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第四挿話 亡国の小公女  7話 すきまかぜ

今日もお読みいただきありがとうございます。

 伯爵は考えがまとまったのか再びの頷きを小さく繰り返しながら口を開いた。


「よし、まず私がこの戦闘をどうしたいかだが。正直な話、超公爵級のビアストール候を抑え得る人材は我が軍には居らん。彼奴あやつ個人だけならお前達の二重星デュアルスターに私が加われば何とか出来るかも知れんが、伯爵級の両男爵との連携となればこれはもう如何ともしがたい。となれば、敵方にビアストール候を牽制する存在があるかだが、以前ならともかく正式な侯爵となった今、この戦場にそれ以上の爵位を持つ者は1人として居ないだろう。セムリだけでなく、アシュバ軍にもな」

「確かに違いありません」

「ビアストール候を何とも出来ん時点でこの戦場で我が軍の勝利が無いことも確定だな。だとすれば選択肢は2つ。これはどうだ」

「出来るだけ有利な結果に繋がる損耗の少ない敗北を選ぶか、消耗しつつも膠着状態を維持して政治的な解決を待つか、でしょうか?」

「そうだな。そこで出てくるのが?」

「『今回の戦争勃発の経緯』と『セムリ公とビアストールの関係性』です」


 完全に2人だけの掛け合いをその場の全員が凝視している。


「ふぅむ。続けて説明を」

「はい。連合軍は対カンジュ大公国戦の完全勝利を目前にほぼ全勢力をそのまま我が国へ転進させました。これには何か裏があると考えます」

「ほう。それは?」

「セムリがカンジュに攻め入ったのは勿論積年の対抗意識がつのったからでしょうが、きっかけは国内外に人望薄く先代公の血筋を恐れる今のセムリ公がアシュバに唆された、もしくは公からアシュバへ摺り寄ったかで間違いない筈です。では、そのアシュバがカンジュに攻め込んだ理由は何でしょうか」

「領土の拡大ではないのでしょうか?」


 ここで久々にエントレア・フルムズ子爵が声を上げたのに伯爵が応える。


「それならばカンジュから我が国への転進は何の為だったのかな」

「それは既に勝負が決したと見て……」

「まぁ、それも有るだろうがな。思った以上のセムリ軍、いや、ビアストールの強さに転進を切り出すのが遅れた位だと思うのだよ。ランスールはこれについてどう考えるのかな」

「仰る通りでしょう。アシュバとしてはやり過ぎは禁物だった。セムリがカンジュに勝ってしまっては元も子もない。焦りはしたでしょうが、一面都合も良かった。恐らくアシュバは転進の際にカンジュからある種の約定を取り付けたのでは無いでしょうか」

「確かに何も無しにあの場を去るとは考え難いが。約定とは何に対する物かな?」

「思うにあの国が狙っているのは盟主の座なのではないでしょうか。現在の3公国2大公国の5国体制を1つの体制にまとめ上げてアシュバ大公がその盟主の座に君臨する。『君臨すれども統治はせず』等と甘言を弄したのでしょうが、セムリに滅ぼされそうなカンジュはその言葉に縋るしか無かったのでしょう」

「成程な。そう考えればあの際の不可解も霧散するか。セムリ公もその甘言を耳にしたとして、正嫡の存在に悩まされる立場からすれば己が立場さえ守られるなら何を悩む事も無く受け入れたに違いない。だが、あのビアストールならその段階で阻止に動けたのではないのか」

「あれ程圧倒的な戦闘力を持ちながら驚く程筋道に拘るようです、あの御仁。前のセムリ公が亡くなった際、跡を襲うに当たってはビアストール等の顔色を窺って大人しくしていた男が、現セムリ公の座を手に入れた時から掌返しが始まる。だが既に主君の座にある者を武力で排除は出来ない。ましてやまだ自分は侯爵家の当主でもなく、現当主は重篤な病床にある。自分が当主ならばセムリ公と差し違える覚悟も出来るが、病身の父親にそれを迫る事も出来ないまま、戦争が始まってしまった。痛恨の極みだったでしょうが、始まった以上は祖国を負けさせる訳にもいかない。それはもう、後手後手の泥沼でしょう」

「戦場であれだけの働きを見せながら、泥沼で藻掻いていたと言うのか。まぁ確かに最前線に居ながら夜中急に居なくなったり、不可解な行動は多かったらしいが」

「そうなのです。その不思議な行動が我が国からビアストールの矛先を逸らす重要なカギになるような気がするのです」


 伯爵との会話に触発されてランスールはパラメニィが2人の時に避けていた事柄に到達しようとしている。

胸のうちにすきま風・・・・が吹く様で、エナレィシェの名が出る前に遮りたい思いをじっと抑えるしか出来ないパラメニィは『ふうぅぅ』と細く長い息を吐いた。

ここで話が途切れたとしても誰もがいつしかセムリ公女に思い当るだろう。


「しかし今行動の理由が何かを調べていてもおそらく埒が明かないでしょう」

「ふむ。それではどうにもならないではないか」


 パラメニィの思いを知ってか知らずかランスールはビアストール候の行動原理を解き明かす手間暇を惜しんで抜け道を探そうとしているみたいだ。

このまま話題が逸れればこの場からセムリ公女の件が物議を醸す事は無いかも知れない。

軍議の場でなく私的な想起ならばエネレィシェを追い詰めるには至らないのではないだろうか。

祈るような気持ちで夫の発言を見守る。


「何を調べているかは判りませんが、ビアストール候が何かを探し求めているのは間違いいありません。しかもそれは何故か戦場となった国の中なのです。ならば、彼に随行無し単独行動の自由を与えてはどうでしょう? 万が一でも乗ってくれれば我が国はその間、【朱のヴァミリァン三連星トライスターズ】の脅威から解放されますが」

「何を言っているんだ。実に馬鹿々々しい。あぁ、馬鹿々々しいが、馬鹿々々しいだけに下手な考えより成果を生むかも知れん。そうだな、万が一でも良いのだ。ビアストールがその馬鹿になって両男爵と離れてくれれば、いくらでも対処のしようはある。それにビアストールさえその気になれば、それを阻止できる高位者は戦場に存在しないのだ」

「そうなのです。失敗したところで元より万に一つなのですから」

「だが、陣営の策とする以上は少しでも確度を上げる努力だけはすべきだ。それ以前に、実際の方策をどうするのかを決めなければならん。エントレアはどう考える?」

「そうですね。何よりもビアストールがその気にならねば意味が無いのですから、可能な限り良い条件を提示する必要があるでしょう。だが、それが国益を大きく損ねる事は避けねばならない。落としどころが非常に難しいかと」

「具体的に何か案はないか」

「まず絶対条件は単独行動。それさえ守れば公宮および私有地以外での行動および武装完全自由。期限はそうですねぇ、二週間じゅうににちとか」

「何だ、それは。思い付きを口にしているようにしか聞こえないぞ。誰か他に意見は無いか?」


 フルムズ子爵だけでなく、急に振られたところで碌な策が出ない事は分かっているが、概要までは良いとしても具体策まで2人のやり取りで決める訳には行かないのだ。

メトランツ伯爵が目線をフルムズ子爵から外して全員を見回すが視線が合う者は居ない。

少しは考える時間を取らねばと一息吐くと、遠慮がちに軽く手を上げ席に立つ者が居る。


「ほう、アムメッテ男爵夫人。意見が有るなら遠慮は要らんよ。他に誰も手を上げておらんから落ち着いて話せば良い」

「ありがとうございます。それでははばかりながら申し上げます。まず、条件につきましてはナクラ公の許可が必要と思われますので、この場ではナクラ公にご提示する素案の作成と言う事でよろしいでしょうか」

「うむ。そうだな」

「それでは素案作成の前にビアストール候との交渉が可能か、その場合どの様な段取りになるのかを話し合わなければ本末転倒となりかねません」

「ふむ、確かに」

わたくしが思いますに、そのような内容を直接正面切っての交渉に持ち込むのは難しいでしょう」

「ほう、それで」

「まず敵陣営に『最高爵位者との会談』を持ち掛けるべきかと。名目は停戦交渉でも何でも良いと思います。ビアストール候以外はあちらも全て伯爵以下ですから、必然的に戻っていさえすればビアストール候の出席となる筈。こちらも名義人は侯爵様にお願いする必要がありますが、当日は体調不良で伯爵様が代理出席とすれば良いだけの事ですわ」

「成程な。別の名目で呼び出して直接交渉に持ち込むのか」

「はい。そこは伯爵様の腕の見せ所ですわ」


 パラメニィは如才なく笑顔で答えて見せた。

明日もよろしくお願いします♪

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