってるので、今も全員焼肉を尻目にブロック肉を自分で切り取りながら食べてる。
短刀やナイフを手に大きなかたまり肉を囲んでるのは余り行儀がいいものじゃないから、工場の人たちがちょっと退く感じで見てる気持ちも確かに分かるけど、美味しいんだからしようがないのよね。
工場の人達も食べるのに夢中でほとんど会話も無かったのがお腹も張って落ち着いたのか、少しずつ場も和んで来た。
ここからはチャンクとフィリアスの仕切りでゲーム大会。
ゲームと言ってもややこしいのは面倒だから要はじゃんけん大会よね。
景品はあたし達が狩った魔獣の素材。
それを聞いて場は一気に盛り上がる。
だって大型魔獣の素材なんてほとんど出回らない希少素材で、状態の良い一枚物の毛皮なんて並みの年収なら全部叩いても手に入らないんだから。
皮だけじゃなくて牙や爪とかの貴重部位やブロック肉などを合わせればちゃんと人数分は用意してある。
そんなこんなで盛況の内に幕が下りたバーベキュー大会だけど、工場長と生産総括は最後まで顔を出さなかった。
和気藹々と参加者全員で片付けをして、中間管理職さんに飛空艇の引渡しを頼んだ。
マチアが受領書にサインして、あたし達は追加補強が済んだ機体に乗り込む。
今度は馬達も一緒。
荷物も全部持って来てあるからこのまま一気にチャンク達の故郷に向かう。
多分巡航速度で明日の午前中には着ける筈よ。
*
バーベキュー大会で一気に打ち解けた従業員さん達が見守る中、あたし達の飛空艇は音も無く浮き上がって行く。
高度10メートル辺りから徐々に前進加速を加えそこから左へ旋回。
西日を避ける様に東向きに駐機してくれていたのを目的地への北向きへ方位を変えた。
左斜め下の窓から、工場の敷地で手を振る従業員達が見えた。
初めてのフライトが夜間飛行になるけど誰も心配はしていない。
だって私達アルマージには超高性能の近中距離と中長距離の生体レーダーが2人も居るからね。
それにあたしとマチアが交互に障壁を張ればバードストライクなんてのも起きないし。
只、念の為に高度を標準設定の300メートルから500メートルに上げておく。
魔石の消費はぐんと上がるけど、これで役所の緊急飛空艇とニアミスってのも回避できる筈。
「うぅぅむ、快適だぁ! ガタピシ馬車の旅なんか目じゃないし騎馬みたいに疲れない。そのうち旅の定番になるんじゃないか?」
「単価次第でしょうね。魔石をどんどん消費するから魔石の価格が下がらないと馬車並みの値段じゃ収まらない。それに皆が飛ぶ様になったらチャンクさん達みたいに【探知】系のスキルがなきゃ危なくて飛べなくなるかも知れませんよ」
「あぁ、確かに。鳥みたくそこいら中に飛空艇が飛んでりゃ、目で見えた時には手遅れってのも想像がつくよな」
「チャンク、早く寝ないと知んないよ! 夜中の【目】は大事で、あんたとティリオのどっちかが起きてなきゃ夜は飛べないんだからね」
「おっと、そうだった。相手が全部音を出してりゃあ、エノラもこっちに入れれたんだけどな」
「操縦だって3人で交代なんだから一晩なら大して変わんないって言ったのはチャンクだからね。このまま何も……、うぁイケない! 危うく言っちゃうトコだったわ」
「そぅそぅ。今までそれを言って何度後悔した事か」
そんな会話を操縦席で聴きながら、ナビ役のティリオと目を合わせて苦笑い。
あぁやって考えてるのも、話してるのと同じで変らない気がするよね。
明日もよろしくお願いします。




