第四章 大陸の探究少女 25話 トオゲ
本日で第4章完結いたします。
お読みいただきありがとうございます。
山火事の件についてはリゾート施設や鉱床採掘と放火犯との関連性が全く見つけられなかくて、その方面からの起訴はまず無理みたい。
かと言って犯人に放火歴がある訳でもないし精神的に異常なストレスを抱えていた訳でもなさそうで、供述では『山がどんな風に燃えるのか実際に見てみたかった』とだけ答えてその後は完全黙秘を貫いているらしいわ。
この世界に黙秘権と言う正確な概念がある訳でもないんだけど、被疑者にも人権が認められている時点で強制的に黙秘を破る方法も無いのよね。
この辺りの人選からしてもう完全に『いかにも』って感じで、あたし的には首筋を掻き毟りたくってしようが無くなるんだけど、かと言って『じゃあ何が出来るか』と訊かれて何も答えられないのが現実。
『またまたあの上級パーティ【アルマージ】がお手柄』風の掲示が各ギルドを賑わすのが精々で、忸怩たる思いが無い訳じゃない。
『そのうち必ず尻尾を掴んでやるんだから!』ってマチアの言葉は全員の思いを代弁していて、ただフィリアスを一人前にする為だけに集まったアルマージに少し連帯感めいた物が生まれ始めたのかなって最近思ったりもする。
さすがに放火犯の起訴が完了するまで付き合う気にはならなくて、あたし達の供述書の確認とサインが終わった翌朝にはトスカッタを出た。
その後はようやくこれまで通りの魔獣狩りを兼ねた旅程でツフガ最後になる魔窟を目指した。
3つの小さな街を経て着いた魔窟の街だけどその間に取り立てて話す程の事は何も無い。
あぁそうそう、ツフガ最小の魔窟でアルマージは最短踏破記録を24分更新した。
それとフィリアスが初めて補助無しで超大型魔獣を倒したわ。
まだまだ手数が多くて褒められたもんじゃないけど、戦闘系や戦闘補助系のスキル無しだとライセンス取得後の最短達成じゃないかしら。
トスカッタからのギルド通信で放火の件は愉快目的のための単独犯として正式な起訴状が送られたと報告を受けた。
本来の背景や目的は立証できず仕舞いだけれど、あたし達が延焼阻止策を講じなければ甚大な被害を免れなかった点は論理的に構築されたあたしの記述を添えてある。
あれが考慮される筈だから初犯とは言え実刑判決が下るのは間違いない……と、思う。
【バクルット記念福祉院】についてはギルド内の【福祉院】名義の預託口座にあたしとマチアの預託金が振り込まれたばかりで、ようやくギルドによるそれぞれの施設代表の選考が始まめられようとしているところ。
ロムバス総事務長は具体的な仕事がいつ始まるのかやきもきしてるんじゃないかしら。
ソルサイゾのアルマァジ地区に関してはあたしのフローチャート通りキャスリーが【リエゾン】の探究者ギルド担当になって遠距離通話の魔導具で定期的に報告を送ってくれていて、今のところ順調であたしのチャートやコマンドとの不整合も無いみたい。
【先生】や【お婆さん】もあれ以来見違えるほど元気で『若返ったみたいです』なんて言われたけど、この世界であの年代の人が若返ってどうなってるかなんて想像が付かないのよねぇ。
海賊の件についてはヒェロゥム・スァンズ氏から官僚らしくきっちりと定期連絡が入るんだけど、ほとんど進展はない。
その後に起きた事件を思えば、スァンズ氏の能力不足とか怠慢とかじゃなくて、それだけ隠蔽や誘導が巧妙に行われてるんじゃないかしら。
実際、あたし達も事件の背後については全く掴めず終いだもの。
スァンズ氏と言えば飛空艇の件を尋ねておいたら返事があって、マジャンの首都トケアに本社がある企業の製品で、セムリの首都ピアルにも販売支社があると言う事だった。
神都の探究者ギルド経由で旦那様に例の【魔力干渉】の件を調べてもらったら、制御系の差し替え魔導回路を作ってくれると言う。
『飛空艇丸ごと新作してもいいんだが、外見はメーカー品そのままの方が差し障りがないだろ。それに回路と違って飛空艇は小包じゃ送れんからな。ふぁはははは』だって。
偶にしか話さないのに相変わらずこんな感じなのよね。
制御回路はチャンク達の故郷、魔窟の街ラムデクのギルドに送ってもらうように頼んだ。
首都にはギルドが無いし--魔窟のある衛星都市には在るのよ--販社の傍で回路を差し替えてバレたら面倒だからピアルからラムデクまでは純正のままで飛ぶ予定。
ちなみに飛空艇は機体の大きさが3種類、スァンズ氏やシャムリ氏が乗っていたのが小型で最大乗員6~7名、他に11~12名乗りの中型と20名乗りの大型がある。
メーカーに連絡を取って確認すると、中型を6名乗りにして余った部分と荷室を合わせて6頭分の馬小屋にする事は可能だと言う。
その代わり貨物は載らず、手荷物しか持ち込めないけど、あたし達はそれで充分だ。
その改造込みで中型1機を首都販社引き取りで発注と支払いは済ませてある。
*
「北に見えるあの尾根の向こうがセムリだ。あそこに辿り着くまでにあと2泊。はぁぁ、待ちどおしいねぇ」
夜明け前に小さな魔窟の街を出て街道を北へ向かっている。
夜は明けたが東はアルテとの国境の山岳地帯が迫っていてようやく日が昇ったばかり。
馬達が常足で進む街道はまだ山岳の影の中だが、進行方向に見える山々は早くから右半身に朝日を浴びて樹々の緑を輝かせている。
そのコントラストの美しい山々を指してチャンクが誰にでもなく語り掛けた。
ごく自然に応えたのは横を進むマチアでもなく先頭のフィリアスでもない、後ろにあたしと並んだティリオだ。
「あぁ。2人で故郷を出てもう丸3年を超えたからな。今となってはあっと言う間だったが、長いと言やぁ長いわなぁ」
「へぇ。3年も故郷を離れてたんだね」
「うむ。最初の1年でアテメアの南半分を回ってな、色んな魔窟に潜ったよ。中層で大型を確実に仕留めれるようになって護衛任務の募集に応募し始めたんだ。最初は近距離の商人が僅かな金で雇ってくれるだけだったが、段々と長い期間の仕事が回って来るようになった。2年目の後半から外洋航路に乗る商隊に雇われる事が多くなってな。3年目に入った頃にイクァドラット往きの話が舞い込んで来たんだ」
「ふぅぅん。それで商隊の都合で戻りあぐねてる時にあたし達と出会ったのね」
「あの時ゃ、まさかパーティを組むとか全く思ってもいなかったがな」
「うん。お互い様だね。ティリオは故郷に戻った後の事は考えてるの?」
「そうだな。フィリアスが何かおっぱじめるまでは、もうしばらくこのパーティで魔窟三昧も悪かぁないと最近は思い始めてるよ。まぁそのしばらくがどの位になるかを決めんのは俺達じゃなくて、お前とマチアだろうが」
「そうかもね」
魔獣狩りを始めるにもまだ早い。
馬なりに街道を進むだけの気楽なひと時に、普段ゴチャゴチャと掛け合いが煩いチャンクとマチアものんびり馬の背に揺られている。
ただ通り過ぎるだけの筈だったツフガで立て続けにあんなに問題が起きるなんてね。
もうお腹いっぱいだから、あと3日間何も起きずに予定通りセムリに入れるといいな。
*
あれから何事も無く3日が過ぎて生憎のそぼ降る雨の中、馬を降りて国境の峠道に並んでいるのは、セムリへの入国手続きのため。
カゼノム港で入国審査が無かったのはイクァドラットの出国審査と入国審査を兼ねる協定が国同士で結ばれてるから。
当然ツフガとセムリも似た様な協定を結んでるんだけど、船便なら港から港まで航路上のどこで審査をしても問題がないけど、この街道では峠でしか審査が出来ないのよね。
しかも探究者はライセンスを見せるだけでほとんどの審査が省略されるのに、そうでない一般の人達と一緒に並ばなきゃならない。
文句を言える筋合いじゃないのは分かってるけど、何とかしてくれないかしら。
明日から挿話が10日ほど続きますので
よろしくお願いいたします。




