第五章 大空の探究少女 2話 ナンセンス.
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敷地内を横切って建屋の出入口目指して歩く。
広い敷地はざっと整地しただけなのかと思ったけど、隣地との境界以外の部分にはちゃんと砕石舗装が施されている。
砕石は砂利と違って表面が粗いからローラーとかで荷重をかけると上手く嚙み合って固まってくれるし、馬の足がかりも良いのよね。
『マカダムはスコットランドの人名だけど、コッチでは何舗装って呼ぶんだろう? 加圧には魔力を使ってるのかな?』なんて考えていると、あっと言う間に正面の出入り口に行きついた。
業務時間内だから当然閉め切られていない正面扉を抜けて中に入ると、特に受付とかは置いていない様で奥に見える扉に【工場事務所】の文字が見える。
この場合ノックをするべきなのか、声を掛ければ良いのか判断に迷うところだけど、こんな時は黙ってマチアとチャンクに任せておけば……ほら。
「工場長でも誰でも良いんだけど、責任者は居るかしら!?」
『ばぁぁぁん!』なんて大きな音はしないけど勢い良く扉を開けたマチアが、チャンクと横並びで大声を事務所に響き渡らせた。
驚いて事務所全体が一瞬固まったみたいに、並んだ2人を凝視する。
10秒以上経ってやっと扉に一番近い席の女性が立ち上がった。
「工場長は来客で席を外しておりますが、どちら様でございますか?」
「ふんっ! 全く販社でもここでもいつも『席を外してる』のね、この会社は!! 私はマチア・バクルット。納期を過ぎた飛空艇の発注主よ! 発注書の契約内容通りに【差し押さえ】をしに来たから責任者を出しなさい」
「あいにく、生産統括も来客と同席しておりまして」
生産統括って多分製造部長をそう呼んでるのよね。
要はここのトップ2が揃って対応しないとダメな先客が来てるって事。
こっちは契約内容の権利を行使するだけだから、別に許可を貰わなくても構わない。
あたしが目配せするとマチアが軽く頷いて話を進める。
「分かった。じゃあ、責任者が居なくても構わないからここの全員話を聞きなさい」
「はい?」
「今から契約内容に記載されている我々の権利を行使して、権利相当分の製品関連の差し押さえを行うわ。ここに居る全員が証人よ。もし責任を取るのが嫌なら今すぐ責任者を呼んで来なさい。3分待って来なければ実力行使するからね。はい、秒読みスタート!」
事務所の全員に聞こえる良く通る声でマチアが宣言すると、それまで横目でボンヤリ聞き流していた従業員達の顔色が変わる。
あたし達はともかくチャンクとティリオが強いのは一目で分かるだろうから、【実力行使】を阻止できない事も一瞬で理解できた筈。
事務所の奥の方に座っていた数人--たぶん中間管理職よね--が慌てて後ろの扉から駆け出て行く。
あたし達は全員事務所の中に入って来客対応用らしいテーブルを囲んで立ち、手持ち無沙汰に工場側の対応を待つ。
3分足らずでさっき数人が出て行った扉が開き、ぞろぞろと男達が入って来た。
先に入った見覚えある中間管理職が扉の脇に立ち、残りの者を出迎える。
続いて入って来たのも3人だけど、明らかに物腰が違う。
あれは人の上に立つ者の仕草だ。
その3人がこっちを見る。
タイムリミット以前に事務所に姿を見せたのはあらましを聴いたからに違いない。
あたし達もここに来てから大した事はしていないから、事務所の皆と情報量にそれ程の差はない。
3人のうち1人が他の2人に頷き掛け、相手が頷き返すのを見て、こっちの方へ歩いて来る。
少し間をおいて残った2人も後に続いた。
「どうも、こちらの不備で御足労いただいたようで申し訳ありませんが、只今大切な来客中でして。それに工場ではお客様対応は受け付けておりませんので、本日は一旦お帰りいただき、あらためて販社の方へお問い合わせ下さい」
言葉は丁寧だが、木で鼻を括った表情があからさまで端から相手をする気は無いらしい。
マチアとチャンクが探究者ライセンスを取り出すような仕草を見せたので、あたしは間に割って入った。
何か理由が無ければあたしがしゃしゃり出る事が無いのは2人共よく分かってるので、チャンクもマチアも半歩下がって、あたしにその場を譲ってくれる。
「発注書には対応部署の記載はないわ。納期遅れの場合の差し押さえについても契約事項として明記されてるけど。それともここは販社とは別会社なのかしら」
「お客様。製造部門でお客様対応をしないのは常識なので記載しておらないだけですよ。ここで横車を押されましても困りますが」
「あら。だって販社には倉庫も製造ラインも無いから差し押さえる物が無いじゃない。差し押さえられるって書いてあるって事は差し押さえができる部門に行っても良いって事よね。出来ない事を書かないのが常識ならこれも常識じゃないの?」
「はあ? そんな屁理屈を言われましても。とにかく本日の対応は無理ですので」
「その大事なお客さまって、そこに居る立派な出で立ちの人の事よね。ねぇ貴方の用件って、契約不履行の対応より重大なのかしら。何の用で来てるか、聞かせて貰えない?」
「ちょ、ちょっと。困りますよ。勝手に他のお客様に話し掛けないで下さい」
そう、あたしの目的はこの御仁を巻き込む事。
そのかなり特徴のある出で立ちは、全く似た所は無くてもヒェロゥム・スァンズ氏やアイベルム・シャムリ氏とどこか同じ臭いがするのよ。
多分この地域の高級官僚に違いないし、それならあたし達の飛空艇が遅れている件に関与していても全然可笑しくない。
だから直接声を掛ける場面を無理に作ったのよね。
「だって、その人の所為であたし達の重大案件が棚上げにされかけてるのよ。ちょっとぐらい話してくれてもバチは当らないと思うわ。ねぇ貴方、そうじゃない?」
「いやはや、言い掛かりもそこまでくれば大したものだが。いい加減にしないと、騒乱罪や強要罪で捕まる事になるよ。お嬢さん」
「あら、捕まる事になるって。ひょっとして貴方、お役人様なの?」
「そうだよ。だから今日は大人しく帰った方が良いと思うがね」
「何故? そんな訳ないじゃない。だってあたし何も悪い事してないもの」
「世の中はね、お嬢さんが思ってるほど優しくはないのだよ。今日は強そうなボディーガードが2人も居るから平気だと思ってるみたいだけれどね。役所から指名手配をすれば、そんなのは何の意味も無い。指名手配は現行犯と同じで、99.9パーセント有罪になるのだ。有罪が決まれば、刑罰も財産没収も我々役人の思い通りだ。それが嫌ならば、とっとと出て行くんだね」
「まぁ、嫌だわ」
「うむ、そうだろう」
「えぇ、出てくのは嫌だわ」
「何だとぉ! その契約番号があれば貴様等が何処の誰かは直ぐに分かるのだ。分かったぞ! 今すぐ連絡を入れて指名手配してやるから、覚悟するがいい」
「良いわよ。その代わり、それだけの事を言ったんだからこっちが良いって言うまで、貴方もここから逃げ出さないでね、お役人様」
「良いだろう。 役所から飛空艇を出して手配書と捕縛要員を送らせるから、そのまま横車を押し続けるがいい」
「うん。はい、どうぞ」
契約書にライセンス証を重ねて目の前にぶら提げてやった。
その名前を見比べて彼の眼が見開かれる。
ライセンスがナンセンスなんて洒落じゃ済まないものね。
「こっちは探究者案件で契約不履行の摘発に来てるんだけど、それでも指名手配するのかしら? するのは勝手だけど、捕縛の遂行は無理だと思うわよ。あたし達、深層最深部の到達記録保持パーティだから捕まえるなら1個大隊は用意してね。多分それでも無理だと思うけど」
まさか年端のいかない女子達が探究者とは思わないだろうから可哀想な気もするけど、このお役人様とあの生産統括さんのなぁなぁな様子が気になる。
何だか役人の息がかかった人事異動とかがあたし達の飛空艇の納期を遅らせてる気がするから、ここはそれに白黒つけてしまわないと駄目よね。
今月もまたよろしくお願いします。
明日もお待ちしております!




